文化と場所をつなぐアートを――株式会社アールアンテルが追求する、長期的な価値を残す仕事
株式会社アールアンテル 代表取締役 田中 孝樹氏
株式会社アールアンテルは、オフィスビルやマンション、都市計画などを対象に、アートの提案から作家の選定、制作・設置までを一貫して手がけています。単に空間を作品で飾るのではなく、その土地やプロジェクトが持つ歴史や文化を踏まえ、長期的な価値につながるアートを提案することを重視しています。本記事では、代表取締役の田中孝樹氏に、事業の特徴や経営に対する考え方、これから取り組みたいことについて伺いました。
目次
土地やプロジェクトの背景から、ふさわしいアートを考える
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
オフィスビルやマンション、都市計画などを対象に、まずアートをどう取り入れるかという提案から入り、作家の選定、制作、設置までを一貫して行っています。コンサルティングに近いところからスタートし、実際に作品が空間に納まるところまで携わるのが主な仕事です。
コロナ禍以降は建築費が高騰し、オフィスビルや開発案件におけるアートを取り巻く環境も大きく変わってきました。そのため現在は、富裕層向けのマンションやホテルなど、空間の文化的な価値をより重視する分野にも力を入れています。
私はもともと、美術館を対象にアート作品を販売したり、美術館と一緒に大規模な展覧会を企画したりする仕事を長く経験してきました。そこで培ったアートに対する専門性を、建築やプロジェクトの世界に持ち込んでいることが、当社の特徴の一つだと思います。
――アートを提案する際に大切にしていることは何でしょうか。
単に空いている壁や空間に作品を飾るのではなく、その土地やプロジェクトの歴史、文化といった特性を考えながら、そこにふさわしいアートを提案することを大切にしています。
好きな仕事を続けるために、経営という道を選んだ
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
若い頃から、自分はあまり大きな会社には向いていないのではないかと思っていました。当初はフランス語の教師になろうと考えていたのですが、留学先のパリでアートの仕事と出会ったことが転機になりました。当時は大学院に在籍していましたが、「これだ」と思い、進路を変えてアートの仕事に入りました。
最初に勤めた会社には約20年間在籍しましたが、その会社が解散することになりました。その後しばらくして、自分で株式会社アールアンテルを設立しました。
――経営判断で大切にしていることは何でしょうか。
単なる装飾ではない、意味のあるアートの仕事をしたいと思っています。そのため、会社を大きくすることよりも、仕事の質を保つことを優先しています。
専門家とチームを組み、企業とアートの世界をつなぐ
――プロジェクトはどのような体制で進めていますか。
大手企業のお客様と仕事をすることが多いため、私に何かあった場合でも対応できるよう、担当者は必ず私を含めて2人以上にしています。案件によっては私以外に6人ほど集まり、7人程度のチームで進めたこともあります。
普段はパソコンやネットを使って資料を共有しながらコミュニケーションを取っていますが、リアルなアート作品を扱う仕事ですから、直接顔を合わせることも大切にしています。月に何度かは実際に会って打ち合わせをします。
私自身がすべてを決めるのではなく、信頼しているスタッフの意見を聞きながら方向性を決め、最終的な責任は私が持つという進め方です。
――一緒に仕事をする人には、どのような考え方を求めていますか。
アートに対する考え方が近いことは大切です。アートも流通する以上、資本主義の仕組みから無縁ではありません。一方で、価格や話題性、市場での評価だけでは測れない価値も当然あります。そうした矛盾を意識しながら、人や社会にとって意味のあるアートとは何かを一緒に考えられる人が理想です。
日本の工芸を背景に、新しい表現を提案したい
――今後取り組んでいきたいことを教えてください。
日本の工芸的な素材や技術、伝統、感性を背景にしたアートの仕事を、これまで以上に取り入れていきたいと考えています。
工芸品をそのまま置くということではありません。日本に蓄積されてきた素材や技術、感性と、新しい作家の表現を結びつけ、現代の空間に合う新たな表現として提案したいと思っています。
私は工芸の振興団体の活動に10年以上ボランティアで携わっており、その中で人間国宝の方々や制作現場を支える職人、作家、研究者など、さまざまな方と出会ってきました。そうしたネットワークも生かしながら、「新しい工芸の現在」と呼べるような提案につなげていきたいです。
――現在感じている課題についてはいかがでしょうか。
大きな課題は、建築費の高騰によってアートの予算が削られてしまうことです。特にオフィスビルの分野では影響を受けています。
一方で、高級マンションやホテルでは、単なる豪華さだけではなく、その場所にしかない文化的な価値や物語が求められるようになっています。そうした空間にふさわしい仕事をしていきたいですね。
アートには、時代や国を超える普遍的な価値があると思っています。日本というローカルな文化の中にも世界につながる普遍性があるはずです。単純な「和風」ということではなく、日本を根に持ちながら現代に通じる、新しい価値を提案していきたいと考えています。
何十年後にも価値が残る、良心的な仕事を
――仕事をする上で、譲れない思いはありますか。
私たちの仕事は、一度作品を設置すると何十年も残る仕事です。そのため、「予算が少なかったから仕方がなかった」と言い訳するようなものは残したくありません。それぞれの仕事に対して、その時できることを精いっぱいやりたいと思っています。短期的な利益や流行ではなく、長期的な価値を持つものを残していきたいですね。
また、良心的な仕事をすることも大切にしています。条件によって良いものをつくることが難しいと判断した場合には、仕事をお断りすることもあります。会社の規模を必要以上に大きくしないのも、仕事の質を大切にしたいという考えがあるからです。
卓球とヨット、仕事とは異なる軸で自分を整える
――休日のリフレッシュ方法を教えてください。
卓球とヨットです。卓球は今も選手として続けていて、全日本大会の予選にも出ています。真剣に取り組むこと自体が面白く、少し工夫しただけで動きが変わることもあるので、日々研究する楽しさがあります。
ヨットも続けていて、小型船舶一級の資格を取得し、仲間たちと船を共有しています。海に出ると自然と人間の関係を強く意識しますし、仲間との信頼関係の大切さも実感します。
単なる息抜きというより、仕事とは別の軸を持つことで、自分と社会、自分と世界との関係を考える機会になっているのかもしれません。卓球でもヨットでも、試行錯誤を重ねながら、その時々の状況に向き合うことを大切にしています。
仕事でも同じように、その土地や文化に向き合いながら、何十年後にも価値を感じてもらえるものを残していきたいです。日本の工芸や感性を生かした新しい表現も含め、これからも自分たちが意味のある仕事だと思えるものを、一つひとつ形にしていきたいと考えています。