統計学を地域の力に――H2K合同会社が挑むデータサイエンスでつくる地方創生
H2K合同会社 代表 上辻 茂男氏
H2K合同会社は、統計学やデータサイエンスを活用し、国や自治体とともに地方創生事業に取り組む会社です。異なる強みを持つ事業者をつなぐ役割から出発し、現在は徳島県でのスポーツデータサイエンス事業を中心に、地域にノウハウを残す仕組みづくりを進めています。代表の上辻茂男氏に、創業の背景や経営判断の軸、今後の展望を伺いました。
統計を「誰もが使える知恵」に
――H2Kを立ち上げた経緯を教えてください。
以前から、統計学を使って医薬品開発に関わる会社を経営してきました。ただ、統計解析にはデータが必要で、私たちはお客様からデータをいただかなければ仕事ができません。
一方、親戚が関わる会社にはデータを預かる仕組みがあるものの、統計解析の機能がない。ならば、お互いの弱みを補える会社をつくろうと考えたんです。両者をつなぐハブとして生まれたのがH2Kです。
――社名にはどのような思いを込めていますか。
私たちは「英知統計」という言葉を掲げています。
統計学を一部の人だけのものにせず、誰もが生かせる知恵にしたい。知らないことで不利になる人をつくりたくないんですね。その言葉を繰り返すうちにH2K(エイチツーケイ)という社名になりました。難しく考えてつけた名前ではないんですよ。
――他社にはない強みは何でしょうか。
私自身は、数学や統計学の研究成果をビジネスに変えてきたことが強みです。
共同経営者は国の予算を活用した事業づくりに強い。そこでH2Kでは、自治体に事業を提案し、関係省庁への働きかけや予算確保を進め、自治体と一緒に実行する形を得意としています。
民間企業からの解析依頼も受けますが、H2Kは国や自治体の事業を主軸にしています。採択に至るまでは大変ですが、国の事業は継続の見通しが立てやすく、仕様も明確です。正論が通りやすいところも私たちには合っています。
研究を社会に還元するために
――経営の道へ進まれたきっかけを伺えますか。
もともとは大学で数学を学び、統計学の研究で博士号を取得して、大学や国の研究機関に勤めていました。ただ、研究成果を社会に還元するという目的より、論文を書くことが優先されているように感じ、考え方が合わなかったんです。
そこで同じ問題意識を持つ当時の上司と、研究をビジネスにしようと会社を始めました。研究そのものではなく、研究が社会に届くところまで関わりたかったという想いからでした。
――経営判断で大切にしていることは何ですか。
一番信頼しているのは科学です。経営者は最後に自分で決断し、その責任を負わなければなりません。だからこそ、科学的に説明できるかを判断のよりどころにしています。
新しい事業でも成功確率を考えますが、私は3割ほど可能性があれば挑戦したい。8割の確率でうまくいく話なら、ほかの人も思いつくでしょう。科学を頼りにしながら、挑戦を避けない姿勢でいたいですね。
地域に人と技術を残す地方創生
――現在、特に力を入れている事業を教えてください。
中心は徳島県での「スポーツデータサイエンス事業」です。バスケットボールの若い選手の動きや能力を測定し、科学的な練習や成長につなげています。四国大学や地元のプロチーム「徳島ガンバロウズ」とも連携しています。
私は熊本出身で、地方の人口減少には以前から関心がありました。大きな都市だけが良くなっても、日本全体が元気になるわけではないと思うんです。地域で競技を続け、学び、将来の進路を考えられる環境をつくることも、若い人の県外流出を抑える一つの方法になると考えています。
――事業では人材育成も重視されているそうですね。
地方創生の事業は、外部の会社が実施して終わると、ノウハウが地域に残らないことがあります。それでは次に同じことをしようとしても、自力でできません。
だから、私たちは地元の学生を育てています。現在は四国大学の学生に、選手のパフォーマンス測定会を手伝ってもらっています。データを取る現場を知ることが、解析を学ぶうえでも重要なんです。外に持ち出すのではなく、その土地に経験と技術が蓄積されることを大切にしています。将来は育った人材が地元で事業を動かせるようにしたいですね。
――少人数の組織では、どんな連携をしていますか。
会社は3人で動いています。私と共同経営者は得意分野が重ならず、もう1人が事務処理を支えてくれています。日々の情報共有はLINEなどで行い、家族のように何でも話します。
意見がぶつかることもありますが、遠慮する必要はありません。大事なのは2人が納得してから動くこと。どちらか1人の判断だけで進めることはしません。
次の挑戦と、組織づくりの課題
――今後、新たに取り組みたい分野はありますか。
健康寿命を延ばすための自治体の取り組みを、統計学で評価する事業を考えています。健康診断や保険、イベントの測定結果など、自治体のデータは散らばっていて、結びつけるだけでも大変です。
そこで、AIを使ってデータを突合する負担を減らし、どんな施策が健康づくりに役立ったかを解析したい。こうしたデータサイエンスやDXの事業について、厚生労働省とも相談を進めています。
――事業を広げるうえでの課題は何でしょうか。
何より人手が足りません。今、専門的な統計解析ができるのは私だけです。依頼があっても、すべてを引き受けるのは難しいですね。
徳島で育った学生を将来採用し、スポーツの事業を任せられれば、私たちは次の事業に取り組めます。育てた人が働ける場所をつくり、その仕組みをほかの地域にも広げていく。そんな形で成長できればと思っています。
科学を信じ、始めたことは必ず着地させる
――経営者として譲れない信条を教えてください。
科学を信じることに加えて、始めた事業はどんな形でも必ず着地させることです。成功しても失敗しても、曖昧なまま終わらせない。そうしなければ、次に何かを始めようとしても誰もついてきてくれません。
もう一つ、社員とその家族は守りたいという思いもあります。会社が大きくなっても、その考えは変えたくないですね。
――仕事から離れた時間はどう過ごしていますか。
週に1度はボルダリングに行きます。壁を眺めて登り方を考え、短い時間で試してみる。5分考えて1分登るような感覚で、考える時間自体が気分転換になります。子供たちとも一緒に登っています。
それから毎朝5分ほど、川や雨の音を流しながら瞑想もしています。呼吸を整えると頭がすっきりしますね。
忙しい毎日ですが、そうした時間も大事にしながら、始めた事業を一つずつ形にしていきたいと思います。