熱工学を礎とした陸上養殖で地球の未来を紡ぐ。武士道経営で挑む「100年先を見据えたサステナビリティ」

株式会社Seaside 代表取締役 平野 雄晟氏

近年、SDGsへの関心の高まりとともに、食料生産のあり方が世界中で見直されています。特に水産資源の減少が叫ばれるなか、次世代の食料供給システムとして大きな注目を集めているのが「陸上養殖」です。しかし、四季のある日本では、電気や熱のエネルギーコストや高額な設備投資の壁に阻まれ、事業化の難易度が極めて高い領域としても知られています。この難題に「熱工学×陸上養殖」という独自の切り口で真っ向から挑み、特許技術を武器に世界展開を見据える企業が、株式会社Seasideです。代表取締役の平野雄晟氏は、45歳で大手保険会社からの転身を決意し、一貫して「地球を持続可能にするため」の挑戦を続けてきました。文系キャリアから56歳にして九州大学大学院の理系博士課程へと進学し、学問とビジネスの両輪で地方創生・地球環境問題の解決を目指す平野氏に、その熱い哲学と未来への展望を詳しく伺いました。

「熱工学」の追求で既存の常識を覆す

――現在の事業内容や特徴や強みについて教えてください。

弊社では「How we sustain the earth(我々はどうやって、地球を持続可能にしていくのか)」を掲げ、陸上養殖の設備販売およびコンサルティング事業を展開しています。

魚の乱獲は海の生態系を大きく毀損しており、ある論文では2048年までに世界の海の生態系が壊滅するとも言われています。私は、人類が魚を食べる以上、人類の手で持続可能な形で生産する仕組みを作らなければならないと考えています。その手段が陸上養殖です。

弊社の最大の特徴であり強みは、ロゴのサブタイトルにも掲げている「アクアカルチャー×エナジー」という概念です。陸上養殖とは、本来海で育つ魚を陸上の閉鎖空間で飼育するシステムですが、水を循環させ、養殖魚に最適な水温に保つための設備はすべてエネルギーで動いています。つまり、陸上養殖はエネルギーの礎の上に成り立つ事業であることを理解することです。弊社では、特に「熱」に焦点を当て、太陽エネルギーなどを活用して極めて低い投下エネルギーコストで最適な水温を維持できる装置の研究開発・販売を行っています。

損得マシーンは眼中無し。「武士道精神」で生きる

――経営者になられた経緯を教えてください。

私が起業を決意したのは45歳の時でした。「人生100年時代」と言われるなかで、残りの50年をどう生きるかをゼロベースで考えたのです。当時、保険会社の内勤社員として働いていましたが、当時の仕事をあと50年続けるのは論外、と考えていました。私個人が次世代のためにできることなど微々たるものですが、環境問題を1つでも2つでも改善し、少しでもマシな地球を渡したい、そう考え、心ある技術者が作った優れた環境商材を世界中に普及させるマーケティング会社を2015年に立ち上げました。その一環として2016年に出会ったのが「エビの陸上養殖」であり、翌2017年に株式会社Seaside(当時:株式会社Seaside Consulting®)をカーブアウトで創業させました。

経営判断において、私が一貫して中心思想に置いているのは「武士道」です。現代のビジネスは西洋的な損得勘定「いかに元手を大きくして早く跳ねさせるか」というコスパ・タイパの世界が蔓延していますが、私はそこに全く関心が向きません。

武士道を説いた『葉隠』に「武士道とは死ぬことと見つけたり」という有名な言葉があります。これは肉体的・物質的な死を恐れるのではなく、「自分(魂)が命をかけてでもやりたいこと、真に正しいと思えることの遂行に命を差し出せるか」という意味です。物価や設備費、人件費が高い日本における陸上養殖は非常に難しいビジネスですが、「自分がやってダメなら、この産業は日本で成立しない」と言い切れるまでやり切る覚悟でやっています。

こいつ、バカなことを言う、と大半の人には思われるでしょうが、私はそれで良いと思っています。小利口は、真っ先にAIに駆逐されるでしょう。イーロン・マスクのいうAI搭載ロボティクス技術による超音速TSUNAMIは、しょぼいIT企業や既存のホワイトカラービジネスを一掃するでしょう。残るのは、人間にしかできない、AIを凌駕する戦略と技術の粋です。おかげさまで私には現物を扱う技術と、エネルギー技術があります。いずれも武士道的体当りで習得した実学です。損得でいえば、もっと立ち上がりの早いビジネスはあったのでしょう。ですが、現場で七転八倒して得た技術は裏切りません。超音速TSUNAMI後に、人間が生き残れるとしたら、人間にしかできない領域で闘うことです。それは、覚悟と行動。私が言うことが、実は最短・最良の道であることは、いずれわかると思っています。

20世紀のレガシーである「廃校」を使い地方都市をリデザインし、さらに世界の寒冷地・熱帯地へモデルを移植する

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

国内においては、国難:人口減少社会によって急増している「廃校」を利活用した陸上養殖モデルを、全国の自治体に爆発的なスピードで植え付けたいと考えています。

日本の地方都市の衰退は止まりません。地域の人々の思い出が詰まった学校も使われなくなり、放置されれば、老朽化して立ち入り禁止の「幽霊屋敷」になるのが目に見えています。ここをもう一度、陸上養殖で輝かせ、地方都市をリデザインするのです。そして、消滅可能性自治体を1つでも救いたい。

エビの養殖には30℃近い水温が必要ですが、山間部などの寒冷地で冬場にそれだけの水温を維持しようとすると、莫大な燃料コストがかかり事業成立が難しい。私は3年間研究を重ね、太陽エネルギーなど熱工学理論を駆使して極めて少ないエネルギーで水温をコントロールできる新技術「シーサイドニュータイプタンク(Seaside New Type Tank)」を発明し、特許を出願しています。さらに、この熱工学の技術を進化させるため、56歳のこの4月から、九州大学大学院総合理工学府「熱エネルギー変換システム学(宮崎隆彦研究室)」に入学、博士号(工学)の取得を目指しつつ、産学連携を推し進めるという新たな挑戦を始めています。私の同世代は子育ても一段落し、守りに入っている風潮がありますが、年齢に関係なく、命ある限り学び、社会に献身する姿勢を周囲にも示していきたいですね。

また、この技術パッケージを持って世界展開も開始しています。2026年6月からは国際協力機構(JICA)の事業として、ベトナムのホーチミンへ今後2年赴き、マングローブ林消失を未然防止する「IoTと超高密度閉鎖循環型技術を活用した持続可能エビ養殖モデル」を構築します。さらに、モンゴルの副首相へ、冬季にはマイナス40℃に達するウランバートル近郊の極寒地で、太陽エネルギーだけで水温を保つ陸上養殖および水処理システムの導入を提案しています。寒冷地(モンゴル)と熱帯地(ベトナム)の2つのモデルケースを足がかりに、世界規模で持続可能な陸上養殖システムを社会実装していきます。

信条は「目の前の課題に全力体当たり」障害から逃げない、志高き仲間と共に歩みたい

――最後に、平野様が一緒に働きたいと考える人材の条件や、これだけは譲れないという信条などあれば教えてください。

現在、会社の運営は共同代表である妻と2人で実務を回しています。利益は出ているものの、人に教える時間があるなら自分が1日17時間働いた方が早いというスタンスでここまで走ってきました。まさに、オーナーズ・トラップの真っただ中にいます。今後、共に右腕として働く仲間を迎えるとするならば、求める条件はシンプルです。「正直な人」、そして「目の前の課題に全力体当たりできる人、業務遂行に伴う障害から逃げない人」です。

今の社会は分業化が進みすぎて、あらゆる分野がタコツボ化しています。モノゴトを基本的原理から眺めたり、宇宙規模の世界観から眺められる視座があれば、大きなアドバンテージです。さらに、量子力学が証明しているように、想いはエネルギーであり、目の前に立ちはだかる問題・課題は「自分への試されごと」といえます。成長の度に、試されごとのレベル感(障害の難易度)が上がります。障害を乗り越えるごとに、その難易度と等価の成果が待っています。この法則を信じ、目の前の障害に愚直に向き合える昭和の国士のような、克己心のカタマリのような人間こそが、AIを凌駕し、これからの時代に社会を変えていける人財と信じます。

――リフレッシュ方法があれば教えてください。

普段は戦略と技術(発明)のことばかり考えていますが、たまに妻と外食に行くことがいいリフレッシュになっています。ですが私は、私の志が、ライフワークそのものであり、自事業をやっていられることが一番の幸せです。

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