オンリーワンを貫く寿司道――「おおきにイズム」に込めた哲学と挑戦
株式会社ムラタエンタープライズ 代表取締役 村田 勉氏
飲食業界において長年の経験を積み、ヘッドハンティングとしての経営実績を経て独立した村田勉氏。現在は寿司店の運営に専念しながら、「おおきにイズム」という独自の哲学を軸に経営を続けています。本記事では、創業の背景から経営理念、組織運営、今後の展望に至るまで、その考え方を伺いました。
雇われ経営者の限界から独立へ
――事業を立ち上げた経緯を教えてください。
ヘッドハンティングにより「経営トップ」として11年間、4店舗を6店舗に拡大しながら代表者として運営してきました。しかしその過程で、オーナー側の意向に左右される経営の限界を強く感じるようになりました。社員との約束や理念に基づく経営計画が、蓄積した社内留保資金がオーナー指示による流出によって無念にも実現できなくなったのです。
そうした葛藤の中で転機となったのが、1998年に鍵山秀三郎氏(故人)と直接面談した経験でした。そこで「独立せよ」と背中を押されたことが大きなきっかけとなります。さらに翌年、サンディエゴでの学びを経て、2000年に会社設立そして店舗創業に至りました。
人間性・社会性・科学性――三位一体の経営理念
――理念やビジョンについて教えてください。
当社の経営理念は「人間性・社会性・科学性」の三本柱です。まず人間性として「社員とその家族が楽しい人生を歩むこと」を掲げています。次に社会性として「お客様に健康食、癒やし、和み、本物を提供する」。そして科学性として「凡事徹底」、つまり当たり前のことを徹底することです。
会社の責任はまず社員の人生を守ることにあり、その結果としてお客様満足が生まれるという考え方です。その実現のために、笑顔や謙虚さ、報連相といった基本を徹底しています。
流行に流されない経営判断
――経営判断の軸となる価値観は何でしょうか。
飲食業界では流行や評価サイト、インフルエンサーなどに左右されがちですが、それに振り回されてはいけません。大切なのは、自分自身の信念と本来の使命です。
飲食店の本質は、お客様の口だけでなく心や健康、そして喜びに貢献することにあります。「美味しい」だけでなく、コストパフォーマンスや心の満足も含めた価値提供が重要です。そのためには、食品学や心理学など本質的な学びが欠かせないと考えています。
組織運営は空気づくりがすべて
――社内コミュニケーションで大切にしていることは何ですか。
スタッフ同士の空気感を非常に重視しています。お客様は料理だけでなく、店全体の雰囲気を感じ取っています。自然な笑顔や声掛け、スムーズな連携が「アットホームな店」というお客様にとって心地良い印象につながります。
そのため、常に笑顔でいること、声を掛け合うことを徹底しています。形式的マニュアル的な接客ではなく、心の通ったやり取りが大切です。
――採用で重視するポイントはありますか。
勤勉であることに加え、仕事にやりがいを持てるかどうかを重視します。また、他店での経験がある人でも、当店のやり方を柔軟に受け入れられるかが重要です。自分のやり方に固執せず、新しい環境に順応できる人が組織に馴染みやすいと考えています。
世界へ広げる「おおきにイズム」
――今後の展望について教えてください。
今後は食育を通じた社会貢献をさらに強化していきたいと考えています。食育指導員としての活動も含め、健康や食の大切さを伝えていきたいです。
また、インバウンドのお客様が増えている現状を踏まえ、日本にいながら世界へ「おおきにイズム」を発信していきたい。「おおきに」という感謝の精神を軸にした「おおきにイズム」をより多くの人に届けていくことが目標です。
ナンバーワンを目指すのではなく「オンリーワン」であり続けることを重視しています。他者との比較ではなく、自分にしかできない価値を提供し続けること。それが今後も変わらない軸です。
楽しく働くことがすべて
――経営で譲れないものは何ですか。
「楽しく仕事をしているかどうか」です。どれだけ技術があっても、気持ちが伴わなければそれはお客様にも伝わります。ネガティブな空気は組織全体に影響を及ぼします。
だからこそ、楽しく前向きに働ける環境であることが重要です。それが結果的に良いサービスにつながります。
――最後に、リフレッシュ方法について教えてください。
私には仕事とプライベートの明確な区別がありません。日々の仕事そのものがリフレッシュになっています。お客様との会話や、1日の成果を実感する瞬間が何よりの喜びです。
もちろん趣味もありますが、基本的には仕事を通じて自分を整えています。この取材のような対話も、自分の考えを整理する良い機会になっています。