AIと戦略を仕組みに変え、中小企業の成長循環をつくる
合同会社ZEROSYSTEM 代表社員 長井 智章 氏
AI導入は、現場で活用されて初めて変革につながります。合同会社ZEROSYSTEMは、AI研修「Bizteach」、伴走型Web制作「e-Bizオーダーメイド」、補助金・助成金申請支援を通じて、中小企業の成長を支援。AIと人の力で継続的な成長の仕組みを実装する同社の起業背景と経営観を、代表社員・長井氏に伺いました。
目次
戦略と実践をつなぎ、事業が進化する仕組みをつくる
——現在の事業内容について教えてください。
中小企業の課題は、「人」「売上」「資金」が切り離せない形で起きています。教える時間がなければ現場の品質は安定しない。集客や営業の導線が整わなければ、良い商品やサービスがあっても選ばれない。投資計画や補助金の活用が難しければ、改善に踏み出せない。だからこそ私たちは、三つの領域を一体で支援しています。
一つ目は、AI講師による中小企業DX「Bizteach」です。10分程度の動画、テスト、進捗管理、修了証を組み合わせ、忙しい現場でも学びを続けられる仕組みを提供しています。
二つ目は、集客・受注導線を整える「e-Bizオーダーメイド」です。Webサイト制作を起点に、SEO、Googleビジネスプロフィール、SNS、LINE、営業資料などを、業種や課題に合わせて組み立てます。制作物を納品することが目的ではなく、公開後も改善を重ね、顧客との接点が資産として育つ状態を目指します。
三つ目が、補助金・助成金を含む経営支援です。申請書のサポートだけではなく、経営者自身が投資の目的や将来像を説明できるよう、要件、事業計画、必要書類、進め方を整理します。事業者が主体となって進めるからこそ、申請後の実行にもつながります。
——会社のビジョンと強みを教えてください。
理念として掲げているのは、「革新はゼロから始まる。戦略と実践で、日本の未来を創る。」です。
私たちが提供したいのは、AIやWeb、補助金といった単発の手段ではありません。企業が自ら新しい価値を生み出し続けられるように、業務、人材、顧客との接点、投資をつなぐ成長の仕組みを設計し、実装することです。
生成AIやRPA、API、GAS、クラウドツールのおいても、同じく目的ではなく手段です。未来から逆算して勝ち筋を描き、机上の構想で終わらせず、現場で動く形まで伴走することが私たちの強みです。
生成AIとの出会いが、起業を加速させた
——会社を立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか。
大学卒業後は医療分野に携わり、その後、Web業界へ転身しました。Web制作会社では事業開発に携わり、コロナ禍では中小企業の資金活用や事業継続を支えるプロジェクトを数多く経験しました。
その中で強く感じたのは、良い制度や技術があっても、現場で使える形に翻訳されなければ、企業の力にはならないということです。在職中にシリコンバレーやMITを訪問し、現地のイノベーションや教育思想に触れた経験も、現在の仕事につながっています。
2022年末にChatGPTが登場し、2023年に生成AIが急速に広がる中で、「これは中小企業の可能性を大きく広げる技術になる」と確信しました。一方で、導入方法が分からない、使える人が一部に限られる、業務に落とし込めないという企業も多い。だからこそ、AIを一部の専門家だけのものではなく、現場の一人ひとりが使える力に変える事業を始めました。
——中小企業の支援に注力する理由を教えてください。
日本経済を実際に支えているのが、中小企業だからです。日本では、企業数の99.7%を中小企業が占め、雇用の約7割を支えています。米国でも小規模企業は民間雇用の約46%を担っています。日米では中小企業の定義が異なるため単純な比較はできませんが、いずれも中小企業が地域経済と雇用の基盤であることは共通しています。
一方、日本ではAIやデジタルの活用が、特に小規模な企業まで十分に広がっていません。大企業は専門部署や予算を持ち、全社的な導入を進めやすいのに対し、中小企業では、経営者や少人数の社員が営業、採用、教育、資金繰り、顧客対応まで担っています。
AIに関心があっても、「何に使うのか」「情報を入力して大丈夫なのか」「誰が社員に教えるのか」「費用に見合う成果が出るのか」を、日々の業務と並行して判断しなければなりません。最も支援を必要としている企業ほど、導入の入口で止まりやすい構造があります。
労働生産性にも、その差は表れています。大企業の労働生産性は上昇傾向にある一方、中規模・小規模企業ではおおむね横ばいが続いています。中小企業を業種別に見ても、多くの業種で伸びは限定的で、特にサービス業では改善が小さい傾向があります。
補助金や助成金も、本来は中小企業の成長投資を後押しする大切な制度です。ただ、制度があることと、必要な企業が使いやすいことは別です。情報収集、要件確認、事業計画、申請、実績報告までの負担が大きく、専任担当者を置けない企業ほど活用のハードルが高くなります。制度と現場の間には、まだ埋めるべき距離があると感じています。
だから私たちは、AI研修、Web集客・営業支援、補助金活用を別々に考えません。人が学び、業務を改善し、顧客に選ばれ、得られた利益や制度活用を次の投資につなげる。この成長循環をつくることが重要です。
中小企業には、経営者の意思決定が速いこと、現場と顧客の距離が近いこと、地域で築いてきた信頼があることなど、大企業にはない強みがあります。その強みをAIと戦略で生かし、日本の地域、雇用、産業を強くしていきたいと考えています。
短期的な売上より、長期的な競争力をつくる
——経営判断の軸となっている考え方はありますか。
未来から逆算して考えることです。目の前の売上や流行だけを追うのではなく、三年後、五年後に「この会社が選ばれ続ける理由は何か」を考えます。一時的な成果が出ても、担当者が変われば止まるようでは、本当の競争力にはなりません。知識や導線、業務の進め方を資産として残し、改善を重ねられる状態をつくることが大切です。
また、まず自分から価値を提供する姿勢も大切にしています。お客様の代わりに主役になるのではなく、お客様が前に進める状態をつくる。それが支援者として誠実なあり方だと考えています。
違いを否定せず、覚醒と化学反応が生まれる組織へ
——従業員やパートナーとの関係で大切にしていることを教えてください。
一緒に働く人を、単なる作業の担い手として見ないことです。専門性、経験、将来の目標が違うからこそ、チームには新しい発想が生まれます。報酬を支払う側が一方的に上だという考え方では、良い仕事は続きません。目的を共有し、役割と期待を明確にしながら、互いの仕事に敬意を持つことが重要です。
——どのような組織をつくりたいと考えていますか。
私は「覚醒と化学反応」を大切にしています。誰かが本気で挑戦する姿は、周囲にも前向きな変化を起こします。また、異なる専門性や意見がぶつかるとき、そこから一人では生み出せなかったものが生まれることがあります。
目的のために必要な意見を交わし、改善すべきことには向き合う。意見の違いはあっても人格まで否定しないこと、成果と学びを共有することを大切にしたいと思っています。
AIも同じです。分からないことがあれば、すぐに答えを求める前に、まずAIを相手に考えを整理してみる。仮説をつくり、人と議論し、より良い答えに磨き上げる。AIを“人の仕事を奪う存在”ではなく、個人と組織の思考を深めるパートナーとして使いこなせるチームをつくっていきたいです。
先行者で終わらず、知識と実装力を資産にする
——今後、どのようなことに挑戦していきたいですか。
AIを使っていること自体が差別化になる時代は、長くは続かないと思います。今後問われるのは、AIを使って何を変えたのか、どのような成果が再現できるのかです。
Bizteachでは、学習の進捗や理解度の見える化を強化し、将来的には現場での実践や成果とつなげて、より良い教育や改善策を提案できる仕組みを目指しています。
——その実現に向け、どのような取り組みを進めていますか。
一社で完結することにも限界があります。システム開発やデータ解析など、高度な専門性が必要な領域では、技術者や専門家、パートナー企業と柔軟に連携していきます。それぞれの強みを束ね、「この会社となら、構想だけで終わらず実現できる」と思っていただける存在になれるように進めています。
体を動かし、思考を切り替える時間
——仕事以外では、どのようにリフレッシュしていますか。
体を動かすことです。ロードバイクやジョギングを続けており、毎日10キロを走り、100キロのウルトラマラソンを完走しました。長距離走では、ペースを守り、苦しい局面を越え、最後まで積み重ねることで前に進めます。その感覚は、事業づくりにも通じています。
屋内では、チェスや将棋などのボードゲームのほか、Nintendo SwitchやPlayStationなどのデジタルゲームも楽しんでいます。人が思わず続けたくなる仕掛け、いわゆるゲーミフィケーションにも関心があり、その考え方は、忙しい人でも学びを続けやすくするBizteachの設計にも生かしていきたいと思っています。
戦略を考える時間と、純粋に遊びへ没頭する時間の両方があるからこそ、発想を切り替えられる。これからも、人とAIの可能性を信じながら、中小企業が自らの力で未来を切り拓ける仕組みをつくり続けていきます。