経験を力に変える仕事論――人と組織を動かす現場主義の流儀
合同会社ichinoya 代表 福島 一俊氏
合同会社ichinoyaは、企業の成長や組織づくりを支援するコンサルティングを行っています。代表の福島一俊氏は、三菱商事での長年の経験を通じて、現場に根差したマネジメントや組織と人材の育成を実践してきました。現在は、その経験と人脈を活かし、企業同士をつなぐ支援や、経営者への助言を行っています。本記事では、福島氏が大切にしてきた考え方や、仕事を通じて見えてきた組織づくりの本質について話を伺いました。
人と組織をつなぐ仕事の原点にあるもの
――現在取り組んでいる事業内容を教えてください。
現在は、企業に対してコンサルティングや営業面での支援を行っています。具体的には、経営や組織づくりに関するアドバイス、企業同士の紹介やマッチングなどを通じて、事業が円滑に回るようお手伝いしています。
自分自身が長く企業に身を置いてきた経験があるので、現場の状況や経営者の悩みを踏まえながら、必要な人や情報をつなぐ役割を担っています。
――合同会社ichinoyaを立ち上げた経緯を教えてください。
三菱商事に入社して以降、国内外のさまざまな事業に携わり、多くの子会社の経営や現場運営にも関わってきました。若い頃から常に現場に身を置き、現場で実際に起きていることを自分の目で確かめる経験を重ねてきたことが、今の考え方の土台になっています。
三菱商事を卒業後は、ITエンジニア派遣企業の上級顧問として活動する中で、これまで培ってきた経験や人脈を、より自由な立場で活かしたいと考えるようになりました。
そうした経験を重ねる中で、65歳を迎えたタイミングで会社の規定によりその会社の常勤顧問は退任し、これまでの経験を活かす形で合同会社ichinoyaを立ち上げました。現在は、これまで築いてきた人脈や経験をもとに、自分を必要としている企業を支える立場として活動しています。
――他社にはない強みはどこにあると感じていますか?
強みは、これまでの経験の積み重ねと人とのつながりだと思っています。
三菱商事時代には、組織の中でどう人が動くのか、人を動かすのかを実体験として学びました。またその中で得た人脈は、今も大きな財産です。
自分自身が前に出るというより、相手にとって何が一番良いかを考え、適切な人や情報をつなぎ常に人を、組織を動かすことを大切にしています。
現場を知ることで見えてくる組織の本質
――組織を動かすうえで、意識してきたことを教えてください。
これまでの経験を振り返ると、組織を動かす上で一番大切だと感じているのは「現場を見ること」です。本田宗一郎が唱えた「現場・現物・現実」
若い頃から、さまざまな業界に携わる中で、困ったときに助けてくれたのはいつも現場の人たちでした。特に印象に残っているのは、現場に足を運び、そこで働く人の話を聞くことの大切さを教えてもらった経験です。
会議室で数字を見ているだけでは、本当の課題は見えてきません。店舗や現場に行き、実際に何が起きているのか、何に困っているのかを知ることが、すべての判断の出発点になります。
また、組織を動かす上では、トップが率先して動く姿勢も欠かせません。言葉だけでなく行動で示すことで、初めて周囲が動き始めると感じています。これは、山本五十六の「やって見せ、言って聞かせてさせて見て、褒めてやらねば人は動かじ」
現場で得た気づきをもとに全体を見渡し、必要な手を打っていく。その積み重ねが、組織を前に進める力になると考えています。
特に商社時代の半分弱、5回ほど他社出向してこのうち社長業3回、専務営業本部長1回経験しましたが。その内、3回は赤字部門または赤字会社の再建で。いずれも小売業でしたが、この時、黒字化に向けての答えは全て現場にありました。本社の会議では出てこなかった話が現場ではたくさん出て来て。
そもそも赤字企業の幹部ってなぜ赤字に陥ったのか、その理由をきちんと理解してないことが多い。話を聞くと、「今までと同じように努力してるが、突然売れなくなったんですよ」等言い。それで会議で話を聞いていると、その苦境を脱するために「気合と根性で頑張れ」みたいなことばかり言ってて。世の中の流れが変わった、トレンドが変わったから、旧来と同じ努力をしててもダメだということに気づかない、あるいは認めない。それが現場に出向くと、日頃お客様に接している店長以下、お店の人はその理由を理解してる。ところがそういう話を本社にしても聞いてくれない、と言われることが多かったです。
それで私が自ら現場に出向き、売れなくなった理由、お客様の志向がどう変わったかを丹念に聞きそれに対応する新たな策を立て実行したら、いずれも1年以内に黒字化できました。
人間でも体調悪かったらまずは健康診断受けてその結果を真摯に受け止めて。悪い所に目を背けず、それを改善するための努力をしないと良くなる訳がないという単純な話。でもそんなはずはないとか言って、自分の体(会社)の悪い所を認めない人って結構いるんですよね。赤字の会社ってみんなそうでした。幹部が過去の成功体験に囚われ、時代やお客様の志向が変わってもそれを認めず直視せず。逆に現場の社員はそれを分かってる。なのでそこにメスを入れると面白いように業績回復しました。
経験を活かし、人と企業を支える
――現在はどのような形で企業を支援していますか?
現在は、多くの企業の顧問のような立場で関わることが多いです。営業の進め方や組織の在り方について意見を求められることもありますし、取引先を紹介することも多いです。
特定のやり方を押し付けるのではなく、その会社に合ったやり方を一緒に考えることを大切にしています。
――支援を行う中で、特に意識していることは何でしょうか?
常に意識しているのは、「部分最適」ではなく「全体最適」で物事を見るということです。
物事の一部だけを見て良くしようとしても、全体としてうまく回らなければ意味がありません。目先の数字や一部の現象にとらわれるのではなく、会社全体が長く健全に続いていくかどうかを考えるようにしています。
経営者だけでなく、現場で働く人たちが無理なく力を発揮できる環境をつくることが、本当の意味での支援だと考えています。
好奇心を原動力に、これからも関わり続ける
――今後取り組んでいきたいことを教えてください。
これからも、困っている企業や人がいれば力になりたいと考えています。
特別な目標を掲げるというより、目の前にある課題に一つずつ向き合いながら、自分にできることを続けていきたいですね。
――日常の中で大切にしていることはありますか?
日々意識していることは、3つあります。
ひとつは「好奇心」を持ち続けること。年齢に関係なく、世の中の変化や人の考えに興味を持ち続けたいと思っています。2つ目は「常にアンテナを張り最新の情報を集め、関係者と共有し次の打ち手を考えること」。周囲で何が起きているのかを知り、自分なりに整理して周囲と共有して議論する姿勢を大切にしています。そして3つ目は「人様とのご縁を大切にすること=人対人の信頼関係構築」です。
多くの先輩方から学んできたように、出会いを大切にしながら、少しでも誰かの役に立てる存在でありたいと考えています。
また、自分自身が過去何度も経営トップとして人や組織を動かし、ミッションの達成を実現してきた中で原点となったのが、社会人になる直前の春休みに、実家の書棚で見つけたデール・カーネギーの名著「人を動かす」。ここで紹介されたアメリカの鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの墓碑に刻まれた言葉。「己より優れた者を身辺に集むる術を知る男、ここに眠る」。将来自分もこうありたいと願い、これまでの長い社会人生活を過ごして来ました。
(今にして思うと、これは亡父がわざとこの本を、就職前の私が書棚で見つけやすい所に置いておいたのかもしれません。。)