笑顔が広がる介護を目指して――小回りの利く支援と働きやすい仕組みづくりで地域の困りごとに応えるEmidelの挑戦
株式会社Emidel 代表取締役 松田 聡史氏
熊本で訪問介護事業を手がける株式会社Emidelは、高齢者介護と障害福祉の両方に携わりながら、特に障害のある方の外出支援に力を入れている事業所です。大手事業者では対応しきれない突発的な依頼や、日常生活のなかで生じる細かな困りごとに向き合い、小回りの利く支援を積み重ねてきました。本記事では、代表の松田聡史氏に、現在の事業内容や創業の経緯、今後の展望などを伺いました。
目次
取りこぼされた困りごとに応える、小回りの利く支援
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社は訪問介護を行っていますが、主には障害のある方への支援、特に外出支援に力を入れている事業所です。高齢者介護と障害福祉の両方に対応していますが、利用者様のお話しを聞いていくなかで、特に困りごととして多かったのが、急な通院や外出など突発的な依頼でした。定期的な支援は受けられていても、「急に病院へ行きたい」「たまには出かけたい」といった場面で、なかなか対応してもらえないケースがあるようです。そこに応えていくことが、当社のスタート地点でした。
熊本では、利用者数の多い事業者が受けきれない案件が数多くあります。そうした状況において、当社は大手が取りこぼした支援を一つひとつ拾い上げるようにして実績を積み重ねてきました。現在は、そうして関わってきた利用者様からの紹介も増え、特に営業活動をしなくても定期的にご相談が入ってくるようになっています。
――御社の強みはどのような点にありますか。
一つは、福祉運送に対応できる点です。採算性を考えると、もともとは実施しない考えもあったのですが、利用者様との契約時に直接お話しを聞くなかで、移動手段がないことが大きな困りごとだと実感したため始めました。
熊本では公共交通機関が使いにくい地域もあり、市をまたぐ移動などでは特に不便が生じやすいんです。そうした地域特性も踏まえ、移動支援まで含めて対応できる体制が、当社の強みになっています。
異業種から介護の世界へ――偶然と必然が重なった創業
――この仕事を始めたきっかけを教えてください。
もともと介護業界一筋だったわけではなく、以前は生鮮食料品を扱う小売業で働いていました。店長やSV(スーパーバイザー)として店舗運営や経営に関わる立場を経験していた一方で、母が訪問介護事業所を運営していたこともあり、どこかで福祉の仕事との接点は感じていました。
転機になったのは、前職を退職したタイミングのできごとです。その頃、同業の会社で引退を考えている経営者がおり、「事業を引き継いでくれないか」という話が届きました。母の事業との関係もあり、そこに偶然が重なるようにして、現在の事業を引き受ける流れになりました。
現在は、別会社として母の事業も引き継ぎながら運営しています。
「縁ある人を笑顔にしたい」――理念を支える組織づくり
――社内で大切にしている考え方を教えてください。
最も大切にしているのは、「縁ある人を笑顔にしたい」という理念です。これは以前勤めていた会社でも大切にされていた言葉であり、私自身が深く感銘を受けた考え方でもあります。
利用者様を笑顔にするのは、直接関わるヘルパーの役割です。だからこそ、経営者として私が力を入れるべきなのは、一緒に働くヘルパーや従業員が笑顔で働ける環境をつくることだと思っています。
また、この考えは社名にも反映されています。「Emidel」は造語で、「笑みが出る」という想いを込めたものです。「当社の存在そのものが関わる人の笑顔につながるものでありたい」という意志を、社名の段階から一貫してご提示しています。
――仕事をするうえでの目標はありますか。
大きな夢を掲げるというよりも、まずはみんなが安心して働ける安定した会社をつくることが目下の目標です。働く人たちの生活をきちんと守れる状態で経営を継続していくことを、何より大切にしています。
また、会社は経営者一人の力では続きません。トップダウンに頼るのではなく、一人ひとりが考え、動き、問題解決ができる会社にしていきたい――そのために、1950年代に石川馨教授が提唱した『特性要因図(フィッシュボーン図)』(結果(特性)と、それに影響を与える要因(原因)を魚の骨のような図で体系的に整理するフレームワーク)をもとにした考え方も取り入れながら、社員が自ら課題を見つけて解決していく風土づくりを進めています。
――社員の主体性を引き出すために工夫していることはありますか。
例えば、会社の仕組みや現場の課題について、社員やスタッフから積極的に意見を出してほしいと伝えています。「おかしい」「変えてほしい」と思うことがあれば声に出してもらう、また実名で言いにくい場合は、無記名でも意見を出せるような仕組みも用意しています。
みんなで会社をつくり、みんなで仕組みをつくる――この発想は、組織を持続させるうえでも重要な視点です。「私がいなくなっても回る会社にしたい」という考えのもと、ボトムアップ型の組織づくりを進めています。
高齢者が高齢者を支える社会へ――これからの介護のあり方を見据えて
――今後の理想像や課題について教えてください。
今後の介護業界で必要だと考えているのは、助けを必要としている高齢者を、元気な高齢者が支える社会のかたちです。これから先の15~20年ほどはそうした構造が現実的であり、理想的でもあるのではないかとみています。
実際、当社では年齢を問わず働ける環境を視野に入れており、日常生活の延長にあるような支援であれば、短時間からでも関われる余地があると考えています。食事の準備や、掃除、買い物といった、日頃誰もが行っている生活支援の仕事は、今後ますます必要になる一方でである反面、取りこぼされやすい領域でもあります。だからこそ、「1日1時間でも、週に1日でも構わない」といった柔軟な関わり方で、支える側にも無理のない働き方を提供していきたいと考えています。困っている人を支えながらも、働く側にとっても無理がなく、少しでも生活の支えになる――そんな循環をつくることが、今後のビジョンです。
一方で、足元の課題も明確です。利用者様からの依頼が増えるなかで、登録ヘルパーの確保が追いついていない部分もあります。また、事業の成長スピードに対して、社内の仕組みづくりが後手に回っている点も課題となっています。
これらの解決に向けては、現在は情報共有の仕組みづくりや業務のデジタル化を進めており、生成AIの活用も模索しているところです。現場がより働きやすくなり、その結果として利用者様にも笑顔が広がっていくこと――それこそが、当社がこれからも目指していく会社の姿です。