自然と教育をつなぐ農園――ジミーfarm合同会社が育む“体験”の価値
ジミーfarm合同会社 代表 柳下 浩一朗氏
茨城県で青パパイヤ、さつまいも、ごまの栽培を行うジミーfarm合同会社。農薬や防虫薬を使わない栽培にこだわりながら、農業と教育を融合させた活動を展開しています。代表の柳下浩一朗氏は、32年間教員として勤めた経験を持ち、現在は農業体験やキャンプ活動などを通して、子どもたちが自然に触れる機会づくりにも力を注いでいます。本記事では、事業への想いやこれまでの歩み、地域との関わりについて伺いました。
農業と教育を融合させた“体験型農園”
――現在の事業内容について教えてください。
現在は青パパイヤ、さつまいも、ごまの3つを中心に栽培しています。最初に始めたのはパパイヤで、今年で7年目です。さつまいもは6年目、ごまは3年目になります。売上の中心はさつまいもで、学校給食向けの出荷も行っています。最近では、給食センターからカット野菜としての依頼も増えてきました。
栽培で最も大切にしているのは、農薬や防虫薬を一切使わないことです。畑や土に優しい農業をしたいという想いがあり、基本的には有機栽培に近いやり方で育てています。認証は取得していませんが、手続きを進めれば有機栽培として扱われる内容です。
ただ、私の中では「農業」だけでは終わりません。32年間教員をしてきた経験があるので、農業と教育を融合させることを大事にしています。年間20回ほど農業体験を実施していて、延べ500人近い家族が参加しています。焼き芋体験などは口コミで広がり、参加者も増え続けています。
また、行政とも連携しながら活動を進めており、地域や学校と協力した取り組みにも力を入れています。 学校を借り切って開催する「夢キャンプ」では、先生に頼らず自分が主体となって運営しています。学校は地域のシンボルですから、もっと活用されるべきだと思っています。
教員から農業へ――人生を変えた転機
――農業の道へ進まれたきっかけを教えてください。
もともとは教員でした。体育教師として常に全力で仕事をしていて、大会運営や論文執筆、テレビ出演など、幅広い活動に力を注いでいました 。その結果、心身ともに限界を迎え、長い間家から出られなくなってしまったんです。
そんな時、家から見える荒れた土地が気になるようになりました。草が伸び放題になった景色を見ながら、「ここを綺麗にできたら、地域の人にも喜んでもらえるかもしれない」と考えるようになったんです。調べてみると、その土地は相続人のいない国有地でした。正式な手続きを経て譲っていただき、そこから農業が始まりました。
最初に挑戦しようと考えたのは、ごまでした。雑草対策にもなりますし、できるだけ薬を使いたくなかったからです。ただ、実際に始めてみると想像以上に大変でした。選別作業はピンセットを使うほど細かく、時給換算すると100円を切ってしまうほどの作業量だったんです。
そんな中、地域の農家さんから「青パパイヤ」を教えてもらいました。最初は沖縄の果物という印象しかありませんでしたが、“野菜として食べるパパイヤ”の存在を知り、大きな衝撃を受けました。実際に畑を見に行った時には、森のように力強く育つ姿が広がっていて、「これをやりたい」と強く心を動かされたのを覚えています。
2019年に会社を設立し、青パパイヤ栽培をスタートしました。しかし、その年の台風19号によって、植えていた約800本の苗が全滅してしまったんです。それでも、収穫できた分は茨城国体へ提供しています。 食べ方が分からない方も多かったため、市の担当者と一緒にパンフレットも制作しました。そうした地域との繋がりを積み重ねながら、現在の活動が少しずつ広がっていきました。
“名前で呼び合える関係”を大切にした組織づくり
――社員との関わりで大切にしていることを教えてください。
現在は障害者雇用として1名を採用しています。以前は3名いましたが、赤字の影響もあり、今は1名体制です。それでも正規雇用として迎え、社会保険などの環境は会社で整えています。
最初はあまり会話をしない子でした。しかし、一緒に働き、同じ時間を積み重ねていく中で、少しずつ心を開いてくれるようになりました。今ではこちらが「少し喋り過ぎじゃないか」と笑ってしまうほどです。一緒に行動し、心が通じ合うことで、人は少しずつ心を開いていくのだと思っています。
自然を相手にする仕事なので、採用で重視しているのはスキルではありません。大切なのは、自然とどう向き合うかという姿勢です。野菜は文句を言わないため、極端に言えば無言でも仕事はできます。ただ、自然相手の仕事だからこそ、理解や覚悟が欠かせません。
私が大切にしているのは、「名前で呼び合える関係」を築くことです。他人のままで終わるのではなく、顔と名前が一致する関係性をつくりたい。その積み重ねが、地域との繋がりにもなっていると感じています。
子どもたちの未来につながる挑戦を
――今後の展望について教えてください。
農業では、今年ようやく黒字化の可能性が見えてきました。中でも大きかったのが、青パパイヤが給食に採用されるようになったことです。現在は4万個ほどを栽培していますが、まだ販売には余力があります。ここからさらに広がっていけば、状況は大きく変わっていくはずです。
一方で、私の中では農業だけが柱ではありません。自然体験やキャンプ活動も、同じくらい大切な取り組みです。現在は3校ほどで活動していますが、今後は地域全体へ広げていきたいと考えています。そのためには、次の世代を担う後継者の存在も欠かせません。
私が何より大事にしているのは「子ども」です。子どもたちは、やがて大人になります。その時に何を残せるのかを常に考えています。生きる力は、机の上だけでは身につきません。自然の中で遊び、跳び、走り、時には失敗する。そうした体験の積み重ねが、人を育てていくのだと思います。
今は地域の繋がりが薄くなっている時代です。だからこそ企業にも、地域コミュニティや自然体験へもっと目を向けてほしいと願っています。自然に触れる時間には、人の心を豊かにする大きな価値があると感じています。
日の出が教えてくれること
――リフレッシュ方法について教えてください。
農家なので朝はとても早く、毎日3時、4時には動き始めています。農作業は昼頃には一区切りつくため、その後は学校活動やボランティアに時間を使うことが多いです。
私にとって何よりのリフレッシュは、日の出を見る時間です。太陽が昇る瞬間は毎日まったく違い、空に広がるグラデーションも本当に美しいんです。その景色を眺めていると、不思議と力が湧いてきて、「今日も一日頑張ろう」という気持ちになります。
人間は本来、自然の中で生きてきた生き物だと思っています。自然から離れ過ぎてしまうと、どこか大切なものを失ってしまうのではないでしょうか。だからこそ、どれだけ忙しくても、自然に触れる時間だけは忘れないでほしいですね。