「回復から看取りまで」一人ひとりの「より良く生きる」を支える在宅医療

よりそう訪問診療クリニックなぎの木 院長 石部 正和氏

在宅医療は「人生の最終段階を支える医療」というイメージを持たれることも少なくありません。しかし、よりそう訪問診療クリニックなぎの木では、「回復から看取りまで」を理念に掲げ、一人ひとりが自分らしく暮らし続けられるよう支援しています。訪問診療を中心に、訪問リハビリテーションや訪問鍼灸まで幅広く展開し、病気だけでなく、その人の暮らしそのものを支える医療を実践しています。本記事では、院長の石部正和氏に、クリニックの強みや経営への想い、今後の展望について伺いました。

「当たり前」を高い品質で実践する在宅医療

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

当院では、訪問診療を中心に、訪問リハビリテーション、そして7月からは訪問鍼灸も開始し、在宅医療を幅広く提供しています。

特徴として大切にしているのは、「当たり前のことを、当たり前に、高い品質で行うこと」です。困ったときに相談できる。必要なときにはちゃんと対応する。病気だけを診るのではなく、その人の暮らしまで考える。自分たちだけで解決できなければ、地域の専門職につなぐ。そして、回復を目指す時期から人生の最終段階まで、責任を持って関わり続ける。一つひとつは医療として当たり前のことかもしれません。しかし、その「当たり前」を一つも疎かにせず、高い水準で積み重ねること。それが私たちの考える、質の高い在宅医療です。

――他院にはない強みはどのような点でしょうか。

私自身がリハビリテーション科の専門医として長年在宅医療に携わってきた経験を生かし、病気だけでなく「歩く」「食べる」といった生活機能の回復や維持にも専門的な医療を提供できることが大きな強みです。

在宅医療では、病気を安定させるだけでなく、「もう一度歩きたい」「口から食べたい」「自分でトイレに行きたい」といった、その人の暮らしそのものを支えることが重要だと考えています。

札幌市では、リハビリテーション科の専門医が在宅診療を行っているケースは珍しく、生活そのものを支える視点で医療を提供できることに大きな価値があると考えています。

「回復から看取りまで」に込めた想い

――理念やビジョンについて教えてください。

当院が最も大切にしているのは、「回復から看取りまで」という考え方です。

在宅医療は、人生の最終段階を支える医療という印象をもたれることがありますが、それだけではありません。栄養管理やリハビリテーションなど、適切なケアを行うことで状態が改善する方もいらっしゃいます。

年齢や病気を理由に諦めるのではなく、「もっと良くなりたい」「こんな生活を送りたい」という患者さんやご家族の想いを大切にし、その実現方法を地域のさまざまな専門職と一緒に考え続けることが私たちの役割です。関わるすべての人に、そのような支援ができる存在でありたいと考えています。

医療・介護に携わる人が、やりがいを持てる環境をつくりたい

――経営者を目指したきっかけを教えてください。

医療・介護・福祉の現場で働く人たちが、もっと充実感を持って仕事に向き合える環境をつくりたいという思いが、経営の道を選んだ大きな理由です。

これまで、制度や評価の仕組みに課題を感じる場面もありました。だからこそ、自分のクリニックでは、働く人が主体的に挑戦でき、努力や成長がきちんと承認・評価される環境を整えたいと考えています。

そして、仕事が生活を支えるだけでなく、一人ひとりの成長や自己実現にもつながる。そんな職場をつくりたいと考えています。

――経営判断の軸となっている価値観を教えてください。

クリニックでは「尊重・対話・協働・成長・挑戦」という5つのバリューを大切にしています。

「患者さんを尊重できているか」「チームで対話し、協力できているか」「この判断は成長や挑戦につながるものか」と振り返りながら日々の意思決定を行っています。

対話を通じて、一人ひとりの力を引き出す組織づくり

――組織運営で大切にしていることは何でしょうか。

対話の機会を意識的に設けることです。

開業前から組織コーチングやパーソナルコーチングを学び、対話によって相手の考えや可能性を引き出すことを大切にしてきました。現在もワークショップや勉強会、スタッフとの1on1を通じて、一人ひとりが安心して意見を出せる環境づくりに取り組んでいます。

患者さんに良い医療を届けるためには、私たちが仕事に誇りや充実感を持てることが大切だと思っています。スタッフ一人ひとりが「ここで働いて成長できた」「この仕事をしていてよかった」と思える組織をつくりたい。その結果として、患者さんや地域により良い医療が返っていく。そんな循環をつくることが私の経営者としての目標です。

――どのような人と一緒に働きたいと考えていますか。

率直で誠実な方です。

当院が大切にしている5つのバリューに共感し、患者さんや仲間と真摯に向き合える方と一緒に、チームとして成長していきたいと思っています。

地域全体で「食べる力」を支える仕組みづくりへ

――今後の展望について教えてください。

今後は「回復」の取り組みをさらに強化していきたいと考えています。

特に力を入れたいのが、「食べる力」を支える体制づくりです。食べることは、栄養を摂るということだけでなく、楽しみや人とのつながりにも関わる、生活の中で大切な営みです。その力を支えることは生活の質の向上にもつながります。

管理栄養士や歯科衛生士、言語聴覚士、リハビリテーション専門職など、多職種が連携しながら地域全体で「食べる」を支える仕組みづくりを進め、多くの方の暮らしに貢献していきたいと考えています。

一方で、現在は業務のシステム化や見える化、人材育成など、組織基盤の強化にも取り組んでいます。開業以来、柔軟に課題を乗り越えながら歩んできましたが、これからはより強固な組織づくりを進め、地域からさらに信頼されるクリニックを目指していきます。

本質を見失わず、人も地域も幸せになる医療を

――経営で譲れない考え方を教えてください。

本質を見失わず、長期的な視点で考えることです。「今、得をするか」ではなく、「5年後、10年後に振り返っても、この判断で良かったと思えるか」を大切にしています。

数字だけを追いかけようと思えば方法はいくらでもあります。しかし、それが本当に患者さんや地域のためになるのか、スタッフの成長につながるのかという視点を常に大切にしています。

その考え方は日々の意思決定だけでなく、スタッフにも伝え続けています。

――休日のリフレッシュ方法を教えてください。

一番のリフレッシュはサウナです。頭を空っぽにする時間を意識的につくっています。

「良くなりたい」という思いも、「自分らしく最期まで暮らしたい」という思いも、どちらも大切にしたい。回復から看取りまで、一人ひとりの「より良く生きる」に向き合い続ける。それを地域の仲間と一緒に実現できるクリニックであり続けたいと思っています。

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