地域に根ざし“ファン”をつくる──水処理から広がる価値提供のかたち
山陰水処理株式会社 代表 新出朋之 氏
山陰エリアに密着し、水処理事業を軸に顧客との長期的な関係づくりを続けてきた山陰水処理株式会社。薬品販売にとどまらず、機械やメンテナンスまで一体で提供する体制へと進化を遂げています。本記事では、事業の特徴や経営の原点、組織づくり、そして今後の展望について新出朋之氏に伺いました。
目次
地域に根ざし広がり続ける事業──ワンストップで支える水処理の現場
――現在の事業内容について教えてください。
当社は栗田工業の販売特約店として、水処理の薬品や機械を扱っています。山陰エリアを中心に営業しており、もともとは島根県のみでしたが、鳥取県や広島県境の一部まで広がってきました。地域に密着しながら、お客様と長く関わる形で事業を行っています。
創業は47年になりますが、もともとは薬品だけを扱う会社でした。ただ、お客様のニーズが多様化する中で、薬品だけでは解決できない課題が増えてきたと感じています。現場で話を聞くたびに、「もっとできることがあるはずだ」と感じる場面が増えていきました。
――他社にない強みや、理念について教えてください。
機械や工事、分析、メンテナンスまで一体で対応できる体制を整えてきました。それぞれを組み合わせて提案できることが強みであり、最後までワンストップで任せてもらえる点に価値があると考えています。単発の対応ではなく、その後の運用まで含めて関われることが、お客様との信頼関係にもつながっています。
理念については、先代である父の考えを引き継いでいます。「丁寧に、誠実に、迅速に対応する」という基本は、日々の現場の中でこそ問われるものです。派手ではなくても、その積み重ねが長く選ばれる理由になっていると感じています。
23歳で託された経営──迷うよりまず一歩踏み出す
――経営者になられたきっかけを教えてください。
もともと会社を継ぐつもりはなく、別の道に進もうと考えていました。ただ父が病床で「頼む」と言ってきたことがきっかけとなり、そのまま引き継ぐことになりました。当時は23歳で、経営者というより現場で動く一営業マンとしての感覚が強かったと思います。
迷いはありましたが、立ち止まっても状況は変わらないと感じ、「やってみる」という選択をしました。振り返るとあの時の一歩は勢いでもありましたが、その決断が自分をここまで引っ張ってきたとも感じています。正直に言えば不安もありましたが、それ以上に任されたことへの責任と、やるしかないという思いの方が強く残っていました。
――経営で大切にしている価値観を教えてください。
大切にしているのは「ファンをつくる」という考え方です。水処理の仕事は長く続くものなので、単なる取引ではなく、関係性の質が重要になります。一度関係が始まった後に、どれだけ信頼を深められるかが問われる仕事です。
先代や社員の姿を見ていると、お客様が自然とファンになっている場面が多くありました。その関係性こそが価値だと感じています。お客様に寄り添い続けることで、結果として長く選ばれる存在であり続けたいと考えています。その積み重ねが、次の仕事や新しいつながりを生んでいく感覚があり、そこにこの仕事のやりがいを感じています。
同じ目線で働くというスタイル──現場から生まれる信頼関係
――組織運営で大切にしていることは何ですか。
社員は年齢も性格もさまざまで、それぞれ違う強みを持っています。そのため上からまとめるのではなく、自分が現場に入り同じ目線で動くことを意識しています。形だけの指示ではなく、実際に一緒に動くことで見えるものがあると感じています。
現場で一緒に作業や営業を行うことで、自然と会話が生まれ、距離も縮まっていきます。そうした積み重ねが、言葉に頼らない信頼関係につながっていると感じています。机の上では見えないことも多く、現場で同じ時間を過ごすからこそ分かることがある。その実感を大切にしながら、日々の関わり方を積み重ねています。
――採用や育成で重視している点を教えてください。
スキルよりも、人としての姿勢を重視しています。どれだけお客様や周囲に向き合えるか、その姿勢が長く働くうえで重要だと考えています。実際に、その価値観を持っている人ほど結果的に定着しています。
見極めは簡単ではありませんが、必ず対面で会うようにしています。短い時間でも直接会って話すことで、その人の空気感や考え方が見えてきます。その感覚を大切にしながら採用に向き合っています。言葉だけでは判断しきれない部分にこそ、その人らしさが表れると感じているため、直接会う時間は欠かせません。
事業を組み合わせて広げる価値──次の成長に向けた挑戦
――現在取り組んでいる新しい事業について教えてください。
建築資材の卸売事業を引き継いだほか、コーヒー事業にも取り組んでいます。一見すると異なる分野ですが、継続的にお客様と関われるという点では共通しています。一度きりではなく、関係が続いていく仕事を意識して選んできました。
継続的な接点があることで、お客様の変化にも気づきやすくなります。そうした小さな変化を拾いながら、新たな提案につなげていける手応えがあります。積み重ねの中で「任せてよかった」と言ってもらえる瞬間が増えていくのは、やはり嬉しいものです。
さらに、異なる事業同士が結びつくことで、自分たちの中でも新しい視点が生まれてきました。これまでになかった発想が形になっていく過程に、今は面白さと可能性の広がりを感じています。
――今後の課題と展望について教えてください。
課題は組織運営です。これまではフラットな体制で回ってきましたが、事業が広がる中で見直しの必要性を感じています。規模が変わることで、求められる役割も少しずつ変わってきている実感があります。
次の世代まで見据えると、組織としての基盤づくりは避けて通れません。ただ明確な答えがあるわけではなく、手探りの状態が続いています。その中でも、現場との距離を保ちながら進めていく難しさと向き合い続けているところです。だからこそ、一つひとつ確かめながら形にしていく必要があると感じています。
小さな一歩を積み重ねる──変わらず大切にしている軸
――リフレッシュ方法について教えてください。
休日は家族と過ごすことが多く、子どもの部活動にも関わっています。特別なことではありませんが、その時間が気持ちの切り替えになっています。
仕事とは違う時間に触れることで自然とリフレッシュでき、また前向きな状態で現場に戻ることができます。日常の中でバランスを整えることを大切にしています。忙しい中でも、こうした時間があることで気持ちに余白が生まれ、改めて仕事に向き合う力になっていると感じています。
――経営の中で譲れない考え方を教えてください。
「小さな一歩、確かな一歩」という言葉を大切にしています。メーカーで修行していた際に教わったもので、今も判断の軸になっています。
大きな変化を一気に起こすのではなく、着実に積み重ねていくことを重視しています。一見遠回りに見えても、その方が結果的に長く続く形になると感じています。
目の前の一つひとつに向き合いながら、積み重ねを大切にしていく姿勢は、これからも変わらず持ち続けていきたいと考えています。