「熟慮断行」でつなぐ銭湯の未来――白玉産業が描くウェルビーイングと事業承継

有限会社白玉産業 代表取締役 北出 守氏

有限会社白玉産業は、一般公衆浴場、いわゆる銭湯を主軸に事業を展開している企業です。公衆浴場に加え、コワーキングスペースの運営や店舗への賃貸など、銭湯と親和性のある取り組みも進めてきました。本記事では、代表の北出守氏に、事業の特徴や経営判断の軸、組織づくり、今後の展望などについて詳しく伺いました。

銭湯を軸に、時代に合わせた空間をつくる

――現在の事業内容について教えてください。

当社は、物価統制令により入浴料金の上限が定められている一般公衆浴場、いわゆる銭湯を運営しています。

ほかにも、浴場事業に付随する取り組みとしてコワーキングスペースの運営や隣接店舗への賃貸事業も展開していますが、事業の多角化を目的に異業種へ広げるのではなく、公衆浴場との親和性や相乗効果を重視しながら、施設全体の価値向上につながる形で事業領域を拡張しています。

――コワーキングスペースを始めた背景を教えてください。

2022年のコロナ禍に、事業再構築補助金を活用して新たに立ち上げました。もともと倉庫として使用していた未活用スペースを有効活用し、公衆浴場との親和性を持たせた新たな滞在型空間として再設計した形です。

近年は、単に入浴するだけではなく、「長時間ゆっくり過ごしたい」「仕事や休憩も含めて利用したい」というニーズが高まっていると感じています。そこで、入浴前後の時間も快適に過ごせる環境づくりを意識し、コワーキング機能を取り入れました。

空間デザインについては専門のデザイナーに依頼し、従来の“銭湯らしさ”にとらわれない世界観を目指しました。公衆浴場を中心にしながらも、新しい利用価値を提供できる施設づくりに取り組んでいます。

――御社の強みはどのような点にありますか。

先代が1964年に現在の場所の公衆浴場を取得して以降、周辺土地を段階的に取得しながら事業基盤を拡大してきました。現在では、創業当初の約3倍の敷地規模となっています。

平成元年の改築時には、将来的な来店ニーズを見据え、1階を駐車場、2階を浴場とする構造を採用しました。当時の銭湯業界では珍しい形態でしたが、車利用の増加を見越した先行投資でした。

さらに4年ほど前には屋外駐車場も取得し、利便性を強化しています。都市部の公衆浴場において、十分な駐車場を確保できている点は当社の大きな競争優位性だと考えています。

家業を継ぐ――腹を決めて経営の道へ

――経営に携わるようになったきっかけを教えてください。

もともと家業である公衆浴場を継ぐつもりはなく、大学卒業後はイベント関連のリース会社に勤務していました。ただ、大型案件を受注しても評価や報酬が大きく変わらない環境のなかで、「自分で事業をやるべきではないか」と考えるようになりました。

その後、父と話し合いを重ね、公衆浴場事業に本格的に参入することを決断しました。平成元年には約3億円の融資を受け、現在の施設へ大規模改築を実施しています。

振り返ると、当時はバブル期でもありましたが、投機的な投資へ資金を回さず、返済と周辺土地の取得を優先したことが、現在の事業基盤につながったと感じています。結果として、敷地の拡張と資産形成が競争力強化につながりました。

――経営判断の軸になっている価値観はありますか。

経営判断の軸になっているのは、「熟慮断行」という考え方です。私は、高校野球や少年野球指導者の経験を通じて、状況を冷静に分析し、勝率を見極めたうえで決断する重要性を学んできました。

事業においても、五分五分の勝負には基本的に手を出しません。十分に情報を集め、成功確率が高いと判断できる段階まで熟慮したうえで投資や挑戦を行います。一方で、方向性を決めたあとは迷わず実行に移すことを重視しています。

新しい取り組みには不安やリスクも伴いますが、最終的には経営者自身が覚悟を持って前に進むことが重要だと考えています。

福利厚生を重視――社員はファミリーのようなもの

――社員とのコミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか。

現在は、アルバイトを含めて約21名のスタッフが在籍しています。組織運営においては、単なる雇用関係ではなく、ファミリーに近い距離感で信頼関係を築くことを大切にしています。

また、これからの時代は福利厚生の充実も重要だと考えており、リゾート施設の会員権を活用して、スタッフやその家族がリフレッシュできる環境を整えています。従業員満足度を高めることで、結果的にモチベーションの向上にもつながっていると感じています。

さらに、そうした上質な空間やサービスに触れる経験は、スタッフ自身の感性を磨くだけでなく、自社施設の空間づくりやサービス向上にもよい影響を与えているように思います。

――ご自身はどのようにリフレッシュされていますか。

以前は少年野球の指導者として身体を動かすことが多かったのですが、最近は神社巡りや御朱印集めを通じて気持ちを整える時間を大切にしています。

経営を続けていると、日々さまざまな判断や責任が伴います。そのなかで、神社を訪れたり、静かな環境に身を置いたりすることで、自分自身をリセットするようにしています。

今年は、伊勢神宮にも参拝しました。早朝の内宮は非常に清々しく、改めて気持ちを整えるよい機会になりました。経営者として冷静な判断を続けるためにも、意識的に心身をリフレッシュする時間は必要だと感じています。

燃料対策と事業承継への挑戦

――最後に、今後取り組んでいきたいことをお聞かせください。

今後の大きなテーマの一つは、燃料コストへの対応です。公衆浴場にとって燃料は事業の根幹であり、経営に直結する重要な要素だと考えています。

現在はガスに加え、薪ボイラー、太陽光発電、太陽熱温水器、コジェネレーションを組み合わせた運営を行っていますが、今後は太陽熱温水器の増設も計画しています。燃料コストの削減は収益改善にも直結するため、持続可能な運営体制をさらに強化していきたいと考えています。

また、事業承継にも重点的に取り組んでいます。公衆浴場業界では、収益面だけでなく、相続問題をきっかけに廃業へ至るケースも少なくありません。そのため、次世代へ安定的に引き継げる体制づくりを早い段階から進めてきました。

現在は、おかげさまで後継者も決まり、少しずつ引き継いでいる最中です。父の代から数えると、親子三代で公衆浴場を続けていくことになります。親があって今があり、私がいて子どもがいる――そして、その次にもつなげていきたいです。

さらに、これからの銭湯は単なる入浴施設ではなく、「ウェルビーイング」を提供する場になると考えています。高濃度炭酸泉やサウナなどを通じて、心身を整え、健康につながる価値を提供できる施設づくりを今後も進めていきたいです。

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