茅葺きを通して、今の暮らしを考える――昔の暮らしを「やってみる」縄文屋根
株式会社縄文屋根 代表取締役 渡辺 拓也氏
茅葺き屋根の修繕や葺き替えを手がける株式会社縄文屋根。個人住宅や文化財の工事を中心に、茅葺き古民家を活用した宿づくりや情報発信にも取り組んでいます。
自らも茅葺きの家で暮らす渡辺氏。ただ伝統文化として茅葺きを残すのではなく、昔の人たちの暮らしを実際に「やってみる」ことで、見えてくるものがあるといいます。
茅葺きとの出会いから、昔の暮らしの面白さ、そして今つくろうとしている場所について伺いました。
目次
茅葺き屋根の仕事を軸に、地域に根差して働く
――株式会社縄文屋根では、どのような事業を展開されていますか。
今は、茅葺き屋根の修繕や葺き替えが仕事の中心です。個人で茅葺きの家に住んでいる方からの依頼が半分以上で、文化財などの公共事業もやっています。
茅葺きの家自体が少ないんですけど、それ以上に職人も少ないので、県外から声をかけてもらうこともあります。仕事としては、一年を通してありますね。
ただ、全国を飛び回って屋根を葺くより、できれば自分が暮らしている地域に根差して仕事をしたい、という気持ちはずっとあります。また、屋根の仕事をしながら、一棟貸しの茅葺き宿の準備もしています。
偶然出会った茅葺きから、昔の暮らしの面白さを知る
――この仕事を始められたきっかけを教えてください。
実は、最初から茅葺き職人になりたかったわけじゃないんです。家業でもないし、子どもの頃から憧れていたわけでもない。本当にたまたま、いろんな縁が重なって、この仕事を始めました。
だから最初から「日本の伝統文化を残したい」と思っていたわけでもないんですよね。
それより、実際に屋根を葺いたり、茅葺きの家で暮らしたりしているうちに、昔の人たちの暮らしそのものが面白くなってきました。
なんで、その辺に生えている草で屋根をつくったんだろう。
なんで地域のみんなで屋根を葺いて、使い終わった茅を畑に戻していたんだろう。
実際に自分でやってみると、そういう疑問がどんどん出てくるんです。「よくこんなこと考えたな」と思うこともあるし、不便だろうと思っていたことが、やってみると意外と面白かったりする。
自宅の茅葺きを復活させたのも大きかったですね。自分たちが実際に茅葺きの家で暮らすようになったことで、「うちも昔は茅葺きだったんだけど、元に戻せないかな」と相談されることも出てきました。
そういう経験をしているうちに、僕自身は、茅葺きって単に「残さなければいけない伝統技術」ではないんじゃないか、と思うようになりました。
むしろ茅葺きを入り口にすると、昔の人たちがどうやって自然と付き合って、どうやって人と助け合って暮らしていたのか、そっちの方まで見えてくる。それを自分でもやってみて、「じゃあ、今の暮らしに使えるものって何かあるのかな」と考える。
僕にとっては、そこが茅葺きをやっていて面白いところなんだと思います。
屋根だけが残れば、茅葺き文化は残ったと言えるのか
――事業を運営するうえで、大切にされていることを教えてください。
これはずっと考えているんですけど、茅葺きって、屋根を葺く技術だけ残ればいいんだろうか、と思うんです。
昔は、屋根を葺き替えたら古い茅を畑に戻していたし、地域の人たちが協力して順番に屋根を葺く「結」という仕組みもありました。屋根だけが単独で存在していたわけじゃないんですよね。
茅を刈る場所があって、屋根を葺く人がいて、古くなった茅を畑に戻して、また作物ができる。そこには地域の人たちの関係もあった。全部つながっていたんだと思います。
でも今は、屋根から下ろした古い茅が産業廃棄物として処理されることもあるし、茅を運ぶだけでも、保管するだけでもお金がかかります。昔は普通に回っていたものが、今は同じようには回らない。
屋根だけ綺麗に残って、茅を刈る場所もなくなって、古い茅を畑に戻すこともなくなって、地域の人たちとの関係もなくなってしまったら、それで「茅葺き文化が残った」と言えるのかな、と思うんです。
だからといって、昔の暮らしに全部戻った方がいい、とは全然思っていません。僕も車に乗るし、スマホも使うし、便利なものは普通に使っています(笑)。ただ、昔の人たちがやっていたことを、頭で「昔はこうでした」と知るだけじゃなくて、自分でも一回やってみたいんです。
畑をやってみる。茅を刈ってみる。縄をなってみる。火を焚いてみる。
やってみると、「なるほど」と思うこともあれば、「これは大変だわ」と思うこともあります(笑)。そうやって身体を使ってみないと分からないことが、結構あるんですよね。
だから、出張を少しずつ減らして、地域に根差した仕事をしたいと思っているのも、その辺りとつながっています。
「知る」だけじゃなく、実際にやってみる場所をつくりたい
――今後の展望について教えてください。
情報発信は、これからもっとやっていきたいですね。そもそも「茅葺き」という言葉自体を知らない人も結構いるので、まず知ってもらうことも必要だと思っています。
ただ、「茅葺きはSDGsです」「環境にいいから残しましょう」みたいなことを言いたいわけではないんです。昔の人は、SDGsなんて考えてないですからね(笑)。
身近に草があるから屋根に使って、古くなったら畑に戻す。それが普通の暮らしとして成り立っていた。僕はむしろ、「なんで、それが普通にできてたんだろう」という方が面白い。今の価値観で昔の暮らしに意味をつけるより、とりあえずやってみる。
そうすると、そこから考えられることがあるんじゃないかと思っています。今つくっている一棟貸しの茅葺き宿も、そういう場所にしたいんです。
正直、屋根の仕事だけでも会社としては成り立っているので、宿をやらなきゃいけない理由はないんです。それでもやりたいのは、自分が茅葺きの家で暮らしてきて感じたことを、屋根を葺く仕事とは違う形で伝えられるんじゃないかと思ったからです。
なので、宿泊施設を運営すること自体が目的という感じでもないんですよね。
茅葺きの家で寝て、火を焚いて、縄をなってみる。
そういうことを実際にやってみて、「あれ、意外と面白いな」とか、「昔の人、なんでこんなことしてたんだろう」と思ってもらえたら、それでいい。
答えを教える場所というより、疑問が増える場所の方が面白い気がしています。
便利な時代だからこそ、身体で感じることを大切に
――最後に、これから大切にしていきたいことを教えてください。
やっぱり「実際にやってみる」ということですかね。
畑もそうだし、茅葺きもそうですけど、頭で知っていることと、実際に身体を使ってやってみることって、全然違うんです。
中学生の民泊を受け入れることもあるんですが、子どもたちと話していると、これからどう生きていくのかとか、将来のこととか、いろんなことを考えているんだなと思います。僕が何か答えを教えられるとは思っていません。
でも、火を焚いたり、自然の中で身体を動かしたり、普段とは違う暮らしをしてみたりすることで、何かを感じたり、考えたりするきっかけにはなるかもしれない。
AIもそうですけど、これから世の中はもっと便利になっていくと思います。たぶん、頭で考えるだけなら、いろんなことをAIが手伝ってくれるようになる。
だったら逆に、身体を使って何かをつくるとか、火を焚くとか、土に触るとか、自然の中で何かを感じるとか、そういうことの意味は今まで以上に大きくなるんじゃないかな、とも思っています。
茅葺きを残すこと自体が、僕の一番の目的ではないんです。
茅葺きをやってみたら、昔の人たちの暮らしが見えてきた。
昔の暮らしをやってみたら、今の暮らしについて考えるようになった。
今のところは、それだけなんですよね。だから、これからも自分でやってみたい。やってみて、「なんで昔の人はこんなことしてたんだろう」と考える。
その中から、「これ、今でも使えるんじゃない?」というものが見つかるかもしれない。逆に、「これは今の方が絶対いいね」ってなるかもしれない(笑)。
どっちでもいいと思うんです。何か一つの答えを伝えるというより、実際にやってみて、一緒に面白がって、そこから問いが生まれる。そんな場所や機会を、これから少しずつつくっていけたらと思っています。