株式会社ころぼっくすぷろじぇくと 代表取締役 森中葵 氏
アニメやゲーム、ナレーションなど、私たちの日常に溶け込む“声”の世界。
その裏側では、声優たちの表現力と、それを支えるプロダクションの存在が欠かせません。
そんな声優業界に新たな風を吹き込んでいるのが、現役声優として活動しながら、自ら声優プロダクション、「株式会社ころぼっくすぷろじぇくと」を立ち上げた森中氏です。
表現者として、そして経営者として、“声”の価値をどのように見つめ、未来をどう描いているのか。森中氏のこれまでの歩みと今後の展望について伺いました。
理念は「声で人の心を動かす」
「声の力で人の心を動かす」。この理念のもと、森中氏が率いる事務所では、声優のマネジメントと育成スクールの運営を柱に事業を展開しています。クライアントはアニメ制作会社やゲーム企業だけでなく、YouTuber、広告代理店、ナレーションを活用した企業広報など多岐にわたっています。
最近ではボイスドラマや音声配信など、音の可能性を探る新ジャンルとの接点も増えてきたといいます。
現場に立つからこその“即応力”
「現場目線で即応できることが、少人数体制の強み」と語る森中氏。本人も現役で声優として活動しており、自らの経験をもとにしたマネジメントスタイルが、多くの若手声優から信頼を集めています。
オーディション対策や演技指導も含めて、きめ細やかなサポートができるのは、実際に第一線で活躍してきたからこその説得力があります。
起業の背景にある“自立”への思い
創業のきっかけには、自身の声優としての経験が大きく影響しています。「マネージャー任せにするのではなく、自分で仕事を取りに行ったほうが早いと気づいたんです」
業界の構造や商習慣に疑問を感じた森中氏は、より自立的にキャリアを築ける場を自らの手で作ろうと決意。プロダクション設立は、そんな問題意識の延長線上にありました。
若手の挑戦を支える育成と風土
「若い才能がのびのびと挑戦できる場所をつくりたい」という思いは、創業当初から今に至るまで変わることなく貫かれています。
スクールでの育成にも力を入れており、声優志望者の基礎力向上を目的としたトレーニングや、自己表現を深めるワークショップなど、多彩なプログラムを提供しています。
また、生徒との距離も近く、日々の努力や悩みに丁寧に寄り添う姿勢は、受講者にとって大きな支えとなっているようです。
経営者目線でつくる、強い組織
組織運営で森中氏が重視しているのは「全員が経営者目線を持つ」こと。役職やキャリアに関係なく、意見を言い合える風通しの良い文化を築いてきました。
「創業期には、意見の衝突も経験しました。でも、だからこそ率直に話す文化ができたんです」。信頼関係のうえに成り立つマネジメントが、繊細な演技の世界を下支えしています。
ときには声優陣が事務所の戦略を提案する場面もあるなど、垣根のない意見交換が活発に行われているそうです。
声の未来をつくる、新たな挑戦
今後について尋ねると、「男性声優の所属強化や、音声コンテンツの内製化に力を入れたい」と語ってくれました。
ITを活用したオンラインレッスン、企業向け音声サービス、さらにはAI音声との共創──。声の表現を軸に、多様な可能性を切り拓く準備が進められています。
また、地方在住でもチャンスが得られる仕組みづくりや、障がいのある方への音声演技指導など、「誰もが声の可能性に挑戦できる社会」を目指す取り組みにも関心を寄せているとのこと。
センスを育てる時間と、信じる力
「声優のセンスは一朝一夕では育たない。でも、時間をかけて信頼の中で育てていけば、必ず花は咲くと思っています」
業界に対する覚悟と、次世代への期待がその言葉には込められています。焦らず、でもあきらめず、日々の成長を信じて待つ。そんな温かくも厳しい“育成の目”が、事務所の礎となっています。
声の力で、世界に彩りを
プロダクション運営は決して平坦な道ではありません。それでも森中氏は、一歩ずつ課題に向き合い、仲間とともに未来を切り拓こうとしています。
声の表現で人の心を動かすという本質的な価値を見つめながら──。
声で世界に彩りを与える。志に共鳴する仲間たちとともに、森中氏の挑戦は、これからも加速していきます。