AI時代の企業価値を再定義し、人とAIが共に未来をつくる経営へ
ビューラキャピタルイノベーションホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO 門脇 直樹氏
AIによって知識や分析が民主化され、効率だけでは競争優位を築けない時代が訪れています。ビューラキャピタルイノベーションホールディングス株式会社は、投資、経営参画、AI、テクノロジーを組み合わせ、企業の存在意義から事業をつくり直す企業です。代表の門脇氏に、創業の背景、人とAIを対等な仲間と捉える組織づくり、経営者の役割を再定義する「Human-on-the-Loop経営」、そしてAI時代に求められる企業価値について伺いました。
目次
効率化競争から企業価値を定義する競争へ
――現在の事業内容について教えてください。
当社は、AI時代における企業価値の再定義を推進しています。AIによって知識や分析、最適化が民主化されると、「いかに効率よく行うか」だけでは競争優位を築けません。
これから大きな価値を生み出すのは、もっとも効率的な企業ではなく、自らを再定義し続けられる企業だと考えています。AI時代の競争は、『与えられた問題を、いかに効率よく解くか』から、『どのような未来をつくるのかを定義するか』へ移っていくと考えています。 分析だけでは企業は変わらず、変革は現場でしか起こりません。
そこで当社は、資本を投じ、自ら経営に入り、事業をつくり直します。単なるコンサルティング企業でも投資企業でもなく、「企業と共に未来をつくる企業」であることが特徴です。
――理念やビジョンに込めた思いを教えてください。
当社のパーパス(目的)は、『世界中の人々を、幸せにする』です。そしてミッションとして、『未来価値を生み続ける企業を増やす』を掲げています。そのために、ビジネス、テクノロジ、資本の3つを組み合わせ、企業そのものを再定義していきます。 その実現に向けて、「投資し、経営に入り、再定義し、企業価値をつくり、未来をつくる」というビジョンを掲げています。
私の原点にあるのは、「未来は予測するものではなく、つくるものである」という考えです。過去の成功体験から抜け出せない企業に対し、当社自身がリスクを取り、経営の現場で存在意義から再定義していきます。
過去の答えではなく未来への問いを持つ
――経営者を志したきっかけを教えてください。
大学時代、経営者や建築家、街づくりに関わる方々の講演を聞きました。従業員とは異なる視座で語る姿が印象的で、私も経営者になりたいと考えるようになったのです。
ただ、大学を出たばかりの自分に、何かができるわけではありません。そこで、自分の鼻を折ろうと考え、ソニーの工場で油まみれになりながら、ものづくりを経験しました。
その後、IBMで20年間にわたりAIや企業変革に関わり、PEファンドの投資先企業ではCEOとして経営を担いました。技術、ビジネス、資本という3つの現場を経験したことが、現在の経営につながっています。
――経営判断で大切にしていることは何ですか。
私の判断の軸は、「未来から見て意味のある仕事か」という問いです。短期的な利益も重要ですが、それだけでは未来をつくれません。
私は、「人類の可能性を広げるか」「未来世代に価値を残せるか」「世界の人々をより幸せにできるか」を自分に問いながら、意思決定しています。
人とAIを共に未来をつくる仲間として捉える組織
――AIエージェントに社員番号を付与している理由を教えてください。
当社は、これからの企業を、社員数だけで見るべきではないと考えています。「人間の社員数にAIエージェントの数を加えた組織」として捉える時代が来るからです。
AIは、単なる便利な道具ではなく、共に未来をつくる仲間です。その考えをわかりやすく示すため、当社ではAIエージェントに社員番号を付与しています。
AIを単なる道具として扱うのではなく、共に仕事をする仲間として向き合うことが重要だと考えています。ただし、目的を定め、最終的な責任を負うのは人間です。 人とAI、AI同士が対話し、協調しながら仕事を進め、もっとも良いアイデアと高い志が尊重される組織を目指しています。
――人とAIの役割は、今後どのように変化すると考えていますか。
現在は、人間がAIの出力を確認する「Human-in-the-Loop」が一般的です。しかし、AI自身が検証と修正を繰り返せる領域は広がっています。
そうなると、人間はループのなかで逐一確認するのではなく、ループの外側に立つことになります。 人間の役割は、一つひとつの処理を確認することから、目的、価値基準、予算、権限、停止条件を設計し、AIシステム全体を監督することへ変わります。私は、この経営のあり方を『Human-on-the-Loop経営』と呼んでいます。
AIと異なる選択をする自由はありますが、その選択には責任が伴います。AIの提案に従うのか、あえて異なる判断をするのか。人間には、これまで以上に明確な意志と責任が求められます。
――社員の可能性を引き出すために意識していることは何ですか。
私が大切にしているのは、新しい役割を企業が一方的に与えるのではなく、一人ひとりが次に何をしたいのかを考えることです。AIによって現在の仕事が減れば、本当に取り組みたかった企画や新しい挑戦に時間を使えるかもしれません。
だからこそ、メンバーには、「感じる・考える・経験する」という3Kを大切にしてもらっています。マネージャーやリーダーには、「聴く・決める・感謝する・機会を与える」という4Kを意識してもらいます。
人間の脳資本を活かす次世代経営への挑戦
――今後、どのような経営モデルを実現したいと考えていますか。
私は、AI時代の変化を、知識の民主化、人間価値の再定義、自己定義型社会、企業の再定義、未来価値創造という「5つの波」で捉えています。現在は、第1、第2の波が押し寄せている過渡期です。
これからは、知識量や情報処理能力を競う経営から、人間の意志、問いを立てる力、創造力を最大化する経営へ移行する必要があります。私は、この考え方を「脳資本経営」と呼んでいます。知識量そのものではなく、人間が持つ意志、問い、創造性、感性、経験を企業の重要な資本として捉える考え方です。
当社は、脳資本経営とHuman-on-the-Loop経営を自社や投資先企業で実践し、社会実装していきます。
――今後、どのような企業の変革に取り組みたいですか。
当社は、IT系と製造系の企業を中心に、投資や買収を通じて経営に入りたいと考えています。ビジネス、テクノロジー、資本の3つを組み合わせ、企業の変革を進めるためです。
IT業界は変化が速く、AIの登場によって、依頼されたものをつくるだけでは仕事がなくなる可能性があります。一方、日本の製造業には、長年培ってきたものづくりの強みがあります。
一方で、中堅・中小企業では、AIやデジタル変革を担う人材や経営資源が十分ではないケースもあります。だからこそ、外から助言するだけではなく、資本を投じて経営に入り、企業が持つ技術や人材の可能性を引き出したいと考えています。 そうした企業が新しい領域へ進めるよう、経営に入り、企業価値そのものをつくり直していきます。
AIにはできない時間が新しい発想を生み出す
――休日はどのように過ごしていますか。
私は、家族、特に幼い子どもたちと過ごす時間を大切にしています。子どもと遊ぶこと、自然に触れること、身体を動かすことなど、「AIにはできないこと」に意識的に時間を使っている感覚です。
仕事に関する情報を頭に入れた上で、異なることをしながら過ごしていると、別々だった考えが結び付き、新しい発想が生まれることがあります。
AIに任せられることが増えるからこそ、人間にしかできない体験や、心と心が通じる対話の価値は高まります。AIによって自分の仕事が置き換わったとき、次に何をしたいのか。その問いを一人ひとりが持ち、自ら未来をつくれる社会を実現していきたいです。