子どもたちの“知らない不安”をなくす──性教育の空白に向き合う挑戦
一般社団法人CFTいとしま 代表理事 田川 郁恵 氏
子どもたちが自分の体を理解し、適切に守れる社会を目指して活動する一般社団法人CFTいとしま。学校現場での授業や講演を通じて、性や生理に関する正しい知識を届ける取り組みを行っています。本記事では、事業の背景や立ち上げの想い、組織運営、今後の展望について伺いました。
目次
子どもから大人へ広がる学び──体を守るための教育事業
――現在の事業内容について教えてください。
子どもを対象にした教育事業を中心に活動しています。生理に関する知識や、男女と区別をつけないお友達との関わり方、自分の体を守るために必要なことを伝える内容です。単なる知識としてではなく、「自分の体をどう扱うか」という視点で届けることを大切にしています。
学校にゲストティーチャーとして伺い、授業という形でお話しする機会が多いです。生理の仕組みだけでなく、その背景にある体の変化や心の動き、困ったときにSOSを出す大切さまで含めて伝えています。話を聞いた子どもたちが「知らなかった」「聞けてよかった」と安心した表情を見せてくれる瞬間があり、そのたびにこの活動の意味を実感します。
公民館などから依頼をいただいて講演を行うこともあります。特定の団体と契約しているわけではなく、必要としてくださる場所へ出向く形です。現場ごとに反応は違いますが、「もっと早く知りたかった」という声を聞くたびに、この分野の情報不足を強く感じています。
また、子どもだけでなく保護者や教育現場の方からの相談を受ける機会も増えています。知識がないことで不安を抱えたまま過ごしている方が多い現状に触れるたびに、正しく知ることの大切さを改めて感じます。単発の授業で終わらせるのではなく、日常の中で自然に話せる環境を広げていく必要があると考えています。
原点は“誰にも聞けなかった不安”──経験から生まれた使命感
――事業を始めたきっかけを教えてください。
私自身、子どもの頃に初めて生理が来たとき、誰にも相談できませんでした。親にも相談できず、どうすればいいのか分からないまま、自分なりに対処するしかなかったんです。不安や戸惑いを抱えたまま過ごした記憶は、今でもはっきり残っています。
一緒に立ち上げたメンバーも同じような経験をしていて、「あのときの自分たちのような思いを、今の子どもたちにはさせたくない」と何度も話してきました。相談できる環境があれば、もっと安心できたはず。その想いが、この活動の出発点です。
当時は、恥ずかしさや周囲の目を気にしてしまい、自分の中に抱え込むしかありませんでした。誰かに聞けるだけでどれだけ救われただろうと、今振り返ると思います。だからこそ、子どもたちが一人で抱え込まなくていい環境をつくりたいという気持ちが強くあります。
――経営という形で活動を広げた理由は何だったのでしょうか。
「生理の貧困」が社会問題として取り上げられたことが大きな転機でした。それまで個人的な悩みだと思っていたことが、多くの人に共通する課題だったと知り、強く背中を押された感覚がありました。
声に出せない人が多いテーマだからこそ、誰かが動かなければ変わらない。そう思い、活動として形にすることを決めました。小さな一歩でも、必要としている人に届くなら意味がある。そう信じて、ここまで続けています。
社会の中で少しずつ話題にはなってきていますが、実際の現場ではまだ十分に届いていないと感じる場面も多くあります。だからこそ、目の前の一人に確実に届けていくことを大切にしながら、この活動を続けています。
自主性で動く2人のチーム──無理なく続けるための仕組み
――組織体制について教えてください。
現在は2人で活動しています。それぞれが仕事を持ちながら関わっているため、限られた時間の中で役割を分担しています。全員が仕事も、子育てもしているので、日々の生活とのバランスを取りながら進めている形です。
――チーム運営で意識していることは何ですか。
誰か一人に負担が偏らないことを大切にしています。それぞれ得意なことが違うので、「できる人がやる」のではなく、「やりたいことを活かす」意識で役割を決めています。やらされている感覚があると長く続かないので、自分の意思で関わることを何より重視しています。
同じ目標に向かっているからこそ、無理に管理しなくても自然と動ける関係性ができています。お互いに補いながら進んでいく感覚に近いかもしれません。
――どんな人と一緒に活動したいと考えていますか。
自分の意見を持ち、自分で自ら考えて動ける人です。このテーマは誰にとっても必要なものなので、性別や立場は問いません。同じ方向を見て走れる人となら、より大きなことにも挑戦できると感じています。
子どもから現場へ──“教える側”を支える新たな挑戦
――今後の展望について教えてください。
これまでは子どもへの教育が中心でしたが、今後は先生や両親を中心に大人への教育にも力を入れていきたいと考えています。実際に授業を行う中で、先生方から「初めて知った」という声を多くいただきました。そのたびに、教える立場の人にも学ぶ機会が不足していると感じています。
最も子どもにとって一番身近な大人は先生です。その先生が正しい知識を持っていれば、日常の中で自然に伝えていくことができます。だからこそ、教育現場そのものを支える取り組みが必要だと考えています。
現在は、たくさんの方が気軽に学べる環境づくりを進めています。いつでもどこでも学べる形にすることで、時間や場所に縛られずに知識を届けたいという想いがあります。
また、企業や高校での研修機会も広げていきたいと考えています。必要としている人は確実にいるので、その声に応えられる体制を整えていきたいですね。
現場で子どもたちと向き合う中で、「もっと早く知りたかった」という声を何度も耳にしてきました。その言葉をこれ以上増やさないためにも、届ける側の土台を整えることが欠かせないと感じています。目の前の一つひとつの機会を大切にしながら、必要な場所へ確実に広げていきたいと考えています。
声にならない課題に向き合う──“いないからこそ自分たちがやる”
――大切にしている価値観を教えてください。
この分野には、前に立って発信する人があまりいません。内容的にデリケートな部分が多く、体験を語ることに抵抗を感じる方も多いからだと思います。
だからこそ、「いないなら自分たちがやるしかない」と感じました。実際に困っている人がいるのに、その声が表に出てこない状況は変えていきたい。誰かの代わりではなく、自分たちの経験として伝えていくことに意味があると考えています。
――リフレッシュ方法について教えてください。
子どもと過ごす時間が一番のリフレッシュです。何気ない会話や日常の中で、気持ちが整っていく感覚があります。ひとりの時間では映画を観たり、お笑い番組を見て思いきり笑うこともあります。笑うことで、また前向きに進もうと思えるんです。
まだまだ伝えきれていないことがたくさんありますが、一つひとつ丁寧に届けていきたいと考えています。これからも、誰かの不安に寄り添いながら、自分の体を大切にできる人を増やしていけるよう、活動を続けていきます。