武士道の教えを元に青少年育成を 和の文化を次世代へつなぐ
一般社団法人和文化教養普及協会 埴原 有希士氏
青少年の育成と、日本文化の国内外への発信に取り組む埴原氏。学校や地域の学習施設で、歴史や刀剣を題材とした出張講演を行うほか、戦国時代から受け継がれてきた武士道の哲学を活かし、経営者向けのコーチングにも取り組んでいます。採算や目先の利益だけを追うのではなく、文化と学びを次世代へ手渡していく。その活動の根底には、幼少期から学んできた武士道と、周囲から受けた恩を未来へつなぎたいという思いがあります。
目次
歴史と文化を学び、世界へ羽ばたく人材を育てる
――現在の事業内容について教えてください。
当社では、青少年の育成事業と、日本文化を国内外へ発信する事業を行っています。自分たちでイベントを主催し、地域への貢献や青少年の活動支援に取り組むという形です。
また、小中学校を中心に、高校や地域の学習センターなどへ出向き、講演を行うこともあります。主なテーマは、歴史や刀剣、戦国時代の武士に関する内容です。子どもたちが興味を持ちやすい題材を通じて、歴史や文化への理解を深めてもらうことを大切にしています。
――事業には、どのような理念を掲げていますか。
当社は、「子どもたちが自国の歴史や文化を学び、世界に羽ばたく人材になること」を活動理念としています。私は新宿で15年にわたり、古武道を教えてきました。そのなかで得た知見を、次の世代を担う子どもたちへ伝えたいと考えています。
古武道は、現代では非常に限られた分野です。その世界で活動を続けてこられたのは、周囲の方々の支えがあったからだと思っています。
受けた恩を支えてくださった方々だけに返すのではなく、少年少女たちへ。日本人として身につけておきたい教養や日本人らしさを伝えていきたいです。採算や収益を最優先にせず、育成と文化発信に力を注いでいる点が、当社の大きな特徴です。
教育への関心と武道の経験が、起業への道を開いた
――経営の道へ進まれたきっかけを教えてください。
私は、もともと一般企業の社員でした。しかし、最初に勤めた企業を早い段階で辞め、その後、教育系の社団法人へ転職。その法人では、資格試験や検定事業に関わり、数年後には事務局の責任者を務めました。
さらに、別の社団法人でも同じような立場で仕事をするなかで、教育事業への関心が次第に強くなっていったのです。一方で、古武道を教える仕事も並行して続けていました。
経験を重ねるうちに、自分が取り組みたいことが明確になり、まずは武道の仕事で独立しました。その事業が軌道に乗った後、教育事業にも本格的に取り組みたいと考え、現在の企業を設立したという経緯があります。
――経営上の判断では、何を基準にしていますか。
私が幼少期から学んできた、武士道の教えを判断の基準にしています。戦国時代の武士や戦国大名には、人をどのように活かすか、どのように判断するか、そして、どのように生きるかという哲学的な教えがあるのです。私は、その考え方を経営にも活かしています。
こうした考え方は、多くの経営者の方からも評価いただいているため、現在は、戦国時代から受け継がれてきた武士道を基礎とする、経営者向けのコーチングも行っています。
私個人の経験や価値観だけを伝えるのではありません。長い年月をかけて受け継がれてきた哲学を、経営にどのように活かすかを伝えることに意味があると考えています。
仕事を始める前に、信頼できる関係を築く
――現在は、どのような体制で事業を運営していますか。
当社では、雇用している人と、継続的に業務をお願いしている人をあわせて、およそ10人で事業を運営しています。
事業の性質上、大人数を必要とする仕事ではありません。それぞれが役割を担いながら、活動を進めています。
――一緒に働く人との関係で、大切にしていることは何ですか。
当社では、仕事をお願いする前に、人間関係を築くことから始めています。しっかりとした信頼関係ができた後に、業務を発注したり、雇用したりする形です。そのため、仕事が始まる時点で、すでに十分なコミュニケーションが取れています。雇用してから少しずつ関係を築いていく一般的な形とは、やや異なるかもしれません。
今後、新たな仲間や後継者となる人を迎える場合も、長い時間をかけて信頼関係を築けることを重視します。例えば、私の武道を長年学び、相手の能力や人柄を理解できている人であれば、一緒に働く相手としてもっとも望ましいと考えています。
子どもの関心を、日本文化を守る力へ変える
――今後、挑戦したいことを教えてください。
これまでの取り組みを大切にしながら、青少年の育成や学習支援をさらに広げていきたいです。新たな取り組みの1つとして、子どもたちが楽しみながら日本文化を学べる検定事業を考えています。
まだ着手はしていませんが、日本文化に深く関わる、親しみやすく楽しい内容にしたいと思っています。子どもたちが自ら興味を持ち、喜んで日本文化を学べる仕組みをつくることが目標です。
――日本の伝統文化には、どのような課題があると感じていますか。
日本の伝統工芸には、存続が難しくなっている分野が数多くあります。日本刀もその1つです。古い刀は現在も数多く流通していますが、新たに刀を打つ職人への需要は非常に限られています。歴史のある刀より、新しくつくる刀のほうが高価になる場合もあり、結果として新作が選ばれにくくなっています。
このままでは、文化を支える職人の世界が先細りし、失われる可能性があります。だからこそ、次世代の若者たちに伝統文化へ関心を持ってもらいたいです。職人を目指すことも、伝統工芸品を購入することも、何らかの形で携わることもできます。
関わり方は1つではありません。日本文化に触れ、その発展を支える次世代を育てていきたいと考えています。
仕事を楽しみ、「志」を同じくする仲間と歩む
――どのようにリフレッシュしていますか。
私は、仕事や現在の取り組みそのものを楽しいと感じています。そのため、普段はあまり息抜きの必要性を感じていません。休むときは、お酒や食事を楽しむことが多く、新宿で飲み歩くこともあります。また、温泉も好きです。
最近はなかなか行けていませんが、温泉でゆっくり過ごす時間は良い気分転換になります。これからは、そうした時間も少しずつつくりたいと思っています。
――経営において、もっとも大切にしている思いを教えてください。
私がもっとも大切にしているのは「志」です。武士道における志は、現代の言葉で表すなら、美学に近いものだと考えています。自分が何を目指し、どのように生きるのか。その志を掲げることで、考えに賛同してくれる仲間が集まります。
私は、同じ志を持つ人たちを大切にし、力をあわせて前へ進んでいきたいです。目先の収益や自分だけの利益にとらわれず、関わる人たちとともに良くなっていくことを、これからも大切にしていきます。