福祉ICTに「狭く深く」向き合う――現場とメーカーをつなぎ、道なき場所に価値を生み出すみらい福祉
株式会社みらい福祉 代表取締役 田中 正太氏
株式会社みらい福祉は、福祉分野に特化したICTコンサルティングを手がける企業です。福祉施設に対しては、ICT機器の選定や価格交渉、導入後のトラブル対応までを支援する一方、福祉業界向けの製品を開発する企業には、販売方法や製品開発、販路開拓などをサポートしています。本記事では、代表の田中正太氏に、事業内容や経営方針、これからの展望などについて伺いました。
福祉施設に寄り添う、ICT導入の伴走役
――現在の事業内容について教えてください。
当社では、福祉施設とICT開発企業の双方に対して、福祉業界に特化したICTコンサルティングを提供しています。
福祉施設向けでは、ICT機器の導入における価格の適正化から機器選定、導入後のトラブル対応まで一貫して支援しています。この10年で施設のICT化は大きく進み、ナースコールはPHSからスマートフォンへ移行してきました。現在では、見守りセンサーの数値やカメラ映像を端末上で確認できるようになっています。介護記録についても、体温計や血圧計などをタブレットと連携させ、測定結果を効率的に記録できる仕組みが広がっています。
一方、補助金を活用してこうした設備を導入する場合、施設側だけで価格の妥当性や機器の適性を判断することは簡単ではありません。そこで当社が第三者の立場から見積もり内容を確認し、価格交渉や複数業者の比較、デモの日程調整、機種選定まで支援しています。施設側が納得したうえでICTを導入できる環境を整えることが、当社の役割だと考えています。
――コンサルティングを入れるメリットは、どういった点にあるのでしょうか。
大きなメリットは、導入コストを適正化できることと、導入後のトラブルまで含めて対応できることです。
当社は機器の仕入れ販売も行っているため、仕入れ価格を踏まえて見積もりの妥当性を判断することが可能です。さらに、複数の業者から見積もりを取り、内容を比較したうえで価格交渉を行うため、施設側の負担軽減にもつなげられます。
また、Wi-Fiやセンサーは、実際に設置してから接続できない場所が判明するケースもありますが、その際に追加費用を求められても、当初の提案内容で対応すべきものであれば業者と交渉します。契約時の条件と導入後の状況を確認しながら、施設側に不必要な追加負担が生じないよう対応しています。
――創業された経緯についてもお聞かせください。
以前は株式会社日立システムズに勤め、約25年間、福祉向けパッケージソフトの開発や全国への販売に携わっていました。58歳で退職し、それまでの経験を生かして福祉関係のシステムコンサルティングをしたいと考え、2016年10月に創業しました。
開発企業の「売れない」を、福祉業界の知見と人脈で支援
――ICT開発企業向けには、どのような支援を行っているのでしょうか。
福祉業界向けに製品を開発したものの、「思うように売れない」「これからどう販売すればいいのかわからない」という企業へのコンサルティングです。販売方法を一緒に考えるだけでなく、製品そのものについてアドバイスする場合もあり、開発前から相談を受けたこともあります。
福祉業界には、外から参入しただけでは見えにくい独特の障壁があります。特に後発で参入する企業は、よい製品を作っても売り方がわからないケースも見られます。その部分を、長年この業界に携わってきた経験から支援しています。
――企業の販路開拓では、どのような強みを生かしていますか。
長年にわたって福祉業界で築いてきた人脈を生かし、メーカーと販売先をつなげられることが強みです。
新たに福祉業界へ参入するメーカーが、一から営業をしても、なかなか話を聞いてもらえないことがあります。一方で、私から「この会社の製品を一度見てほしい」と声をかけることで、「田中さんが言うなら話を聞いてみよう」と商談につながる場合があります。
私にとって、人脈は大切な財産です。これまで培ってきたつながりを生かし、メーカーが福祉業界へ参入する際の接点をつくることで、製品を届ける機会の拡大につなげられるのが、当社の大きな特徴です。
「狭く深く」積み重ねる、福祉業界での専門性
――事業を展開するうえで、大切にしている方針を教えてください。
モットーは、「狭く深く」です。広さを追うより、専門性と関係性を深めることを重視しています。福祉施設向けの事業では基本的に東京都を中心としており、むやみにエリアを広げようとは考えていません。対象を絞り、そのなかで深く仕事をしていく方針です。
営業でも、毎年同じ対象施設へダイレクトメールを送り、その後テレマーケティングを行っています。地域を広げ続けるのではなく、決めたマーケットのなかで接点を重ねていくことでお客様が増えれば、同じ東京都内の施設同士で当社の実績も伝わりやすくなります。
――経営や仕事において、大切にしている考え方はありますか。
「人がやらないことをやる」ということです。座右の銘の一つに、ラルフ・ワルド・エマソン氏の「道なき場所に、未来の軌跡を残す」という言葉があります。
福祉のコンサルティングというと経営分野が一般的ですが、私はICTに特化し、さらに福祉に領域を絞ってきました。誰もやっていないことに取り組み、それが世の中の役に立つのであれば意味があると思っています。
――今後、力を入れていきたいことを教えてください。
これからも福祉施設向けのICTコンサルティングを続けるとともに、ICT開発企業向けの支援を伸ばしていきたいと考えています。これまでは展示会などをきっかけに相談を受けることが中心でしたが、このサービスを必要としている企業へどう届けるか、その方法も考えていくつもりです。
福祉ICTという「狭い」領域だからこそ、長年培ってきた経験や人脈をさらに「深く」生かせます。施設と開発企業の双方を支えながら、人がまだ歩いていない道に新しい価値をつくる――これからも、そのような仕事を積み重ねていきたいです。