受け継がれる彫刻技術と“想い”を形にするものづくり――赤坂金型彫刻所の挑戦

有限会社赤坂金型彫刻所 三代目 赤坂兵之助 氏

有限会社赤坂金型彫刻所は、戦前から続く彫刻技術を受け継ぎながら、現代のものづくりへと進化を続ける彫刻所です。現代にあっても手砥ぎで生み出す「半月一枚刃Ⓡ」による金型彫刻や特殊部品加工を中心に、産業分野から個人向けオーダーメイド製作まで幅広く対応しています。本記事では、祖父の代から続く技術を受け継ぐ三代目で現代表の赤坂兵之助氏に、事業の特徴や顧客との関わり、そして自身の経営観などについて詳しく伺いました。

受け継がれてきた彫刻技術と産業技術

――現在の事業内容について教えてください。

現在は、金型加工や特殊部品加工、彫刻造形を主軸に事業を展開しています。産業工業分野では、金型関連の加工をはじめ、研究機関や企業から寄せられる特殊部品の製作にも対応しており、一般的な金属加工ではない要素が求められる案件にも対応しています。

また、長年培ってきた金型彫刻の技術をベースに、近年では「画像からの彫り」といった形で、デザインや造形表現の分野にも領域を広げています。工業用途で培った精密加工技術と、「半月一枚刃Ⓡ」による彫刻造形の表現力を掛け合わせることで、工業分野の加工案件から、様々な金属を「削ったままで美しい」オーダーメイドの造形制作まで、幅広いニーズに対応している点が当社の特徴です。

――どのようなお客様が多いのでしょうか。

金型関連では、主に金型メーカーとの取引を中心に事業を展開しています。特殊部品加工の分野では、大学の研究機関や弱電関連企業などから、一般規格品では対応が難しい加工案件の相談を受けることも多く、高精度かつ柔軟な対応力が求められる案件を手がけています。

さらにその先にはプラスチック製品を製造する成形メーカーがあり、日常生活の中で使われるさまざまな製品づくりを支える役割も担っています。金型加工から試作・特殊加工まで、幅広い案件に対応している点は当社の特徴の一つです。

一方、彫刻造形分野では、一般のお客様やデザイナーからのオーダーメイド案件にも対応しています。産業用途と個人向け案件では求められる価値は異なりますが、根底にあるのは長年培ってきた彫刻技術と加工技術です。昔ながらの版や型の技術を、現代の加工システムへ応用しながら活用することで、工業分野と造形分野の双方に展開しています。

BtoBとBtoCで広がる事業領域

――法人向けと個人向けでは、どのような違いがありますか。

法人案件では、加工精度や再現性など、安定した品質と技術対応力が求められます。特に研究機関や企業から寄せられる案件では、一般的な量産加工では対応できない特殊加工や、一点ものの部品製作が必要になることも多く、細かな仕様調整を行いながら進めています。

一方、個人向けの彫刻造形では、「自分だけのものを作りたい」という想いに応える仕事が中心です。既製品にはないオリジナル性や、依頼者の想いをどこまで形にできるかが重要になります。

法人案件では精度や機能性、個人案件では表現性や想いの実現と、求められる価値は異なりますが、どちらにも長年培ってきた彫刻・加工技術が活かされています。

――印象に残っている制作事例はありますか。

化粧品会社様の周年記念品として制作した事例です。販売成績の優秀な方へ贈る記念品としてご依頼いただいたもので、純銀削り出しで制作しました。企業様からのご依頼ですが、最終的には個人の方が手にするものですので、受け取る方の気持ちも意識しながら作っています。

想いを形にするオーダーメイド制作

――個人のお客様からは、どのようなご依頼がありますか。

「誰かと同じものではなく、自分だけのものを持ちたい」という想いを持って相談に来られる方が多いです。

例えば、「自分の思い描いたデザインをペンダントにしたい」というご依頼もあります。結婚記念日に奥様へ贈るプレゼントとして制作された方もいらっしゃいましたし、自分で立ち上げた会社のロゴマークをペンダントにしたいというご相談もありました。「長年苦労を掛けた妻がとても喜んでくれた」「ペンダントを着けて母に会いに行きました」と嬉しいご報告をいただきました。

――オーダーメイドならではの面白さを感じますね。

そうですね。オーダーメイドの案件では、単に製品を作るのではなく、お客様の要望や背景を含めて形にしていく点に面白さがあります。

個人のお客様の場合、「既製品では実現できないものを作りたい」というニーズを持たれていることが多く、デザインや用途、「込めたい想い」まで含めてご相談いただきます。そのため、完成品そのものだけでなく、制作に至るプロセスも重要になります。

また、一点ものの制作では、細かな表現やニュアンスへの対応力が求められます。工業分野で培ってきた精密加工技術や「半月一枚刃Ⓡ」での彫刻技術のノウハウがあるからこそ、細部までこだわった造形にも対応できていると感じています。

既製品を大量生産するものづくりとは異なり、お客様ごとに求められる価値が変わるのがオーダーメイドの難しさでもあり、面白さでもあります。そうした案件を積み重ねることで、技術面だけでなく、提案力や対応力も磨かれてきたと感じています。

戦前から続く家業の三代目としての歩み

――経営の道に進まれた経緯を教えてください。

当社の成り立ちとしては、祖父が戦前に彫仏師の仕事をしていたことから始まります。満州から日本に帰ってきた祖父は戦後、「日本の復興のために仕事をする」として、産業工業分野へ進み、金型関連の仕事を始めました。その後、父が事業を引き継ぎ、近代化を進めてきました。

よく「いつ継いだのですか」と聞かれるのですが、自分のなかでは“継いだ”という感覚があまりないんです。「気づいたら、自然とこの世界にいた」という感覚です。

もちろん、書類上の引き継ぎなどはありましたが、「この日から継ぎました」という明確な境目はありません。幼い頃から仕事や工場の風景が当たり前に身近にあり、祖父や父がものづくりをしている姿を見るのが日常でした。

技術だけでなく“想い”も形にする

――最後に、今後、大切にしていきたいことをお聞かせください。

私たちの仕事は、単に加工を行うだけではなく、お客様の要望や目的に対して、どのように技術で応えていくかが重要だと考えています。特にオーダーメイドの案件では、既製品では実現できない価値を求めてご相談いただくケースが多いため、細かな要望にどこまで対応できるかが問われます。

また、産業分野と造形分野の両方に携わっているからこそ、それぞれの技術やノウハウを相互に生かせる強みがあると感じています。工業分野で培った精密加工技術を造形表現へ応用し、逆に造形分野で求められる繊細な表現力を工業加工へ還元することで、技術の幅を広げてきました。

私の最終目的は「ものづくりの学校」を設立することで、そこでは世界中の老若男女が日本の繊細なものづくりはもちろん、東洋哲学や合気道なども学びます。そうやって仲良くなったみんながやがて自国に帰ると、世界をまたいで仲良しの輪ができるから、きっと戦争がなくなると感じているのです。

初代である私の祖父は戦争のことはほとんど話してくれませんでしたが、「相手も自分も生かそう」と創意工夫をこらしていた断片的なその話しを思い出すとき、私はそのように願わざるをえないのです。

不易流行、祖父の代から続いてきた彫刻技術を土台にしながらも、時代やニーズに合わせて加工方法や表現を進化させていく。精密工学会での論文報告や日本国「現代の名工」を賜る中、それら積み重ねによって、これからも「“想い”を形にする」付加価値の高いものづくりを続けて参ります。

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