子育ても仕事も「自分らしく」――育休を起点に社会を変える挑戦
特定非営利活動法人育Qひろば 代表理事 伊藤 翼氏 理事 西日本代表 植田 貴也氏
子育てと仕事の両立が社会課題として注目される中、「おとなもこどもも、あなたらしい幸せをもっと身近に」というミッションを掲げ活動する特定非営利活動法人育Qひろば。男性の育休取得や家族のあり方に向き合いながら、社会に新たな価値観を提示しています。本記事では、代表理事の伊藤翼氏、植田 貴也氏に、活動の背景や組織運営、今後の展望について伺いました。
育休経験から始まった社会への問題提起
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
主な活動は、仕事と家庭の両立をテーマにしたセミナーや研修、ワークショップの実施です。そのほか、政策提案や大学と連携した研究や活動にも取り組んでいます。また、パパとママが集まるオンラインコミュニティを運営しており、交流や情報共有の場として機能しています。いわば「サードプレイス」のような存在で、「おしゃべりひろば」や「育Q酒場」といったイベントも行っています。
――活動の原点となったきっかけは何でしょうか。
2020年に半年間の育休を取得したことが大きな転機でした。育休中にママさんたちとオンラインで交流する中で、「自発的に育休を取って、楽しいと言っている男性は珍しい。応援してます!」という言葉をもらい、それが励みになりました。その経験を社会に還元したいと考えたことが活動の始まりです。その後、厚生労働省主催のイクメンスピーチ甲子園で優勝し、「イクメンの星2020」になったことをきっかけに発信を続け、仲間が集まり、現在のNPO設立へとつながりました。
「あなたらしい幸せ」を軸にした理念
――理念やビジョンについて教えてください。
ミッションは「おとなもこどもも、あなたらしい幸せをもっと身近に」です。ビジョンとしては、子育ても仕事も大切にしたいパパママのためにありたい自分、社会を共創していくひろばを掲げています。幸せの形は人それぞれであり、子供も一人の人格として尊重されるべき存在です。親の所有物ではなく、人として尊重し合う関係性が重要だと考えています。
――活動を通じて伝えたい社会へのメッセージは何でしょうか。
子供たちが成長して社会に出るとき、希望を持てる社会を残せるかという問題意識があります。大人自身が自分らしい生き方を実現し、その姿を見せることが未来の希望につながると考えています。
経験から学んだ「両立」のリアル
――活動において大切にしている視点を教えてください。
自身の経験から、育児について「知らなかっただけ」で苦しむ人が多いと感じています。そのため、暗黙知を形式知化し、共有していくことを大切にしています。成功体験だけでなく失敗談やしくじりも含めて発信することで、よりリアルな情報を届けたいと考えています。情報があふれる現代においては、他者と比較して自己嫌悪に陥ってしまうケースも少なくありません。だからこそ、多様な事例を提示し、「自分に合った選択」を見つけられる状態をつくることが重要だと捉えています。
――男性育休の意義についてどのように考えていますか。
パートナーの負担を軽減することで、家族としての選択肢が広がります。例えば二人目以降の子供を持つという選択も可能になるかもしれません。それは個人だけでなく社会全体にとっても大きな価値になると考えています。また、男性が育児に主体的に関わることで、家庭内の役割分担だけでなく、働き方そのものの見直しにもつながる可能性があります。
フラットな組織が生む主体性
――組織運営で意識していることは何でしょうか。
メンバー同士が忖度せず意見を言い合える環境づくりです。心理的安全性が高く、反対意見も歓迎される文化があります。私はファシリテーションに徹し、最終的な意思決定はメンバーに委ねることを大切にしています。その結果、フラットな関係性が生まれ、主体的な行動につながっています。
――ご自身の役割についてどのように捉えていますか。
以前は自分が前に立って発信することが多かったのですが、現在は「場をつくる」ことに意識が変わりました。メンバーそれぞれが輝ける環境を整え、「ありたい自分」と「ありたい社会」をつなぐ役割を担っていると感じています。また、生涯学習や社会教育の場としてNPOを機能させることで、大人自身が学び続け、社会に働きかけていく持続的な循環力を育むことも重要な役割だと考えています。
社会課題と向き合い続ける挑戦
――今後の展望について教えてください。
明確な計画で縛るのではなく、「ワクワクすること」を大切にしながら進んでいきたいと考えています。メンバーとともに対話を重ねながら方向性を決め、可能性を広げていきたいです。プレイヤーを増やすことも重要なテーマです。もっと多くの大人たちが気軽に社会課題と接点を持つことで、より大きなインパクトを生み出せると考えています。
急激な成長ではなく、社会と細くても長くつながり続けることで、どれだけ大きな価値を生み出せるかを試す「社会実験」のような位置づけで活動しています。時間をかけて関係性を築き、共感の輪を広げていくことが、結果として持続可能な社会の実現につながると信じています。
日常の中にあるリフレッシュ
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
ランニングや料理が好きで、特にうなぎを焼くことに没頭しています。自分で串打ちをしてタレを作り、人に振る舞い、みんなで笑顔になれる時間がとても楽しいです。年間でうなぎKPIを100尾と掲げ、3年連続で達成中です。料理という行為そのものが、終わりのない”美味い”の追求と人と人とのつながりを生み出すきっかけにもなっており、活動の価値観とも通じていると感じています。