「ありがとう」を伝えるその一日のために――思い出の料理が人と人の心をつなぐ
合同会社響奏 代表 西原 奈保美 氏
「私が届けたいのは料理ではありません。人生の中で伝えられなかった『ありがとう』を伝えられる時間なんです。」
そう穏やかに語るのは、合同会社響奏代表・料理研究家の西原奈保美氏。合同会社響奏は、出張料理や食育、レシピ開発など幅広く事業を展開する一方で、現在最も力を注いでいるのが、人生の節目を彩るオーダーメイドの食卓「晩餐」です。そこにあるのは、一皿の料理ではなく、大切な人と心を通わせる時間でした。本記事では、西原奈保美氏に、「晩餐」に込めた想いや事業への考え、今後の展望について伺いました。
目次
「晩餐」は料理ではなく、時間を届ける仕事
――現在の事業内容について教えてください。
私は料理を提供する仕事をしていますが、本当に届けたいのは料理ではなく「時間」です。
人生には、「ありがとう」を伝えたい人がいます。でも照れくさかったり、忙しかったり、「また今度でいいか」と思っているうちに、その機会を逃してしまうことがあります。だから私は、食卓をその想いを伝える場所にしたいと考えています。
現在取り組んでいる「晩餐」は、ご家族や大切な方との思い出の料理を再現し、その料理を囲みながら感謝を伝えるための時間をつくるサービスです。料理を食べる前に、ご依頼くださった方から、「なぜこの席を設けたのか」「この料理にはどんな思い出があるのか」をお話しいただきます。その想いを受け取ってから料理を味わうことで、食卓が単なる食事ではなく、人生の大切な一日になります。
思い出の料理には、人を一瞬で「あの日」に戻す力がある
――なぜ「思い出の料理」にこだわるのでしょうか。
料理には、不思議な力があります。一口食べた瞬間に、その頃の景色や会話、そのとき感じた気持ちまで鮮明によみがえります。私は、それを「時間を旅する力」だと思っています。
今は会えなくなった人との食卓、家族みんなで笑いながら囲んだ夕食、お母さんが作ってくれた味など、料理は、その時間ごと心によみがえらせてくれます。
だから私は、新しい料理を作るだけではなく、その人の人生に残る一皿を丁寧に再現したいと思っています。
一人のお客様を、一人として大切にする理由
――現在の価値観につながる原点を教えてください。
以前、大きな病気を経験しました。長い時間待ってようやく診察室に入れたのですが、医師は私の顔を見ることなく検査結果だけを見て、「大丈夫ですね」と数分で診察を終えました。
そのとき、私は思いました。先生にとって私は何百人いる患者の一人かもしれない。でも私にとって先生は、たった一人の医師なんです。この経験は今でも忘れられません。
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だから私は、目の前のお客様を「何人もいるうちの一人」とは考えません。お客様にとって私は、その日、その一食を任せるたった一人の料理人です。だからこそ、一人ひとりの想いに丁寧に耳を傾け、その方だけの時間をつくりたいと思っています。
食は、心と体を支える土台
――食への考え方について教えてください。
食べたものは体をつくります。でも私は、それだけではないと思っています。
心もまた、食によって支えられています。だから体調や年齢、その方の暮らしに合わせて食材や調理法を考えています。料理がおいしいだけではなく、「食べた後に元気になれること」。それが私の目指す料理です。
食育活動や企業へのレシピ開発、商品開発なども行っていますが、根底にある想いはすべて同じです。食を通して、その人らしい毎日を支えたい。それが私の仕事だと思っています。
響き合い、奏で合う社会を目指して
――今後の展望を教えてください。
社名の「響奏」には、それぞれが得意なことを持ち寄り、人のために響き合い、奏で合う社会をつくりたいという願いを込めました。
料理人だけではできないことがあります。農家さん、生産者さん、器を作る方、空間を演出する方、さまざまな人が力を合わせることで、一人ではつくれない価値が生まれます。
これからは高齢者の方々や企業、地域ともつながりながら、「食」をきっかけに人と人が支え合う場を広げていきたいと思っています。
「ありがとう」が伝えられる人生であってほしい
――最後に、これから出会う方へメッセージをお願いします。
私が一番うれしいのは、「胸にしまっていた想いを伝えられてよかった。」そんな言葉をいただいたときです。
料理がおいしかったと言っていただけることももちろん励みになります。でも、それ以上に、大切な人へ「ありがとう」を伝えるきっかけになれたなら、それが何よりの喜びです。
料理は、そのための手段です。
私はこれからも、一人ひとりの人生に寄り添い、心に残る時間を届けていきたいと思っています。