「観光協会は、いつかなくなってもいい」——阿見町の“稼ぐ力”を住民と共に育む、地域活性化の新たな形
一般社団法人あみ観光協会 専務理事事務局長 岩波 達弥氏
茨城県阿見町で観光振興と地域経済の活性化に取り組む一般社団法人あみ観光協会。専務理事事務局長として実務を統括する岩波達弥氏は、「観光協会は、なくなってもいい存在であるべき」と語ります。その言葉の裏には、地域の人が主体となって稼ぎ、動く仕組みをつくりたいという強い想いがありました。阿見町の現在地と未来像について話を伺いました。
目次
観光物産館「ami colle!(アミコレ)」から始まる地域経済の循環
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
私たちのミッションは、阿見町の観光振興計画を町や関係団体、住民とともに達成し、地域経済を活性化させることです。大きな柱は2つあります。1つは、「あみプレミアム・アウトレット」内に10月にオープンした観光物産館『ami colle!(アミコレ)』の運営です。アウトレットには年間約300万人の方が訪れますが、これまでは買い物を終えるとそのまま帰宅してしまう方がほとんどでした。その方々に阿見町の特産品を手に取ってもらい、地域にお金を落としていただく仕組みを作っています。
もう1つは、単なるプロモーションに留まらない「稼げる仕組みづくり」です。例えば、300万人の方が町でプラス1,000円ずつ使えば、それだけで30億円の経済効果になります。この可能性を形にするために、周辺地域と連携したツアーの企画や、体験型のアクティビティ開発に注力しています。
――特産品の販売において、大切にしている戦略はありますか?
実は、最初から阿見町の商品だけで店を埋めつくすことは難しいので、まずは県内の人気商品も並べてお店を賑やかにすることで、お客様に選ばれる店舗づくりを意識しています。それを見た阿見町の事業者さんが「自分たちの商品も置きたい」「新しい商品を開発してみたい」と、意欲を燃やすきっかけにしたい。地域の皆さんの熱量を引き出す「意欲醸成」の場として、この観光物産館を育てていきたいと考えています。
観光は「経済を救う道」。28年のキャリアで見出した、地域の動線を変える喜び
――観光という仕事を選ばれたきっかけは何だったのでしょうか。
私の出身は千葉県鴨川市なのですが、幼少期は観光客で賑わい、商店街も活気がありました。しかし、観光客の減少に伴い、電車の本数が減り、お店がシャッターを閉めていくのを目の当たりにしました。「観光がもたらす経済効果は、地域を維持するために不可欠だ」と大学生の頃に痛感したのが原点です。
旅行会社で28年間、様々な経験を積みました。かつて感染症の流行という想定外の事態の中で数十校、数千人規模の修学旅行を実施直前に全面的に組み替える経験をしました。行程や受入体制を一から見直し、前例のない形を関係者とともに作り上げる中で、「どうすれば実現できるか」、環境の変化や課題に向き合いながら、柔軟な発想で仕組みをつくり、形にしていくことに喜びを感じてきました。その後一度は観光業を離れましたが、やはり「観光による地域経済の維持・活性化」に関わりたいという思いが勝り、縁あってこの阿見町にやってきました。
「考える組織」への脱皮。出向者や企業からの派遣職員が、成功体験を持って帰れる場所に
――組織運営で意識していることを教えてください。
現在の事務局は、町からの出向者や国の制度「地域活性化起業人」を活用した企業からの派遣など、多様な背景を持つメンバーで構成されています。私が最もこだわっているのは、「彼らに自ら徹底的に考えさせること」です。トップダウンで指示を出すのは簡単ですが、それでは組織としての強さが生まれません。
彼らの多くは2〜3年で元の職場に戻ります。だからこそ、ここで「自分で企画したものが形になり、喜ばれる」という成功体験を積んでほしい。正直、人材育成には苦労もありますし、私の指示を忖度されてしまう距離感の難しさも感じていますが、彼らが出向元の町や会社に戻った時に「あの経験が活きている」と思えるような、そんな組織でありたいと願っています。
町の人が主役となり、阿見町が「100の体験」で溢れる日に
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
来年度は、旅行業への本格参入を予定しています。目的は旅行業で稼ぐことではなく、町の皆さんが参画できる「プラットフォーム」を作ることです。例えば、「レンコン作りを教えられる」「ブルーベリーを収穫できる」「魚をさばける」といった、町の人たちが持っているスキルをアクティビティ化して販売したい。
究極的な私の夢は、観光協会がなくなっても回る地域を作ることです。町の事業者や住民の皆さんが、自分たちで仕組みを作り、自走して稼げるようになれば、観光協会として立派なオフィスを構える必要はなくなります。今はそのためのアドバイザーであり、成功事例の「ロールモデル」を作る役割だと自認しています。竹灯籠作りやマフィン作りの体験など、小さなチャレンジを積み重ねて「これなら自分たちでもできる」と皆さんに思ってもらえる仕掛けをどんどん作っていきます。