自分が「良い」と思えるものを世界へ。クオリティを貫くサウンド・シンジケートの挑戦
株式会社サウンド・シンジケート 代表取締役 田中 裕之氏
株式会社サウンド・シンジケートは、複数のレーベル事業を主軸に、音源制作、イヴェント・プロデュース、デザインなど、音楽に関連するエンターテインメント領域で幅広く事業を展開。長きにわたり世界各国のチャートで1位を獲得するなど実績を重ね、インディペンデントのダンス・ミュージック・レーベルとして25年以上にわたり活動を続けています。音楽業界にとどまらない幅広いサービスを展開する一方、田中氏自身もDJ 19として活動し、多くのプロジェクトを手掛けています。今回は、仕事に対するこだわりや、今後目指していきたい姿について伺いました。
目次
音楽を軸に、エンターテインメントを幅広く手掛ける
――現在の事業内容について教えてください。
会社組織としては2001年5月にスタートしているんですが、もともとは1999年に立ち上げた「19BOX RECORDINGS(ジュークボックス・レコーディングス)」というレーベルを発展させた形になっています。
音楽制作だけではなく、最近では多くの商業施設などのサウンド・プロデュース/ブランディングなども手掛けています。
会社設立前は音楽雑誌の編集長だったこともあり、音楽制作を基盤にしつつ、編集はもちろん、プレス・リリースやコピーの制作、PRを含めた冊子やフライヤーなどの制作にも対応しています。
また、弊社では海外を含め特許を持ったデザイナーらを抱え、案件に合わせてチームを組みながら仕事を進めています。
――御社ならではの強みは、どのようなところにありますか。
日本で最初に海外の配給を取り付けたクラブ系のレーベルということもあり、早い段階から海外のマーケットを意識してきたことだと思います。
当初は国内向けに販売していましたが、雑誌でインタヴューしたDJらにプロモのレコードを配布したところ、海外でも予想以上の反響がありました。そこからイギリスのディストリビューターと契約を交わし、2001年からは世界各地のレコード・ショップで販売されるようになりました。
2007年にデジタルへ移行してからも、クラブ系では一番重要なbeatportはもちろんのこと、各国のさまざまな配信サイトで1位を獲得するなど、現在まで実績を積み重ねています。
もう一つは、設立から25年以上にわたりリリースしてきた音源の原盤を、カヴァー曲などを除き、出版を含めて自社で保有・管理していることです。
メジャー・レーベルで言うところのストラテジック部署的な役割を自社で担っているため、コンピレーションだけでなく、映像、舞台などクライアントの予算やスケジュールに合わせてすぐに対応できます。
この蓄積は、長く続けてきたからこその強みだと考えています。
「良いものを共有したい」から始まった音楽への道
――音楽業界に進まれたきっかけを教えてください。
中学校の卒業文集に「音楽評論家になりたい」と書いていたくらい、昔から音楽が好きだったんです。
上京後、学校に通いながらFM番組制作会社でバイトをし、ADからスタートするも、すぐに選曲も任せてもらえるようになり、卒業後そのまま社員に。ディレクターとして選曲に加えて構成なども手掛けました。
その後、雑誌におすすめの曲を定期的に寄稿するなかで、「紹介するものをきちんと形として残したい」という思いが強くなり、ラジオから雑誌へ移行しました。
ラジオでは限られた時間の中で音楽を紹介することになりますが、雑誌であれば、アーティストや作品の背景まで含めて、より深く伝えることができる。そこに魅力を感じたんです。
雑誌では国内盤が出る前にインタヴューを敢行するなどして特集記事を組み、トレンドを誘導し、多くのCDを企画しつつ、イヴェントと連動するなどメディア・ミックスを行い、発信する形を広げていきました。
――事業を続けるうえで大切にしてきた考え方は何でしょうか。
媒体がラジオから雑誌、レコード、CD、デジタルへ変わっても、根本はずっと同じです。自分が「良い」と思ったものを発信し、それを誰かに共有してもらいたいという思いがあります。
自分自身が前面に出たいというよりも、「この音楽を誰かに聴いてほしい」という気持ちの方が強かったんだと思います。音楽が好きで、持っているレコードが増えたからDJになる、というのも当時はごく自然な流れでした(笑)。
大切なのは、良いと思える作品の魅力がきちんと伝わる形で世の中に届けること。その考えを大切にしてきたからこそ、音楽を基軸にした事業が継続できているのかなとは思います。
アーティストの魅力を引き出し、長く育てるブランディング
――アーティストと仕事をする際、どのようなことを重視していますか。
単に楽曲をリリースするだけの関係ではなく、弊社のレーベルと「一緒に仕事がしたい」と思ってくれるプロデューサーと、継続して関係を築いていきたいですね。
この点については、 先日イギリスの「PLAYY.MAGAZINE」でもお話ししましたが、デビュー前に別の作品へリミキサーとして参加してもらい、実績を積んだうえでオリジナル曲をリリースするなど、その後の活動を見据えながら段階的にリリースを組んでいます。
一作品ずつ丁寧にリリースするだけでなく、その先の活動まで見据え、アーティスト本人が「ウチと仕事をして良かった」と思えるようなブランディングを心掛けています。
そうした積み重ねもあり、世界各国のプロデューサーと長く関係を築けていることは、弊社の特徴の一つだと思います。
――アーティストを選ぶ際の基準はありますか。
ファンの人数や、有名無名かを基準には見ていません。まず大切なのは、曲そのものに魅力があり、弊社のレーベル・カラーに合っていることです。
一方で、セルフ・ブランディングができるかは見ています。
今は良い曲を作るだけでなく、本人が自分の作品について発信していくことも大切な時代です。こちらでも当然PRはしますが、アーティスト自身が作品を届けようとする姿勢は、その結果にかかわらず重要だと思っています。
レーベルとアーティストの双方がそれぞれの立場から作品を発信することで、より多くの人に音楽を届けていけると考えています。
蓄積してきた音源を、新しい価値へつなげたい
――今後、会社として取り組んでいきたいことを教えてください。
これまで蓄積してきた膨大な音源を、もっと幅広く活用していただきたいと考えています。そのため、これまで以上に他業種との協調を進めていきたいですね。
例えば、「これまでとは違うものを作りたい」「音楽を活用して新しい価値を生み出したい」と考えている企業の方々と、一緒に取り組める機会を増やしていきたいです。それは映像制作などに限らず、さまざまな業種との連携が考えられると思っています。
現在も新しいアーティストを発掘するなどして毎週リリースを続けながら、飲食店や商業施設のサウンド・プロデュースなど音楽を軸に活動領域を広げています。
既存の枠にとらわれず、「何か面白いことをしたい」「新しいことに挑戦したい」と考えている人たちと、もっと仕事をしていきたいですね。
そういう方や会社に出会うためにも、クオリティを維持しながら、弊社の考えや取り組みに共感してくださる方を増やしていければと思っています。
自分が「良い」と思えないものは、外に出さない
――仕事をするうえで、譲れない信念を教えてください。
自分たち自身が「良い」と思えるものを、きちんと自信を持って世の中に届けることです。
伝え方によって価値を大きく見せるのではなく、作品や仕事そのもののクオリティを高めたうえで、その魅力を正しく伝えたいと思っています。媒体や音楽を取り巻く環境が変わっても、「良い」と思ったものを届けたい、発信したいという基本は変わりません。
これからも、AIには判断できない感性を大切にしながら、音楽をベースに、さまざまな形で格好良いと思えるもの、面白いと思えるものを世の中へ提示し続けていきたいですね。