失敗から学び、ゼロから新しい価値を生み出す――「思い出」を未来へつなぐ挑戦
ペイフォワード 代表 志茂村 成生氏
会社経営の経験や営業の仕事など、さまざまな道を歩んできた志茂村成生氏。その中では、事業の成長だけでなく、会社の倒産や売上の減少なども経験してきました。そこで得たのが、「調子のいい時こそ次の一手を打つ」という教訓です。長年勤めた会社で既存事業の衰退を目の当たりにする中、新規事業を模索し続け、やがて「会社の歴史や思い出を物語として残す」という発想にたどり着きました。今回は、これまでの歩みや事業を生み出すまでの背景、挑戦を続ける上で大切にしている考えについて伺いました。
会社の倒産から学んだ「次の一手」の大切さ
――これまでの仕事や、経営に携わるようになった経緯を教えてください。
一般企業に勤めた後、体を壊したことをきっかけに、父が営んでいた家業に入りました。父は雨傘の袋を作る職人だったんです。私が加わってからは袋だけではなく、傘全体を作れる体制に変え、個人事業だった会社を有限会社にして、私が社長を務めるようになりました。
当時はバブルの時代で、ブランドものの傘などが本当によく売れました。そこで会社の規模も広げていったのですが、バブルが弾けると高価格帯の傘が売れなくなり、受注も急激に減っていったんですね。最終的には会社も倒産しました。
この経験から学んだのが、「売上が上がっている時にこそ、次の一手を打たなければいけない」ということです。業績が悪くなってからでは焦りも出ますし、銀行からの信用も変わってくる。追い込まれてから新しいことを始めても、判断を誤りやすいんです。
――その後も、さまざまな仕事を経験されたのですね。
いろいろな仕事をしました。ネットワークビジネスに携わった時期もあり、営業では日本ナンバーワンになった経験もあります。ただ、お金がどんどん入ってくるようになった時、自分自身が変わってしまったんですよ。周囲から「志茂村、変わったな」と言われるくらいでした。
その後、仕事がうまくいかなくなって一気に落ちたことで、「お金が人を変える怖さ」も知りました。良いことも悪いことも含めて、そうした経験が今の自分につながっていると思います。
15年前に感じていた、既存事業への危機感
――長く勤められた会社では、どのような仕事をされていたのでしょうか。
40代で、データ入力やダイレクトメールなどを扱う会社に入りました。そこは本人に仕事を任せてくれる会社で、自由に営業活動ができたんです。信用してもらっている以上、その恩を返したいという気持ちがあり、新規の取引先を積極的に開拓して売上をつくっていました。
一方で、入社して3年ほど経った頃には「データ入力の仕事は将来的に減っていく」と感じていました。紙そのものが減れば、紙に書かれた情報をデータ化する仕事も当然減ります。だから、売上もあり、銀行との信頼関係もあるうちに新しい事業へ動くべきだと提案しました。
ただ、その時は受け入れてもらえませんでした。そこで私は一度引いて、既存の営業に集中することにしたんです。「いずれ仕事が減った時に、自分の出番が来るだろう」と考えていました。
――実際に、その後は市場が変化していったのでしょうか。
4、5年ほど前から、想像していた通り大きな仕事から減っていきました。AI-OCRのような技術が進み、大量のデータ処理は機械で対応できるようになったからです。
会社の売上も落ち、ようやく新規事業を考えなければならない状況になりました。その時、「今こそ自分がやる番だ」と腹をくくったんですね。15年ほど前にできなかったことを、今度こそやろうと思いました。
「0から1」を生み出すため、挑戦を止めない
――新規事業を生み出すために、どのようなことをされたのでしょうか。
メタバースの展示会へ行った際には、その場で企業の方とつながり、代理店として営業できないかというところまで自分で話を進めました。実際に仕事も3件取りましたが、会社として継続することにはなりませんでした。
その後も週休3日制にして副業を認める案や、社外から専門性の高い人を迎える案など、いろいろ提案しました。私自身、給料が下がることも承知した上で考えていましたね。
事業を0から1にするのは本当に難しいんです。1を2、3、4にすることとは違います。私自身、それまで完全なゼロから事業を成功させた経験はありませんでした。それでも、「絶対になんとかする」という根拠のない自信はずっと持っていました。
――現在につながるアイデアは、どのように生まれたのでしょうか。
ある時、テレビを見ていて買取店が増えていることに気づき、「何か売れるものはないかな」と考えました。そこで最初に浮かんだのが、「人の思い出を売れないか」という発想だったんです。
誰にでも人生があり、そこにはドラマがあります。それをテレビドラマや小説などの題材にできないかと考えました。そこから発想を広げていくうちに、「会社にも歴史がある」と気づいたんですね。
会社の歴史を、読まれる「物語」に変える
――会社の歴史に着目された理由を教えてください。
会社には社史本がありますよね。でも、「実際に誰が読んでいるんだろう」と思ったんです。本棚に置かれたままでは、せっかくの歴史がもったいない。その中には、創業者が0から1をつくった時の苦労や、会社にとって大切な出来事が詰まっているはずです。
当時は、社史本をAI-OCRで読み込んでデータ化し、ChatGPTやGeminなどを活用しながら物語にしたうえで、映像化できないかと考えていました。勤めていた会社がデータ入力を得意としていたため、既存事業を活かしながら新しい価値を生み出せると考えたんです。
その後、63歳で会社を退職し、現在は社史本をAI-OCRで読み込む方法ではなく、社長や創業者の方へのヒアリングをもとに、その企業が歩んできた歴史や思いを物語として構成し、AI社史アニメ動画を制作しています。
――新しいことへ踏み出す際に、大切にしていることは何でしょうか。
新しい事業に「絶対成功する」はありませんし、お金をまったくかけずに成功するということも現実的ではないと思っています。それでも、生活の中には新しい事業につながるヒントがたくさんあるんです。
大切なのは、普段からアンテナを張って、「これは面白いんじゃないか」と考えること。そして、思いついたら挑戦してみることですね。
私自身、会社の倒産も経験しましたし、仕事がうまくいった時も、うまくいかなかった時もありました。でも、そうした経験があったからこそ、先を見ることの大切さを学びました。
0から1を生み出すのは簡単ではありません。それでも、自分の可能性を信じて動き続ける。これからも、人や会社が歩んできた大切な歴史や思いを、未来につなげる挑戦を続けていきたいですね。