吉成農場株式会社 代表取締役 谷村和紀氏
徳島県鳴門市で育まれるブランドさつまいも「なると金時」。その歴史を250年以上受け継いできたのが吉成農場です。
2023年、同農場は新たな一歩を踏み出しました。10代目代表に就任したのは、異業種から転身した谷村氏。妻の実家である吉成農場を守りたいという想いを胸に、農業の世界へ飛び込みました。
伝統を継ぐだけでなく、農業の未来を切り拓こうと挑戦を続ける谷村氏に、事業への想いとこれからの展望を伺いました。
目次
250年の歴史と現状 ━━ 吉成農場の経営方針
━━ はじめに、現在の事業内容と特徴についてお聞かせください。
私たちは徳島県鳴門市で、さつまいも専門の農家を営んでおります。主に栽培しているのは「なると金時」と「紅はるか」の2種類です。創業は1768年で、私で10代目になります。
事業の柱は生芋の販売ですが、近年は加工品の開発にも力を入れています。特に「冷凍焼き芋」はご好評をいただいており、今後は「焼き芋ジェラート」の販売も開始する予定です。
私たちの強みは、この土地で培われた歴史そのものです。その品質は高く評価され、国内最大級の品評会「日本さつまいもサミット」では最優秀賞をいただきました。長年受け継がれてきた栽培技術と、土づくりへのこだわりの成果だと自負しています。
異業種からの挑戦 ━━ 10代目が継いだ想いと転機
━━ 経営者になられた経緯を改めてお聞かせください。
私はもともと不動産会社に勤めており、人事採用や営業戦略の立案に携わっていました。2020年に妻の実家である吉成農場の後継者が不在であることを知り、250年以上続く歴史が途絶えるのは惜しいと感じ「自分が継ごう」と決意しました。2022年に会社を退職し鳴門に移住、準備期間を経て2023年に代表に就任しました。
━━ 農業を始めて印象に残っている出来事はありますか?
やはり「日本さつまいもサミット」での最優秀賞受賞です。経営面と食味の両面から評価され、戦略と品質の両立が認められたことは大きな自信になりました。歴史に裏打ちされた品質と、私たちの未来へのビジョン。その両方が評価された瞬間でした。
家族で支える経営 ━━ 組織づくりと人材への思い
━━ 現在の組織体制について教えてください。
現在は義父、妻、そして私の3人を中心とした家族経営です。義父は生産現場を担い、妻は経理、私は経営全般を担当することで、バランスの良いチームワークを築いています。
━━ 将来的にどのような人材を迎えたいと考えていますか?
スキルよりも、私たちのビジョンに共感してくれることを重視します。将来の吉成農場を共につくるパートナーとして迎え、いずれは経営を任せられる存在に育ってほしいと考えています。そのためにも、待遇や職場環境を整え、「ここで働きたい」と思ってもらえる企業にしていきたいです。
未来を見据えた事業戦略 ━━ 直販強化とブランド価値の向上
━━ 今後の展望や3年後の目標をお聞かせください。
短期的には、加工品の充実とEC直販の強化に注力します。直販比率は数量では10%ですが、売上ベースではすでに30%を占めています。これをさらに引き上げることで収益性を高めたいです。
3年後には売上を現在の2倍に成長させることを目指しています。農地拡大ではなく、販売単価の向上によって実現する方針です。固定費を増やすのではなく、一つひとつの商品価値を高めて利益率を改善することが鍵になります。
━━ 業界の動向についてはどう捉えていますか?
資材価格の高騰や後継者不足により、なると金時の生産農家は減少傾向です。しかし、私たちにとってはむしろチャンスです。直販モデルを確立し収益を上げることで、離農された農地を引き継ぎ、地域全体を盛り上げる役割を担いたいと考えています。
経営者としての信条 ━━ 目的を見失わず挑戦を続ける姿勢
━━ 経営において大切にしている価値観を教えてください。
私は常に「目的を見失わないこと」を大切にしています。最優先は家族を守ること、その次に吉成農場を永続させることです。株式投資をリスクヘッジとして行っているのも、農業が自然災害と隣り合わせだからです。家族の生活を守る基盤があるからこそ、長期的な視点で挑戦できます。
━━ 最後に、今後の意気込みをお願いします。
250年以上続いてきた吉成農場の歴史を受け継ぐ責任は大きいですが、伝統を守るだけでは未来はありません。時代に合わせて形を変え、新しい価値を創り続けることが、真の継承だと考えています。経営やマーケティングの経験と、吉成農場が誇る最高のさつまいもを掛け合わせ、農業の新たな可能性を切り拓いていきたいです。徳島・鳴門から、世界へ挑戦してまいります。