地域の素材とクラフトビールで、新しい価値を生み出す――ケイズブルーイングカンパニーの挑戦
有限会社ケイズブルーイングカンパニー 代表取締役 加藤 秀則氏
有限会社ケイズブルーイングカンパニーは、クラフトビールの製造販売、地域の食や文化を発信するイベント、商業施設内でのリカーショップ運営という3つの事業を展開しています。九州の素材を生かした商品づくりやイベントを通じ、地域に埋もれている魅力を伝えてきました。今回は、創業の背景や経営における判断軸、今後の展望について、代表取締役の加藤秀則氏に伺いました。
目次
九州の素材を生かし、クラフトビールの魅力を届ける
――現在取り組まれている事業について教えてください。
大きく3つの事業を行っています。一つ目はクラフトビールの製造販売です。二つ目は、クラフトビールを広めることをきっかけに始めた、各地のグルメや地域の魅力を紹介する屋外イベントです。私たちはこれを「パブリックリレーションズ」と呼び、企業がPRできるブースなども設けています。
三つ目は、大型商業施設の中で運営しているリカーショップです。全国のクラフトビールをはじめ、日本各地の日本酒や焼酎、一部ワインなども取り扱っています。
――御社ならではの強みや特徴はどのようなところでしょうか。
九州の素材を使った製品づくりが特徴です。当時、日本では国産の果物を使ったビールがまだ少ない中、福岡のイチゴを使ったクラフトビールをつくり始めました。その後、私の出身地である大分県のカボスと蜂蜜を使った製品も開発しました。
その“かぼす&ハニー”が横浜で開催されたビアフェスの人気投票で1位になり、全国のクラフトビールメーカーからも注目されました。各地で果物を使ったビールが増えていったことを考えると、業界に一つのきっかけをつくることができたのかなと思っています。
アメリカでの経験が、創業への道を開いた
――経営の道に進まれたきっかけや、会社を立ち上げた経緯を教えてください。
私は北海道で生まれ、幼少期に大分県へ移り、その後、福岡県の大学に進学しました。就職したのはビールやジュースなどの容器を造る大手製缶会社です。そこで開発部門に配属されましたが、コンピューターで図面を書くような仕事はあまり得意ではありませんでした。
一方で、アメリカにマイクロブルワリーがあることを知り、興味を持ちました。最初は会社に1週間休みをもらって渡米し、その半年後には会社を辞め、再びアメリカへ行きました。1994年から1996年ごろまで、日本に帰って資金を貯めてはアメリカへ行く生活を続け、ビールの製造について学びました。
その後、日本のクラフトビールメーカーに就職しましたが、ブームが終わると業界は厳しい状況になりました。会社の休業や倒産が目につく中で、「人のことを言うより、自分でちゃんと道をつくらないといけない」と思うようになり、自分で会社を始めることを決めました。
――経営判断の軸になっている価値観はありますか。
性格的に、楽な道を選ばないようになっているのかもしれません。クラフトビールメーカーが次々とやめていく時期に創業したこともそうですし、イベント事業も、以前の主催者から頼まれたことをきっかけに引き継ぎました。
商業施設でリカーショップを始めたときも、2021年ごろのコロナ禍のお酒が厳しい状況の中で、大型商業施設の家賃が高い場所に出店するという挑戦でした。振り返ると、三つとも逆風の中での取り組みです。「誰もやらないなら自分でやるか」という感覚が、これまでの判断軸として多かったように思います。
「正解」ではなく「正しい問い」を探す組織へ
――スタッフとのコミュニケーションで大切にしていることを教えてください。
現在は、外部の協力会社が5社ほどあり、社員やアルバイトスタッフが10名ほどいます。業務委託の方には、こちらの意向を伝えて業務をしっかり遂行してもらえているので、とても頼もしい存在です。
一方で、日常的に顔を合わせるスタッフとのコミュニケーションは、年齢差も広がってきたこともあり、難しさを感じています。それぞれが納得できる仕事をしてくれればいいと思っていますが、どこまでできているのかは課題です。
過去の取り組みを、今の時代に合わせて進化させる
――今後取り組んでいきたいことを教えてください。
新しいことを始めるというより、これまでやってきたことを今の時代に合わせて変えていく作業が増えています。直近では、熊本に焦点を当てたイベントに取り組みたいと考えています。
以前、熊本でイベントを開催する予定でしたが、地震によって中止になりました。その後、熊本の食や文化を知ってもらうイベントを九州各地や東京で開催し、2019年ごろまで続けていました。今回、過去に開催したイベントノウハウを再び使い、今年後半から来年にかけて展開する予定です。
これまでも熊本県や大分県、福岡県などの自治体と協力してきました。もともとはビールを広めるために始めたイベントですが、今はビールそのものが主役というより、地域の食や文化を伝える場になっています。そうした取り組みを続けていくことが、直近の使命だと思っています。
――現在向き合っている課題について教えてください。
一般の消費者が想定していることの、少し斜め上をやりたいとずっと思っています。想定内ではないものを生み出すにはエネルギーが必要ですが、「こういうものがあって良かった」と思ってもらえるものをつくりたい。
そのために、他の業界の情報を見て、自分たちの仕事に取り入れられないかと考えることもあります。また、この業界にもっと若い人たちが入ってきてくれたらいいなとも思っています。
正直に、真面目に。小さな課題を見逃さない
――経営の中で、これだけは譲れないという思いはありますか。
一番は、正直に真面目にやることです。ごまかしたり、手を抜いたり、おかしいことをしたりしない。とにかく真面目にやることを大切にしています。
ビールを実際につくっているのはビール酵母です。私たちの仕事は、その環境を整えること。イベントも私が段取りをしていても、現場にいるのは出店者の方々です。リカーショップも、現場にいるのはスタッフです。それぞれが仕事をする環境をつくることが自分の役割だと思っています。
スタッフには「正解ではなく、正問を探しなさい」と伝えています。何が正解かを探すのではなく、まず何が問題なのかを見極める。その上で、正しい問いを探して貢献する。小さなところからおかしい部分を一つずつ潰していくことが大切だと思っています。
――休日など、リフレッシュするときはどのように過ごしていますか。
好きな音楽を見たり、聞いたりしています。また、野球が好きで、特にアメリカのメジャーリーグには興味があります。初めてアメリカのロサンゼルスに行ったとき、野茂英雄選手がアメリカへ来たときには応援にも行きました。
メジャーリーグ球団の方と知り合いになり、東京にあるメジャーリーグの日本法人と仕事をした経験もあります。自分のイベントにメジャーリーグのコンテンツを持ってきたこともあり、仕事なのか、遊びなのか、趣味なのか、全部が混ざっている感じです。
好きなことも仕事も分けすぎず、目の前のことに真面目に向き合ってきたからこそ、思いがけない出会いや仕事につながることもあります。これからも一つひとつの縁や目の前の課題を大切にしながら、自分にできることに取り組んでいきたいですね。