採用を「属人性」から「仕組み」へ -フレンドツリーが目指す採用の「再現性」-
株式会社フレンドツリー 代表取締役 多田 友樹氏
医療・介護・福祉、とりわけ保育領域では「人が足りない」「応募が来ない」という課題が慢性化しています。株式会社フレンドツリー代表の多田友樹氏は、求人広告による応募獲得から、応募直後の初期対応、面談内容の記録・分析まで、採用の一連を“属人化させない仕組み”として提供することに挑んできました。現場の疲弊を目の当たりにしてきたからこそ語れる、採用のリアルと「再現性」へのこだわり、そして組織づくりの考え方について伺いました。
目次
応募獲得から成約までを一気通貫で支える
――まず、御社の事業内容を簡単に教えていただけますでしょうか。
当社を一言で表すなら、採用の「応募獲得から成約まで」を、再現性のある形に整える会社です。採用はどうしても「できる人」に結果が寄りやすく、担当者の力量差がそのまま成果差になってしまう。人材紹介事業でも同じで、売れるキャリアアドバイザーとそうでない人の差が極端に出やすい。だからこそ、個人の技量に頼りきらない“仕組み”として提供したいと考えています。
具体的には、入口として求人広告(求人広告サイト ふれツリ転職相談 https://www.friendtree.net/)による応募獲得支援があります。応募が入った瞬間に、求職者へ素早くアプローチできるよう、初期連絡を自動化する仕組み(SaaS)も開発/提供しています。求職者との面談/面接では、録音から議事録作成、求職者情報の要約までを自動生成し、情報の抜け漏れを減らす。さらに会話データをもとに「どこが良い・悪いのか」「なぜ成果差が生まれるのか」を見立てられるように、分析・育成につながる新サービスも開発を進めています。
――採用支援の中でも、特にどこに価値を置いているのでしょうか。
当社でも採用代行やコンサルティングも行っていますが、“人が入って支えるだけ”だと、ノウハウが個人に紐づいて途切れてしまうことがあります。担当者が異動・退職すれば、またゼロに戻る。だから「会社に残る仕組み=再現性の実現」として、採用プロセス全体を支える発想を強めてきました。
再現性を軸に、医療・介護・福祉の課題へ挑む
――事業を始められた背景には、どんな課題意識があったのでしょうか。
事業としての出発点は2020年8月です。当時私は、保育園を全国で約100園運営する会社で人事部長として、年間約450人の保育士採用に向き合っていました。保育や医療介護福祉は人手不足が深刻で、そもそも応募が集まりにくい。現場が疲弊していく様子も、強い課題として感じていました。
最初は社内のために、現在の「応募者獲得支援サービス」をつくったのがスタートです。結果として応募数が増え、採用単価は3割下がり、採用担当はもちろん現場の負担も一定軽くなった。だったら、この仕組みを自社だけでなく他社にも提供すれば、少しずつでも業界は良くなるのではないかと考え、外販を始めました。
――現在は、どの領域の支援が中心ですか。
現在の軸は医療・介護・福祉で、特に保育士、看護、介護、栄養士、医師、薬剤師などが多いです。一方で、SEやブルーワーカー、タクシー運転手など、領域自体は幅広く支援しています。ただ、私自身が新卒で介護現場を経験し、その後に人事領域へ進み、起業した経緯もあり、医療介護福祉は最も“現場の痛み”がわかる業界だと感じています。
私が大切にしているのは、「この人だからできる」ではなく「誰でも一定の質のサービスまでできる」に寄せることです。全員が100点でなくてもいい。でも全員が65点以上取れる人が増えれば、組織は確実に強くなる。その「再現性」を仕組みでつくりたいのです。
失敗から掴んだ「他力本願」という経営観
――起業へ踏み切ったきっかけを教えてください。
若い頃の私は「全部自分でできる」と思っているタイプでした。
ただ、180°考えが変わる出来事が起こります。20代半ば、新卒で入った介護業界で新規事業の立ち上げを任されていた頃、私は今振り返ると強情で、思いやりの無い“強すぎるマネジメント”をしていました。結果として一緒に働く仲間からの信頼を失い、事業としても結果を出せなかった。そこから人事の立ち上げに回され、人と組織に向き合う経験が深まり、今の事業にもつながっています。
この経験を経て得た私の座右の銘は「他力本願」です。言葉の印象はマイナス要素が強いかもしれませんが、私にとっては「自分にできないことを認め、互いに支え合う」という意味でこの言葉を座右の銘としています。
会社はRPGのようなもので、それぞれ得意な職業(能力)がある。社長が全部できる必要はないし、むしろ“できない前提”で設計した方が強い。私は「0→1」をつくるのは得意でも、「1→100」を回し続けるためには仲間の力が必要だと思っています。だから一緒に働く仲間をとても頼りにしています。安心して背中を任せられる心強い仲間たちです。
――仕事をする上で、実現したい夢はありますか。
私は世界を変えたいなど壮大なことを掲げるタイプではありません。せめて私の手の届く範囲――社員、家族、クライアント、その周辺の人たちを大事に支えたい。その輪が少しずつ広がった結果として、世の中が良くなるならうれしい、という考えです。
肩書よりフラットさ、試行錯誤を歓迎する組織づくり
――現在の体制はどのようになっていますか。
現在はフレンドツリーと別にもう2社へ出資し、合計3社を並行して経営しています。社員は業務委託も含めると合計で15人前後です。フレンドツリー自体は少数精鋭で、マーケと営業・運用を中心に回しています。人材紹介を担う会社、採用支援やSaaS販売を担う会社もあり、それぞれ役割を分けています。
また、あえて私は3社すべての会社で代表を兼務するのではなく、もともと社員だったメンバーに代表を任せています。会社が1つなら社長は1人ですが、2つ作れば2人経験できる。関わってきた人に、成長の機会を手渡したい思いがあります。
――コミュニケーションで意識していることはありますか。
組織づくりで大事にしているのは、物理的距離はあってもコミュニケーションの距離を縮めることです。当社は基本在宅ワークを中心にしてますが、社内コミュニケーションはツールも活用しています。たとえばバーチャルオフィスのように、近づけば声をかけられる環境があると、在宅中心でも「話しかけやすい」状態がつくれます。小さな工夫ですが、日々のやり取りのストレスを減らせると思っています。
採用で言えば、能力ももちろん大切ですが、自主性や挑戦できるタイプの方と働きたいですね。致命的でなければ、まずやってみる。失敗してもそこから学べばいい、というスタンスです。肩書で呼ばせないのも同じで、「社長」と呼ばれるのはあまり好きではないです。今は社員のみんなは「多田さん」と呼んでくれています。
会社名のフレンドツリーの由来も、実は私の名前「友樹」です。父は「人間は1人では何もできない。友達が集まる木になれ」という意味で名付けたように、私の会社もそんな仲間の集まる企業でありたいです。
「応募が来る前提」が崩れる時代に、データベースを武器にする
――今後、取り組んでいきたい挑戦はありますか。
今後の大きなテーマは、再現性を“形”にしていくことです。新しい領域へ派手に広げるというより、医療介護福祉の採用課題の解決に向けて、必要なツールと仕組みを積み上げていく。その最終目標が「再現性」です。
その上で今私が危機感を持っているのは、応募単価が上がり、求職者を集めにくくなる流れが強まっていることです。労働人口は減る一方で、必要とされる医療/介護現場は増える。エッセンシャルワーカー領域はAIが進んでも無くなりにくい。にもかかわらず「来月も同じ単価で同じ応募が来る」と無意識に前提を置いてしまう企業は少なくありません。
さらに問題なのは、高いコストで獲得した応募者を“その場限りの情報”にしてしまっていることです。連絡が取れなかったらそこで終わる。でも求職者の応募データと会話のログは、本来企業にとって資産になり得ます。ところが、ラベリングや管理、ナーチャリングなどのCRMが追いつかず、活用できていないケースが多い。
だからこそ当社は、「応募と会話を無駄にしない」をテーマに、データベースを一元管理し、活用できる状態をつくる仕組みにも力を入れています。「応募は来て当たり前」という前提は、これから崩れていく可能性が高い。だからこそ今のうちから備えられる企業が、採用でも強くなると考えています。
サッカーのパパコーチとして、子どもたちに残したいもの
――お休みの日の過ごし方や、リフレッシュ方法を教えてください。
休日は少年サッカーのパパコーチをしています。長男と次男がサッカーをやっていて、私はサッカー競技経験がないのですが、仕事だけではなく子ども達と何かしらの関わりを持ちたいと指導員資格や審判資格を取って活動しています。ボランティアチームなのでもちろん報酬はありませんが、子ども達と過ごす時間は結果的にすごくリフレッシュになっています。
――経営以外で、情熱を注いでいることはありますか。
子ども達に「社会性」や「自分で生きていく力」を身につけてほしいという思いがあります。これからはVUCAの激動時代で、課題に向き合い考え、解決していく力が必要になる。コミュニケーションもそうですし、お金のことも、日本では学ぶ機会が少ないからこそ、目の前の子ども達には伝えたい。資本主義の現実を知るだけでも、選択は変わると思っています。
自分にできること・できないことを受け入れながら、仲間と役割を分け、「再現性」の仕組みで前に進む――採用も経営も、そんな積み重ねで形にしていきたいと思います。