「本人主義」を貫き、後見制度の課題に向き合う――後見の杜が目指す“最後の砦”としての支援

一般社団法人後見の杜 代表 宮内 康二氏

一般社団法人後見の杜は、認知症高齢者や障害のある方、その家族などから寄せられる相談への対応を中心に、自治体や病院、企業などへのセミナーや実務支援にも取り組んでいます。法律や税務など個別の専門領域だけでは解決が難しい困難事案に向き合い、必要以上に制度を利用せず、できるだけシンプルな解決を目指していることが特徴です。今回は、代表の宮内康二氏に、事業への思いや経営判断の軸、今後の展望について伺いました。

個別相談に寄り添い、困難事案の「最後の砦」へ

――現在の事業内容について教えてください。

事業の8割は、個別のご家族からのお困りごとの相談対応です。親が認知症になった、子どもに障害があるといった方から、特にお金をどうしたらいいかという相談を受けています。不動産や相続、遺言、家族信託、保険制度など、さまざまな選択肢がありますが、当事者はかえって混乱してしまうことがあります。

そこで当社では、「何もしない」ことをベースに、「これだけやっておけば、大丈夫」というところまで整理し、できるだけシンプルにしていくことを大切にしています。

残りの2割は、自治体や病院、企業などへのセミナーや実務支援です。弁護士などに相談しても解決できなかった困難事案が、最後に当社へ持ち込まれることもあります。法的な知識だけでは解決できない問題について、もう少し工夫できないか、大げさな対応をしなくても済む方法はないかを考えています。弁護士や役所、銀行などから紹介されることもあるため、「最後の砦」として向き合っています。

――事業や理念には、どのような思いが込められていますか。

私はもともと高齢者問題全般を研究していて、年金や介護、成年後見制度などを見てきました。成年後見制度は、良い後見人がつけばいいのですが、悪い人がつくと大変なことになる。毒にも薬にもなる制度だと感じています。

20年以上前から制度に着目し、実際に利用している人たちに会って事例を積み重ねてきました。その中で、制度の趣旨どおりに運用されていないケースも見てきました。本人が住み慣れた家で暮らしたいと思っていても、後見人の判断で施設に入り、家を売却するようなケースです。制度によって守られるはずの本人の居場所や財産が、逆に失われてしまうことに疑問を持つようになりました。

年を取ることや認知症になること、障害があること自体が悪いのではなく、それを受け入れられない社会の側に問題があるのではないか。そう考え、成年後見制度をめぐるトラブルの改善に取り組むため、一般社団法人という形を選びました。

経営判断の軸は「本人主義」

――経営判断をする際に、大切にしている価値観や信条を教えてください。

「本人主義」です。認知症高齢者や知的・精神障害者の本音を見て、それを社会化することを大切にしています。

例えば、認知症のお父さんをめぐって家族同士に争いがあり、息子さんから相談を受けたとしても、相談者の利益だけではなく、お父さん本人がどう思っているのかを考えます。

本人の意思を無視した対応につながるのであれば、どれだけお金を払うと言われても依頼を受けないことがあります。売上だけを考えれば大きな案件を受ける選択肢もありますが、私は本人主義を貫いてきました。

次代を担う人材と、仕組みづくりへの挑戦

――今後、一緒に働きたい人材像を教えてください。

後継者については、これまで50人ほどを研修し、そのうち数年はOJTも行いました。ただ、かなりの知識と勇気がないとできない仕事なので、今のところ適任者は見つかっていません。

来てもらいたいのは、私より若い30~40代くらいで、社会人として3~5年ほどの経験がある人です。業界は問いません。さらに、親や祖父母が認知症になった経験がある、あるいは身内に知的障害や精神障害のある方がいる人が理想です。実際に制度やサービスを使った経験があれば、当事者や家族の気持ちも分かると思います。

――今後、力を入れていきたいことは何でしょうか。

これまで最も時間とお金を使ってきたのは、採用や営業よりも「伝える活動」です。成年後見制度を利用している人に何が起きているのかを、多くの人に理解してもらうことを大切にしてきました。

取材を受けたり、本を書いたり、全国でセミナーを開催したりしてきました。参加者が2人しかいないセミナーでも実施し、何百回と開催してきたと思います。今の日本で何が起きているのか、そして「明日は我が身かもしれない」ということを伝えてきました。

これからは、これまでアナログで行ってきた業務をシステム化したいと考えています。この案件ならこういうソリューション、というように、プロセスや時間、金額まで見えるようにし、部分的には外注できるところを切り分けたい。私にしかできない部分に集中できる体制をつくっていきたいと思っています。

制度そのものをより良くするために

――社会に対して、今後どのような挑戦をしていきたいですか。

成年後見法の改正が決まり、施行までに2年半ほどあります。その間に、銀行業界や高齢者団体などが新しい制度をどう運用していくか協議し、事務規定などをつくっていくことになります。そこにも関わっていきたいと考えています。

また、アメリカのカリフォルニア州では、後見の運用について、違法かどうかだけではなく、倫理的にどうなのかという点まで評価する新しい法律ができています。現在、裁判所から2000件の事例を出して専門家が評価手法を研究しており、私もその研究に関わっています。

そうした仕組みを日本にも導入できないかと考えています。裁判所に任せればいいというだけではなく、裁判所の業務を評価する第三者機関のような仕組みをつくる。自分の会社が相談者に直接できることだけではなく、成年後見制度の業界全体を変えていくような仕組みをつくりたいと思っています。

「私でできないか、誰もできない」という責任感

――仕事をするうえで、譲れない思いはありますか。

「まず俺で食い止める」ということです。必ず解決してやろうと思っています。誰かに紹介して終わりではありません。どこに相談しても駄目だったからこそ、私のところに来ているわけですから、私がこの困った状況を食い止め、改善の方向へ持っていけないかを、どんな案件でも考えます。

「私でできないなら、誰もできない」という気持ちで、そのために今も勉強しています。資格を取って、その資格の範囲だけで仕事をするわけではありません。世の中ではいろいろなことが起きるので、これでいいと終わりにすることはありません。

最後に、誰しも年を取り、認知症になる可能性があります。判断能力が不十分になったときに、銀行のお金の出し入れや老人ホームとの契約などを頼む「任意後見契約」を、家族や友人とあらかじめ結んでおくこともできます。こうした、自分たちでできる備えをしておいてほしいと思います。

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