AI時代に芸術の可能性を――The Hearthが目指す、感性を生かした社会変革

The Hearth 代表 黄 松毅氏

The Hearthは、芸術の力を社会課題や企業課題の解決につなげる芸術家支援に取り組んでいます。芸術家のコミュニティを基盤に、ソリューション、アート、サイエンスの3つの軸から、感性や表現、余白の可能性を社会へ広げようとしています。今回は、代表の黄松毅氏に、AI時代に芸術へ注目した背景や経営に対する考え方、今後の展望について伺いました。 

芸術の力で社会や企業の課題解決に挑む

――現在取り組まれている事業の特徴について教えてください。

芸術家支援を軸に活動しています。大きくソリューション、アート、サイエンスという3つの軸があります。

ソリューションでは、さまざまな社会課題や企業課題に対して、芸術の力を使って解決できる方法をご提案しています。アートの領域では、絵画や彫刻、建築、楽器演奏など、幅広い芸術家が参加するコミュニティを作っています。これからの時代を担う10代から30代の若手芸術家が中心です。

分野を横断して芸術家同士のシナジーを生み出し、社会課題や企業課題に対してチームを組成してプロジェクトに取り組んでいます。

――サイエンスという軸には、どのような意味がありますか。

芸術の価値は、普段から芸術に触れている方には感覚的に理解されやすい一方で、ビジネスの世界では伝わりづらい部分もあります。そこで、実際に行った芸術プロジェクトによってどのようなインパクトが生まれたのかを科学的に定量化し、その結果を次のソリューションやプロジェクトにつなげています。

AI時代だからこそ、感性に時間を投資する

――会社を立ち上げた背景を教えてください。

AI時代において、人々はこれから何を仕事にしていくのだろうという問いが、起業のきっかけになりました。私は学部時代の4年間、早稲田大学でエンジニアの専攻で人工知能の研究をしていましたが、ChatGPTが登場する前から、AIが人間の知的生産活動を代替していくことは明らかだと感じていました。

これから効率化やコストパフォーマンス、タイムパフォーマンスといった最適化はAIのほうが得意になっていきます。だからこそ、人間はそれとは違う領域に時間を投資する必要があると考え、芸術に着目しました。

こうした世界観で取り組んでいるところがほかになかったため、自分で「箱」をつくるしかないと思い、起業しました。

――経営判断において大切にしている価値観は何でしょうか。

ロジックはもちろん大切ですが、感情や感性といった部分も組織の中では大事にしています。

仕事の場では、怒りや悲しみなどの感情を出してはいけない、ロジックで最適に仕事を回すべきだという考え方が一般的だと思います。私たちはロジックと感性を分けつつも大切にしています。仕事の現場でも感情を出してはいけないということではなく、対話や表現を通じて、自分のメンタルや感性にも向き合うことを意識しています。

感情や感性を押し殺さない組織づくり

――社内のコミュニケーションで大切にしていることを教えてください。

感情や感性を押し殺さないことです。ロジックだけで物事を進めるのではなく、それぞれが感じたことや考えたことにも向き合いながらコミュニケーションを取ることを大事にしています。

――どのような方と一緒に働きたいと考えていますか。

効率や最適化、コストパフォーマンスに対して少し違和感を感じている方です。それが「仕事がすべてではないよね」という価値観を持っている方は、私たちとマッチすると思います。

反対に仕事は仕事、プライベートはプライベート、感情は感情と完全に切り分けて考える方とは、少し世界観が違うかもしれません。

現在は3名を中心に活動し、業務委託などを含めると10名を超える組織になっています。

芸術の可能性を事業化し、社会に広げる 

――今後取り組んでいきたいことを教えてください。

現在、さまざまな社会課題や企業課題に対してプロジェクトを展開しており、その中から市場で手応えがあり、大きくできそうなものも出てきています。今後はそれらをしっかり事業化し、芸術を活用した新たな事業を生み出していきたいと考えています。

芸術は「お金にならない」「芸術家は儲からない」と思われがちですが、単に収益を生み出すことが目的ではありません。芸術を通じて社会変革を起こし、社会にインパクトを与えられることを、事業化を通じて実績を積み重ねていきたいです。

――現在感じている課題と、その向き合い方について教えてください。

私たちの世界観は、まだ理解されないことも多く、芸術の可能性や表現活動の価値を十分に届けられていないと感じています。だからこそ、もっとスピード感を持って広げていく必要があります。

特に意識しているのが、AIが社会に浸透していくスピードです。AIが思考し、人間がその意思決定や出力に従う社会ができてしまうと、社会構造を変えることは難しくなるかもしれません。だから、のんびりしてはいられないと思っています。

AIに対する一つの対策として、芸術表現や余白、感性といった人間ならではの価値をもっとスピードを上げて拡大していきたいです。

――成長に向けて、現在注力したい分野はありますか。

これから注力したいのはマーケティングです。現在、特に大きくなっていきそうなのが、芸術とマインドフルネスを掛け合わせたワークショップと、そうした体験ができる環境や施設の場をつくっていく取り組みです。

BtoCで展開していくにあたっては、新しい概念を市場に投下していくことになるので、マーケティングにリソースを投資していく必要があると考えています。

音楽を通じて実感した、芸術が持つ力

――これまでの経験の中で、現在の考え方に影響を与えた出来事はありますか。

私はバイオリニストでもあり、アーティストでもあります。3年ほど前に、ドイツ、オーストリア、スイスなどを1カ月かけて回るヨーロッパツアーに参加し、コンサートホールで演奏しました。海外で初めて演奏する機会でした。

日本の曲を持って行ったのですが、特別に高い技術があるわけでも、有名なわけでも、音楽的なセンスが突出しているわけでもありません。それでも、ベルリン・フィルでコンサートをした際には、5回ほどアンコールをいただき、観客の皆さんが総立ちになりました。

その経験から、音楽や芸術表現の力を使えば、国境を簡単に越えられるのだと実感しました。言葉が通じなくても、音楽によって人々の心が通じ合うことができる。その体験によって、AI時代において「体験を共有すること」が大切なのだと改めて感じました。

――休日はどのようにリフレッシュしていますか。

自然に行ったり、友人と旅行したり、何もしない時間をつくったりしています。簡単に言えば、テクノロジーやデバイスから離れることです。休日には、そうしたデジタルデトックスを意識しています。

これからも、AIの時代だからこそ人間にしか生み出せない芸術や感性の価値を社会に広げ、芸術を通じた新たな可能性を形にしていきたいと考えています。さまざまな人や企業と対話しながら、芸術が社会に変化をもたらすことを実績として積み重ね、より多くの人にその価値を届けて行けたらと思います。 

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