介護離職を社会全体で支える――多様な専門家と築く「ケアとともに」の地域連携モデル

一般社団法人けあとともに 代表理事 松本 瑞夫氏

一般社団法人けあとともには、仕事と介護の両立や介護離職の防止をテーマに、企業を支援するため2025年4月に設立されました。医療・介護・福祉をはじめ、士業や組織開発など、多様な専門性を持つメンバーが連携し、企業が抱える複合的な課題にワンストップで対応できる体制づくりを進めています。本記事では、代表理事の松本瑞夫氏に、団体設立の背景や事業の強み、組織づくりで大切にしていること、今後目指す姿について伺いました。

介護離職を防ぐため、多様な専門家が集う

――一般社団法人けあとともにを設立した経緯を教えてください。

2025年は、以前から介護を取り巻く環境が大きく変わる年だと言われていました。団塊の世代が高齢になり、働きながら親の介護をしなければならない人が増えていく。もちろん2025年に突然始まったわけではなく、それ以前から徐々に進んでいたことですが、私自身も共同設立した理事たちも、仕事観や人生観の中で介護を切り離せないテーマとして捉えていました。

2024年から一定のメンバーで、介護離職防止や健康経営、ウェルビーイング経営をテーマに企業向けのセミナーなどを行っていました。ただ、単なる協業ではなく、腰を据えて継続的に取り組んでいく必要があると考え、2025年4月に団体を設立しました。

――事業の特徴や強みはどのような点にありますか。

介護というテーマには、非常に多くの専門領域が関わります。医療、介護、福祉だけでなく、社会保険労務士や行政書士、司法書士、税理士などの知見が必要になる場面もあります。また、制度だけ整えても、社員が会社に相談できる文化がなければ利用されないことがあります。そのため、対話文化や組織づくりも重要です。

当団体には、異なる専門性を持つ理事や提携先がおり、さらに周囲にも協業できる専門家がいます。企業側が課題ごとに専門家を一人ずつ探すのではなく、介護離職防止や仕事と介護の両立支援について、必要な知見をワンストップで提供できる。それが私たちの特徴であり、強みだと考えています。

原点にある家族の介護と「人の成長を支える」仕事

――現在の事業につながる原点についてお聞かせください。

学生時代に心理学やカウンセリングを学んでいました。その背景には、母ががんを患いながら祖母の介護をしていたことがあります。母が体調を崩したのは40歳の時で、私は17歳でした。母が精神的にも厳しい状態にある中で、10代、20代の頃から「心」というものに着目せざるを得なかったんです。

その後、地元の金融機関で12年間営業に携わりました。お客様の話をしっかり聞き、大切な質問をし、その方のためになる提案をする。後から振り返ると、自然とコーチング的なアプローチをしていたのだと思います。部下や後輩を育成することも好きで、人の成長を支援することに関心を持ち続けていました。

営業人材の育成を担当した際には、チームや組織をより良くする方法を学び、社内コーチングや勉強会にも取り組みました。35歳頃から、こうした仕事を生業にしたいという思いが明確になり、37歳で独立しました。

――経営や組織運営で軸にしている考え方は何でしょうか。

一般社団法人けあとともには専門家集団です。理事それぞれの立場も専門性も異なります。私は代表理事という役割を担っていますが、共同で設立したメンバー同士の関係はフラットであるべきだと考えています。

一人のカリスマが引っ張るのではなく、異なる専門性を持つ人たちがお互いを尊重しながら、それぞれの力を発揮できる組織にしたい。全員が主役であり、全員が活躍できるのか、全員にとって良い状態をつくれるのかということは常に意識しています。

同時に、私たちの取り組みが社会や地域にとって価値のあるものなのかという視点も重要です。介護離職防止は、これからさらに深まっていくテーマです。だからこそ、世の中をより良くするために動けているのか、社会的に意味のある取り組みなのかを判断の軸にしています。

尊敬と信頼を土台に、仲間と長く関係を築く

――コミュニケーションで大切にしていることを教えてください。

まず、相手に対する尊敬と感謝の気持ちを持って対話することです。そして、その人自身の力や、一緒に未来をつくっていける可能性を信じること。言葉にするとシンプルですが、愛情を持って接することが大切だと思っています。

ほかにも、すぐに返事をすることや正直に話すことを心掛けています。ただ、正直だからといって相手の感情を考えずに伝えるのではありません。尊敬や尊重を土台に言葉を選ぶことが必要です。

さらに大切なのは、それを続けることです。仲間同士の関係が良くなければ、企業に対して「良い対話の文化をつくりましょう」と伝えても説得力がありません。自分たち自身が良い状態であることが、すべての土台だと考えています。

――今後、一緒に取り組んでいきたいのはどのような方ですか。

単に人数を増やしたいわけではありません。介護離職防止や仕事と介護の両立支援を、自分自身の使命として真剣に考えられる方と連携したいと思っています。社会貢献や地域貢献への想いがあり、私たちが目指している「信頼で育てる地域連携モデル」に賛同してくださる専門家の方々です。

現在は採用という形ではなく、連携を広げています。採用というより、共存共栄や協業という考え方に近いですね。

数字を追う前に、「必要とされる団体」になる

――今後の目標について教えてください。

現時点では、売上などの数値目標は掲げていません。今は数字で測るフェーズではないと考えているからです。

まずは、私たちが介護離職というテーマに対し、「信頼で育てる地域連携モデル」をつくっている新しい団体であることを知っていただきたい。行政や自治体、先進的な取り組みを進めようとしている企業などと連携し、支援する機会を増やすことが、数字以上に重要な結果だと考えています。

――現在感じている課題は何でしょうか。

仕事と介護の両立支援に着手する企業は出てきていますが、中小企業を含めて広く取り組みが浸透していくのは、まだこれからだと感じています。

私たちは企業を直接支援するだけでなく、行政や地域とも連携しながら解決を目指すことが一つのモデルになると考えています。専門家が集まっているため、支援できる体制そのものはあります。

一方で、世の中がその必要性を実感するまでには時間差もあると思っています。それまでに私たちの考えやできることを伝え、実際に選んでいただき、良い解決につなげていく。その実績を一つずつ積み重ねていくことが、今の大きな課題です。

介護離職や仕事と介護の両立は、これからより多くの企業にとって身近なテーマになっていくと思います。そのときに、「けあとともにに相談すれば、必要な専門家とつながりながら一緒に解決を考えてもらえる」と思っていただける存在になることが目標です。必要とされ、選ばれる団体になるために、今できることを着実に積み重ねていきたいですね。 

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