変化する海と向き合いながら――男鹿の味を守り、新たな挑戦を続ける水産加工の現場

男鹿海洋物産有限会社 代表取締役 笹渕 健一氏

秋田県・男鹿半島で水産加工業を営む男鹿海洋物産有限会社。長年地域を代表する魚として親しまれてきたハタハタ加工品を中心に事業を展開してきましたが、近年は海の変化によって大きな転換期を迎えています。そうした中でも、新たな魚種や加工方法に挑戦しながら、“美味しいものを届ける”という信念を貫き続けています。本記事では、代表取締役の笹渕健一氏に、現在の取り組みや経営への想い、今後の展望について伺いました。

水産加工業の転換期――ハタハタから新たな商品開発へ

――御社の事業内容について教えてください。

主に水産物の加工販売を行っています。卸売だけでなく、小売も手がけています。長年、ハタハタ加工品を中心に取り組んできましたが、近年は漁獲量の減少が大きな課題になっています。

現在は、銀鮭を使った加工品や、ブリを活用した商品開発にも取り組んでいます。特に昨年から取り組み始めた銀鮭の商品は好評で、これまでにない手応えを感じています。

以前は「地元・男鹿産」に強くこだわっていましたが、現在は安定供給を優先するようになりました。ハタハタのように“今日はあるけれど明日はない”という状況では、事業として継続していくことが難しいからです。現在は秋田県内に限らず、国内全体から加工に適した魚を探し、商品づくりを進めています。

――現在の事業の強みについて教えてください。

私たちは、鮮度や味に妥協しないことを大切にしています。自分自身が「美味しい」と思えるものしか商品にしたくありません。価格だけを求める大量販売ではなく、品質にこだわった“オンリーワン”の商品づくりを目指しています。

ブリを使ったフライや照り焼き、「飯寿司(いずし)」など、魚の特徴を活かした加工品にも力を入れています。量を大量に売るというよりも、他にはない商品を作ることが自分たちの役割だと思っています。

海の変化とともに歩んできた経営人生

――経営者になられた経緯を教えてください。

30代の頃は、男鹿半島水産加工事業協同組合で働いていました。その後、45歳で独立しました。当時としては遅い独立だったと思います。

ちょうどその頃、ハタハタの漁獲量が増え始めた時期でもありました。ハタハタは非常に販売力のある魚で、多くのお客様に求められていたので、当時は大きな努力をしなくても商品が動いていた部分もありました。

しかし今は、その状況が大きく変わっています。海水温の上昇などの影響もあり、ハタハタだけでなく鮭なども獲れなくなってきました。以前は男鹿でも鮭が獲れていましたが、今では北海道でも厳しい状況になっています。

かつて主力だった商品が次々と失われ、今は“出直し”の段階です。ハタハタに代わる新たな柱を作らなければならない。その厳しさを日々感じています。

――経営判断の軸になっている考え方はありますか。

やはり「美味しいものを作る」ということです。鮮度を保ち、自分が食べて納得できるものだけを出したいと思っています。

そのため、価格競争だけを重視する仕事はしていません。「もっと安いものがある」と言われることもありますが、そこに合わせるつもりはありません。自分たちらしい商品を作ることが大切だと思っています。

新しい魚、新しい加工――次の時代への挑戦

――今後取り組んでいきたい挑戦について教えてください。

今後は、さらにさまざまな魚種に挑戦していきたいと思っています。特に「飯寿司(いずし)」のような発酵系の加工食品を増やしていきたいですね。

魚によって味も脂も違いますし、それぞれに合った加工方法があります。いろいろ試しながら、新しい商品を開発していきたいと思っています。

また、現在取り組んでいる銀鮭の商品については、試作品づくりを始めてからちょうど1年ほどになります。販売開始は昨年11月で、まだ本格的な検証の途中です。どれくらい製造量を増やせるのか、人材をどう確保していくのかなど、これから研究していかなければいけない段階です。

大きな会社ではありませんので、まずは今できることを一つずつ積み重ねていくしかないと思っています。

――一緒に働きたいと思う人物像を教えてください。

新しいものに挑戦する意欲がある人ですね。

経営者としては損得も考えますが、それ以上に「まずやってみよう」と思える姿勢を大切にしたいです。いろいろな商品づくりに前向きに取り組める人と、一緒に仕事をしていきたいと思っています。

妥協しないものづくりと、魚屋としての誇り

――仕事をする上で譲れないことはありますか。

商品づくりで妥協しないことです。

私はゴルフもやるのですが、フォームや体の動きなど、細かな部分までとことん気にするタイプなんです。周囲からは「そこまでこだわるのか」と言われることもありますが、その感覚は仕事にも通じています。

細部をおろそかにしてしまうと、うちの仕事は成り立たなくなる。だからこそ、一つひとつの工程にこだわり続けたいと思っています。

――最後に、休日のリフレッシュ方法を教えてください。

実は、ほとんど休みはありません。魚を扱う仕事なので、元日でも工場の様子を見ています。なまものを扱っている以上、完全に気を抜ける日はないですね。

そんな中でも、時間が合えば妻とゴルフに行くことがあります。それが今の一番のリフレッシュかもしれません。

今は厳しい状況ですが、もう少し頑張らなければいけない時期だと思っています。魚屋として、これからも美味しいものづくりに向き合っていきたいですね。

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