外資系企業での豊富なマネジメント経験と、数々の企業改革を手がけてきた実績をもとに、現在は株式会社VUILD managementの代表として中堅企業の高収益企業への変革を支援する秋吉氏。
JAL再建を手がけた稲盛和夫氏の理念にも通じる「意識改革」と「収益の見える化」を軸に、企業の本質に向き合う「ボトムアップ型」の伴走型の経営支援を展開しています。
今回は、秋吉氏のこれまでのキャリアを振り返りながら、今後のビジョン、組織のあるべき姿、中堅企業の成長戦略についてお伺いしました。
株式会社VUILD managementの歩みとビジョン
まずは、御社の事業概要についてお聞かせいただけますか。
弊社は「意識改革」と「収益の見える化」を軸に、中堅・中小企業の高収益企業への変革を支援指導する会社です。目指しているのは、経営者だけでなく、社員一人ひとりが主体的に考え、動く自立型の組織づくりです。そのためには、単にKPI(重要業績評価指標)や制度を整えるだけでは不十分です。根底にある人の意識──つまり「なぜこの会社で働くのか」「どのような会社にしたいか」を共に見つめ直すところから始めています。
私自身はExxonの技術者としてキャリアをスタートし、その後は外資系企業で日本法人の代表を務める中で、国内外の経営現場に数多く関わってきました。その中で強く感じたのは、技術や戦略だけでは企業は成長しないということ。
人の力がなければ、いかなる優れた戦略も形骸化します。その想いが、VUILD設立の原点でもあります。VUILDとは活き活き(Vital)とした社会・企業を築く(Build)為の会社です。
多くのコンサルティング企業が存在する中で、御社が特に力を入れていることや、差別化されている点はどこにありますか?どうして「高収益企へ変革」出来るのですか?
いわゆる「指導型」「指示型」の上から目線のコンサルティングではなく、「ボトムアップ型」の支援を行っている点が最大の特徴です。 現場に深く入り込んで経営者と社員の間に立ち、自らの経営者経験を基に、如何にすれば「社員の力の和を最大化できるか」すなわち社員同士が信頼し知恵を出し合う企業風土を醸成する支援を行っている「ボトムアップ型」の支援が最大の差別化です。
制度や方法論を与えるだけでは企業は変わりません。JAL再建を手がけた稲盛和夫氏も最初に取り組んだのは「心の改革」でした。私もまったく同じで、まずは社員の意識、つまり当事者意識を持てる環境をつくることが何よりも重要だと考えています。稲盛氏の有名な教えとして【仕事の結果】=「能力」x「意識(やる気)」がありますが、「意識」は高くなれば自然と仕事の結果は上がり、ビジネスは「個の集まり」ですから「社員の意識」が変われば「ビジネスの結果=収益性」は大きく変わるのです。
「意識」はちょっとした「気づき」と「キッカケ」で変わる為、当社が指導支援すればはどの企業も「3カ月あれば意識改革ができる」のです。
当社は、JAL再建稲盛式と同様は経営手法で、これまで20社以上の企業で営業利益2%以上の改善実績を残しています。その事業の根幹には「数字」と「人」を両立させるという信念があります。
たとえば多くの企業が経営側より月次報告等があっても、他人事であり、収益悪化の原因を製造だとか営業だと責任転嫁が多くあると思います。
企業が自走するためには、社員が「自分たちの数字」として捉えられるようになる必要があるのです。その為に前述した「意識改革」があれば、何故収益が低いのか、どうすれば収益・労働生産性を上げれるのかを各々が真剣に考える、そうした“腑に落ちる変革”を実現するのが、私たちの支援スタイルです。収益改善の際には、稲盛氏の「アメーバー経営」と同じような「ポートフォリオ分析」を通じて製品や顧客ごとの粗利構造を可視化します。単なるデータ分析ではなく、現場で働く社員と一緒に数値の意味を理解し、各自が知恵を出し合い、改善策を考えるプロセスを重視します。 「意識改革」x「収益の見える化」があればどの企業も高収益企業になれると思っています。
秋吉代表のキャリアと価値観
秋吉さんご自身のこれまでのキャリアについて、転機となった出来事などを交えながらお話しいただけますか。
私の原点は技術者です。大学では理工学部に進み、Exxonで重油分解装置の立ち上げを担当しました。世界でも最先端の設備に関わる中で、Exxonの世界技術会議にも参加してバリバリのエンジニアとして活躍していました。
後に外資系企業からのヘッドハンティングを受け、インターナショナルビジネスの世界へ。3人目の子どもが生まれた直後で転職は全く考えていませんでしたが、「その卓越した技術力が我社には必要。力を貸してほしい。インターナショナルに飛び込んでほしい」と半年間説得され、使命に魅力を感じ、挑戦を決意しました。
新たな世界に飛び込んだことで、グローバル企業の組織運営、チームマネジメント、数字に強い経営の在り方を体得することができました。それまで「経営は未経験」だった私も、大原簿記学校に通って財務を学ぶことから始めましたが、2年後にはCFOと対等に議論できるようになり、売上も20億円に伸ばしアジアでのシェア1位獲得等業績も残しました。こうした経験が、現在の経営支援の土台になっています。
私の原体験として、アメリカでの実務で「個の成果よりもチーム貢献度を評価する文化」に感銘を受けたことが挙げられます。今、日本企業が再び成長軌道に乗るためには、こうした考え方がより一層必要だと感じています。 日本企業に足りないのは、「個」の力を信じつつも「組織」としての和を大切にするバランスだと感じています。個人の能力や成果を尊重することと、チームとしての成果を追求することは決して矛盾しません。むしろ、両立できて初めて、組織のエンジンはフル回転すると思っています。
そうしたご経験の中で、経営において大切にしている価値観があればお聞かせください。
「信頼とチームワーク」です。
かつて私が勤めたアメリカ企業では、営業成績をいくら上げても“自分の成果”として誇ることは評価されませんでした。むしろ、「自分がその成果を出せたのは、どれだけ周囲の人々と協力したからなのか」を語れた人が高く評価されていました。
この考え方は今でも私の中に深く根付いています。
組織において何より大切なのは、人と人との信頼です。社員同士が困ったときに自然と手を差し伸べられる関係性がなければ、持続的な成長は実現しません。その土壌をどうつくるか、それが経営の根幹だと考えています。稲盛氏の大事な教えである「利他の心」なのです。
あるべき組織づくりとは
社員との信頼関係づくりや、組織の空気感づくりにおいて、特に大切にされていることは何でしょうか。
社員との関係性において最も重視しているのは、「尊重(リスペクト)と対話」です。
私たちが支援する企業は、少人数から数百人規模の中小中堅企業が中心です。良く「社員同士の信頼(絆)なしに儲ける事は出来ない」と教えています。考えて見て下さい。数十人規模の会社でも悪いのは「xx部」だと責任転嫁及び批判ばかりの組織と「xx部も良く頑張っているが困っているはずだ。我々でできる事はあるはず」と相手へのリスペクトと思いやりがある組織とでどちらが儲かる組織ですか?だからこそ、社員同士の信頼(絆)と知恵を出し合助けあいこそが大事になるのです。
また、組織改革で最も大事にしている事は「あるべき姿(夢)の共有と実現」です。社内で実施するワークショップでは、社員一人ひとりに「5年後、10年後、どんな会社で働いていたいか?」という問いを投げかけます。ここで重要なのは、答えを出すことではなく、カラーで未来を想像すること。それだけで人の意識は大きく変わると思っています。
制度設計や評価基準についても、独自の工夫をされていると伺いました。
はい。私たちは「個人プレーよりチームプレー」を評価する仕組みを重視しています。
例えば、ある会社では、個人の成果だけでなく「どれだけチームに貢献したか」「周囲との関係性をどう築いたか」といった観点を加点対象としました。評価制度にはマトリックス型を採用し、定量と定性の両面からフィードバックができるよう工夫しています。
この仕組みを導入してから、社員同士の連携が自然と強まり、現場の雰囲気も格段に良くなりました。制度と文化の両輪がうまく噛み合えば、企業は自然と前向きに成長していきます。
組織とは「制度」で成り立つのではなく、「空気」で成り立つものです。
どんなに素晴らしい評価制度や目標管理制度が整っていても、そこに社員の納得感がなければ機能しません。逆に、制度が完璧でなくても、互いを信頼し、助け合える風土があれば組織はしなやかに動きます。 私たちはこうした“組織の空気づくり”に最も力を入れています。ある企業では、社内に「ありがとうを伝え合う習慣」が根づいたことで、全体の離職率が大幅に下がり、自然と業績も上がった例があります。

中堅企業の未来と挑戦
日本経済や中堅企業の現状を踏まえ、これからの企業成長に必要な視点について、秋吉さんのお考えをお聞かせください。
今や日本経済の活性化の為に重要なことは、30億〜100億円規模の中堅企業をいかに増やすかだと思います。
物価高上回る賃上げ(6%)ができない中小企業が75%あり、大企業との格差が広がる中で、日本経済の活性化の為には、中堅企業の如何に増やすかが鍵です。政府もようやく本気で中堅企業への具体的支援に乗り出しました。
大型支援策を発表した【大規模成長投資補助金】(補助金上限額50億円)及び【中小企業成長加速化補助金】(1億円以上の設備投資で補助金上限額5億円)です。これを機に大きく成長する為に是非挑戦してほしいと思います。
ただし、補助金はもらうことが目的ではなく、成長の手段です。そのための戦略づくりと経営者の熱意が不可欠です。
成長への挑戦には、採択率は15%程度と厳しい補助金である為に、経営者の覚悟が欠かせません。補助金を活用した設備投資も、M&Aによる拡張戦略も、どれだけ綿密な計画を立てたとしても、“なぜそれを実現したいのか”という原点の想いがブレていては、成果にはつながりません。特に人口減少が進む日本では、「少ない人材で高い付加価値を出す企業」こそが生き残ります。 つまり、業務の効率化と並行して、社員一人ひとりが最大限の力を発揮できるよう支援する。その土台をいかに作るかが問われているのです。
やりがいと経営者へのメッセージ
日々のお仕事の中で、秋吉さんご自身がやりがいやリフレッシュを感じる瞬間はありますか?
やはり、現場で「会社が変わった」「働くことが楽しくなった」といった声をいただいた瞬間ですね。ある企業では、収益の見える化と人事制度の刷新を行った結果、初めて社員に決算賞与を出すことができ、社員が泣いて喜んだという話もありました。こうした実体験が、何よりのモチベーションになります。
最後に、経営に挑戦し続ける読者の方々に向けてメッセージをお願いします。
企業の未来を決めるのは、「設備」でも「戦略」でもありません。「人」です。だからこそ、経営者の皆さんには、「社員をワクワクさせる経営」を最優先に考えていただきたい。
社員が夢を持てる会社は、必ず強くなります。変化の激しい時代だからこそ、社員同士の信頼と挑戦を軸にした経営で、次世代の企業づくりをともに進めていきましょう。私たちVUILD managementは、そうした企業の伴走者でありたいと願っています。
会社の未来を信じる社員を活かす力、それが経営者にとって最も大切な資質だと思います。どんなに困難な状況であっても、「知恵を出し合えば解決できる」「自分たちの会社にはまだ可能性がある」と本気で思える人だけが、人を巻き込み、変革を実現できます。
リーダーの信念が社員に伝播すれば、現場も前向きに動き始めます。そして、その信頼の連鎖こそが、組織を強くします。私は、これからも「人と組織の可能性を信じ続ける経営者」のそばに立ち、その挑戦を支える存在でありたいと心から願っています。