「ただ痩せるだけのジムじゃ、人生は変わらない。」
フィットネスとキャリア教育を融合させるユニークなコンセプトで注目を集めるのが、株式会社CareerDirection代表の坂田航樹さんです。TBSという安定したキャリアを捨て、パーソナルジムとクリエイティブ事業を立ち上げた彼の背景には、運動を通して人の思考と生き方を変えていきたいという強い想いがあります。
本記事では、事業の軸や独自のサービス設計、組織づくりに込めた哲学、そして自身の人生を賭けたビジョンまでをたっぷり語っていただきました。
目次
ジム×キャリア教育。唯一無二の価値提供とは?
現在の事業内容について教えてください。
大きくは2本の柱があります。ひとつはフィットネス系で、恵比寿にあるパーソナルジムの運営、企業向け健康経営支援、そしてトレーナースクール。もう一つが映像制作やスチール撮影などのクリエイティブ事業です。
今はジム運営に一番リソースを割いていて、そこの完成度を高めることで他の事業にも波及していくと考えています。元TBS社員という背景もあり、クリエイティブはプロデューサー的な立ち位置で案件を動かす形が多いですね。
多くのパーソナルジムがある中で、貴社の強みはどこにありますか?
一番の強みは「習慣化支援」に特化していることです。
多くのジムが短期集中を売りにして依存関係を築くのに対し、うちは「自立」をゴールにしています。お客様が理論から理解し、日常生活に取り入れられるよう200本以上の動画教材や1000ページ超の栄養資料も活用して指導しているんです。
さらに、マッサージやピラティスを含む総合的な評価・指導も特徴です。専門資格を持つトレーナーが在籍しており、社内研修を通じて全体のスキル底上げを図っています。ガチガチに固まった体にはまず緩めるアプローチを入れつつ、段階的に鍛えるという順序で提供しています。
学びの内容もかなり専門的なようですが、どのような理論を教えているのでしょうか?
物理学や解剖学の視点から、姿勢や動きの意味をロジカルに伝えています。
例えば「手の位置はここ」「体幹を使え」ってよく言われますが、それってなぜ?って言われると答えられない人が多い。そこを「こういう筋肉がうまく使えないと日常でこういう不調が出る」「スクワットを正しくやると○○が改善される」「物理的に、この方向にてこのストレスがかかるから、手をこの位置にしてください」といったように、腹落ちする形で理解してもらうことで、内発的モチベーションをあげてもらえるように尽力しています。
肩書きよりも、“自分らしい選択”を─TBSで得た学びと、新たな一歩
TBSへの入社を決めたきっかけを教えてください。
大学時代はバスケットボールに打ち込んでいたこともあり、「仲間と一緒に何かを成し遂げる」ことに強く惹かれていました。
TBSのインターンで模擬番組制作に参加させていただいた際、その空気がまさに“チームスポーツ”そのものだったんです。企画から撮影、演出までを仲間と一丸となって取り組む経験に、これまで味わったことのない高揚感を感じました。
就活の軸が明確にあったわけではありませんが、「ここでなら、自分の得意なチームプレーが生かせる」と感じたことが入社の決め手でした。
実際に働く中で、どのような学びがありましたか?
TBSでは、放送という大きなプラットフォームの中で多くの経験をさせていただきました。
特に大規模な番組制作やプロジェクトを通じて、現場で求められるスピード感、調整力、そして“伝える力”の重要性を肌で学べたことは、今の仕事にも確実に生きています。
また、さまざまな立場の方々と関わることで、物事の多角的な見方や、組織内での信頼構築の大切さにも気づかされました。大手企業だからこそ経験できたプロフェッショナリズムや、社会の仕組みの一端に触れられたことは、今も財産だと感じています。
その一方で、「新たな道に進みたい」と感じた理由は何だったのでしょうか?
入社当初は右も左も分からず、とにかく目の前の仕事に全力で取り組んでいましたが、1年目の冬頃から「この先、自分はどうなりたいんだろう」とキャリアについて考えるようになったんです。
その流れで、以前から興味のあったボディメイクの大会にも思い切って挑戦。2年目には実際に出場し、自分自身と向き合う大きな経験になりました。心身の変化がそのまま自己肯定感につながって、「やりたいことを、もっと自由に選んでいいんだ」と感じられるようになった。それはまさに、自分の人生を自分で選び直す感覚でした。
TBSで得た経験や人とのご縁には感謝しています。
でも、当時の僕にとっては、より個人の想いをダイレクトに形にできる環境に飛び込みたい、という気持ちが強くなっていた。
そうして、徐々に自分の軸が“個人の可能性”にシフトしていったんです。
退職は大きな決断だったと思います。迷いはありませんでしたか?
もちろん、簡単な決断ではありませんでした。ただ、副業として始めていた活動が少しずつ形になり、「キャリア教育としてのフィットネス」の可能性に気づいて、そこに本気で挑戦したいと思うようになりました。
何よりも大きかったのは、「自分のやりたいことを見つけられた」という気づきでした。
大企業のネームバリューや安定にとらわれず、自分の手で挑戦してみたい。そんな想いが芽生えたことで、「誰かの人生に良い影響を与えるような仕事がしたい」という目標も、自然と見えてきたのだと思います。
「キャリア教育としてのフィットネス」という考え方はどのように生まれたのですか?
自分自身、フィットネスを通じて「人からどう見られるか」ではなく「自分がどうありたいか」で行動できるようになりました。それが人生の意思決定を大きく変えてくれた。
実際、ジムのクライアントでも「パーソナルトレーニングを受けて転職した」「副業を始めた」という方が多数いて。
インタビューをしてみると、「見た目が変わって自信が着くのはもちろんですが、小さな積み重ねで大きな成果につながる経験も仕事も同じ」「体の健康がないとやりたいことをやれない」「心の健康がないと、前向きに世界を見ることができない」などの声もいただけました。
フィットネスって、自分の医師で、自分の人生の舵を取る“きっかけ”になれると確信しました。だからこそ、会社名も「CareerDirection」にして、「人生のコンパスとしてのジム」を体現したいと思ったんです。

“主体”を大切にする組織づくりとは?
社内文化として大切にしていることは?
「パーパス経営」と言われるように、価値観に基づいたマネジメントを徹底しています。
うちでは“バリュー”を中心にすべてを動かしていて、怒るときも褒めるときも、すべてバリューに基づいています。
Slack上でも社員同士がバリューに沿った行動を評価し合えるようになっていて、四半期ごとに「ベストバリュー賞」も設けています。
採用はどのように行っていますか?
今のところは完全リファラル採用です。
僕が運営していたトレーナースクールの卒業生や、かつて一緒に学んだ仲間、合宿で出会った方々など、自分の価値観を共有できる人ばかり。
採用基準としては、「フィットネスの価値をどれだけ自分の言葉で語れるか」。
技術や知識は後からでも学べますが、根本的にこの業界に対する思いや信念がないと続かない。
だから採用面談も4時間飲みながら話し込むくらい、丁寧に見極めています。
組織運営で心がけていることは?
「会社がロールモデルであるべき」というのが僕の持論です。
「社員が心も体も健康的に働けていること」こそが、社会に価値を出す前提条件。
そのために1on1も週に8人やったりしていて、正直、大変ではありますが、充実した毎日を楽しめています。
でもそれくらい、自分たち自身がまず幸せな働き方をしていないと、お客様に対して嘘になる。そう思って向き合っています。

フィットネス業界の“再構築”へ。描く未来
今後、どのような展開を考えていますか?
大きく4つの方向性があります。
ひとつは、ジムの教材をオンライン化して、金銭的・地理的に通えない人にも学べる環境を整えること。
次に、採用を目的としたトレーナースクールの再始動。
そして、今後の本命は「サステナブルなジム運営」と「健康経営」の2本です。
ジムはただ鍛える場所ではなく、顧客の習慣と意思決定を変える場として、トレーナーの働き方や提供価値もどんどんアップデートしていくつもりです。
健康経営については、どのように進めていく予定ですか?
企業へのトレーナー派遣を通じて、マッサージや姿勢改善、セミナーなどを提供していますが、これらは表面的でしかないと考えています。これからは、現在作ってきている資料や動画教材、開発中の習慣化支援のアプリを利用して、従業員の健康習慣の改善まで持っていこうと考えています。
日本の企業では健康状態の悪さが生産性に直結しているのに、それが放置されているのが現状。僕らが持つ現場ナレッジを武器に、福利厚生を超えた「経営戦略」としての健康支援を提案していきたいです。
坂田航樹という人間─「高速PDCA」と「主語は自分の原点」
プライベートでのリフレッシュや趣味は?
今はゴルフにハマってます。
シミュレーションゴルフでスイングを分析して、動画や数値をみながらPDCA回すのが楽しくて仕方ない(笑)。
ノーションに改善点を書き出して、毎回試しては修正していく──完全に遊びの中での高速PDCAです。
昔から考えることが好きだったんですか?
はい。小中の頃は勉強にハマっていました。
理由は2つあって、兄たちが塾に行ってて憧れたのと、いじめられていた自分にとって結果が絶対評価される勉強は唯一の逃げ場だったから。
努力すれば成果が出る、誰にも邪魔されない。
その実感が、自分にとっての安心であり成長の土台だったんだと思います。
最後に、これから挑戦しようとしている人たちにメッセージをお願いします。
「経営者こそwant toを大事にすべき」だと思っています。
我慢することを努力と呼ぶんじゃなくて、自分が夢中になれることに全力を注ぐ。
経営者が誰よりも前線で走っていたら、自然と人はついてくる。
大げさな覚悟じゃなくて、目の前の一歩を自分の意志で踏み出す──その繰り返しが、きっと道になると思っています。