香りをつくる、という生き方――Hiroko.K株式会社が届けたいもの
Hiroko.K株式会社 代表 近藤 博子氏
「呼吸を誘う化粧品をつくりたい」——そう語る近藤博子氏が率いるHiroko.K株式会社は、ECOCERT認証のオーガニック素材だけを使った香水・スキンケア製品を開発・販売するブランドだ。フランスにラボを構え、自ら調香し、素材を選び、輸入まで手がける。その根底にあるのは、鉄の塊から内燃機の主要部品を削り出す製造現場で磨いてきた「素材への眼」と、生き直してきた経営者の経験だった。
目次
素材から向き合い、自ら開発するオーガニック製品
―― 現在の事業内容について教えてください。
オーガニック素材だけを使った香水と、オーガニック・ナチュラルのスキンケア製品を開発・製造・販売しています。卸売と一般消費者向けの直販を両輪で動かしていて、利益率ではB2C、売上規模では卸が大きい状況です。
私自身、フランスでオーガニックを深く学んだ経験があり、今もフランスにラボを持って調香や研究開発に取り組んでいます。開発は、今の私の仕事のど真ん中にあります。
―― 競合と比べた際の強みはどこにあると思いますか?
まず「自社開発ができること」。小さなブランドが新商品を作り続けるのは容易ではありませんが、私自身が調香し、素材も自分で選んでいるので、市場の声を感じながら素早く商品に落とし込めます。
もう一つは素材の調達です。原料から、つなぎに使うオイル・アルコールに至るまで、フランスのECOCERT(エコサート)基準を意識して選び、現地のメーカーと直接取引して自分で輸入しています。仲介業者を通さないことで品質の一貫性を保てる——これが他社との大きな違いです。
鉄の塊と向き合った現場で培った「つくる眼」が、香りの原点に
―― 経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
もともとはエンジニアで、船のディーゼルエンジンに使われる内燃機の主要部品——鉄の塊を削り出してつくる、重さにして1トンを超えるものもある——を製造・納品する仕事をしていました。父の会社が倒産し、家族の生活を守るために若いころから会社に入り働くことになったんです。
既存の取引先がなくなったところから、自分で営業先を一から開拓しました。当時はまだ若かったので「課長」という肩書きの名刺を作って営業に回り、仕事が安定してから「部長」に書き換えました(笑)。経営をしたくて始めたというより、経営せざるを得ない状況から始まったというのが正直なところです。
―― 当時の経験は今の事業にどう生きていますか?
何をつくる場合でも、ものづくりの本質は変わらないと感じています。素材を選び、仕入れ、加工し、検査して製品として出す——この流れは内燃機部品の製造でも、香水でも同じです。内燃機部品の製造現場で叩き込まれた「素材への眼」と「品質を妥協しない姿勢」が、今の商品開発の土台になっています。
その後、会社を売却してイギリス製品の輸入販売に携わりました。イギリスでは植物や自然素材を日常的に取り入れる民間療法の文化が根づいており、その豊かさに触れるうちに「素材の力を一から学び直したい」という思いが芽生えました。それがフランスでオーガニックを深く学ぶきっかけになったんです。素材の選定から製品化まで、一連の組み立てをフランスで体系的に学んだことが、今のブランドの土台になっています。ホテルアメニティや銀行の贈答品など、B2Bの難しさをさんざん経験したのもその頃です。百貨店営業にも挑戦するなかで、化粧品と香りの世界へ辿り着き、2013年にHiroko.K株式会社を設立しました。
「開発」を軸に、まだ知られていない価値を届ける
―― 今後の事業展開についてどのようにお考えですか?
利益だけを優先するなら、今のやり方には見直す余地があると自覚しています。私は研究開発が中心なので、いわゆる営業部門があるわけではない。自分たちの考え方や製品を深く理解してくださるパートナーを探しながら、一つずつ丁寧に広げている状態です。
オーガニックの香りについて、素材や香りの違いを知っていただくための発信活動も大切にしています。単なるPRとは違う——価値そのものを伝えていく活動ですね。同じ思いを持つ会社と出会えれば、もっと大きく広げられると思っています。
―― 現在、特に向き合っている課題は?
「天然のものを選ぶことの意味」を、一人ひとりに伝えていくことが最大のテーマです。個人の意識が変わらなければ、企業もその方向には動きにくい。だからこそB2Cで丁寧に伝え続けることが、最終的には大きな流れをつくると信じています。
SNSを通じた発信も強化しながら、人と人がつながるマーケティングに力を入れていきたいですね。今はまだ小さなマーケットですが、3年後には今の10倍を目指したい。やり方次第で、その可能性は十分にあると考えています。
自然に触れ、素材で遊ぶ。その時間が感性を育てる
―― 休日はどのように過ごされていますか?
自然の中に出かけることと、料理です。山のほうへ行って自然に触れる時間が好きで、仕事の感覚をリセットしてくれます。
料理は、食べることよりつくることが楽しい。最近は白米や玄米を使わず、雑穀だけでどうおいしく仕上げるかをずっと試しています。素材そのものに向き合い、「どうすればもっと良くなるか」を考えるのが好きなんでしょうね。仕事と地続きの感覚があります。
「開発」だけは、譲らない
―― 事業を通じて、社会をどう変えていきたいですか?
肌呼吸、鼻呼吸——そこから自然なもので人をサポートできる製品を作り続けたいと思っています。香りが空気に漂い、その空気を吸うことが気持ちいい。私たちは「呼吸を誘う化粧品」という考え方を大切にしているんです。
これからの時代、自分自身を心地よく、楽しくしていくことはますます大切なテーマになる。そのために私たちの香りができることを、まだまだ追求していきたいですね。
―― 経営において「ここだけは譲れない」というものを一つ挙げるとすれば?
「開発」です。何のために開発を続けているかといえば、ブランドをつくるためなんです。さまざまな仕事を経験してきた中で、自分自身でブランディングし、自らの手で開発できるものとして辿り着いたのが「調香」でした。
借り入れや外部投資に頼らず、コツコツと事業を積み上げてきました。簡単な道ではありませんが、「売れるものだけを探す会社にはしたくない」という思いは、ずっと変わっていません。
だからこそ、開発を止めません。自分たちが本当に良いと信じるものをつくり、その熱量を自分の言葉で届けながら、Hiroko.Kというブランドを一歩ずつ育てていきたい——その気持ちだけは、どんな局面でも揺らいだことがありません。