株式会社秀岳荘 代表取締役社長 小野浩二氏
北海道札幌市に本社を構えるアウトドア用品専門店「秀岳荘」は、2025年で創業70周年を迎えます。
登山用品をはじめ、カヌー、自転車、キャンプ用品など多彩な製品を取り扱い、「良いものを安く、親切に」をモットーに、地域密着型の誠実な商いを続けてきました。
今回は3代目社長として同社を率いる小野浩二氏に、経営に込めた想いや社員との関係性、そしてこれからの展望についてお話を伺いました。
目次
命を預かる商品だからこそ、対面での信頼を大切に
――現在の事業内容について教えてください。
当社は登山用品を中心に、キャンプ、カヌー、スキー、折りたたみ自転車などのアウトドア用品を幅広く扱っています。登山ひとつ取っても、初心者のハイキングからヒマラヤ登山まで対応できる商品と専門知識を持つスタッフが揃っています。
ネットショップもAmazonや楽天などで展開していますが、売上の約8割は実店舗です。お客様の命を預かる商品だからこそ、しっかりとお話を伺い、適切なものをご提案することが重要だと考えています。
――理念の「敬山愛林」とはどのような意味でしょうか?
「敬山愛林(けいざんあいりん)」には、自然を敬い、調和して生きるという意味が込められています。
その上で、お客様に「良いものを安く、親切に」提供することが、私たちの変わらぬ姿勢です。
営業職からアウトドア業界へ──人とのつながりが導いた転機
――社長に就任されるまでの経緯を教えてください。
大学卒業後はコンピュータ商社で営業の仕事をしていました。ただ、どうにも自分には合わず、もっと人と直接向き合える仕事がしたいと感じていたんです。そんなとき、義父の経営している会社にお願いをして入れてもらうことになりました。
最初はモンベルのフランチャイズ店舗であるモンベルクラブ店の店長を任され、現場での経験を積みました。そして12年前に代表に就任し、今に至ります。
――仕事をするうえで、大切にしている価値観は何ですか?
やはり「信頼」です。商品をご案内して代金をいただく立場でありながら、「ありがとう」と言っていただける。その瞬間が、この仕事の最大の喜びです。
社員一人ひとりが考え、動く組織へ
――社員の育成方針について教えてください。
基本的に、社員には大きな裁量を与えています。仕入れや発注も各売り場の担当者に任せており、自分で考えて動くことで、仕事に責任と誇りを持つようになります。仮に失敗しても、そこから学んでほしいと考えています。
――職場の雰囲気についてはいかがですか?
販売ノルマがないため、スタッフ同士の競争がなく、協力し合える空気があります。休みに一緒に山に行くなど、現場を共有することで自然と信頼関係も生まれています。
また、当社では福利厚生の一環として、3人以上で山に行く際は交通費やガソリン代を会社が負担しています。代わりにブログを執筆してもらうことで、社内外への知識共有にもつなげています。
登山という文化を深める、専門店としての挑戦
――今後の展望について教えてください。
現在は自社ECサイトの立ち上げを進めています。モールでは扱えないブランドや専門用品を、自社サイトなら全国に届けられます。今年の秋には公開できる見込みです。
今後は、ECと実店舗の連携をより強化し、お客様との接点を増やしていきたいと考えています。
――業界全体の流れをどう捉えていますか?
キャンプ業界は競争が激化し、売上も落ち込んでいますが、登山は「文化」であると捉えています。人の生き方や感情に根ざしたものであり、そこに本気で向き合う専門店としての役割を強めていきたいです。安易に拡大を狙うのではなく、「わざわざ選ばれる店」を目指していきます。
自然の中で得る感覚が、経営にも生きる
――休日の過ごし方を教えてください。
登山やバックカントリースキー、山菜採りや釣りなど、四季を通じて自然の中に身を置いています。特に秋の鮭釣りは趣味の一つで、多いときには30匹ほど釣り上げることもあります。魚をさばくのも好きで、社員におすそ分けすることもあります。
――趣味が仕事にもつながっていると感じますか?
はい、強く感じています。実際に自分で商品を使い、自分の体で体験することで、カタログやデータだけでは伝えきれないリアルな提案ができるようになります。その実感をもってお客様と向き合うことで、専門店としての信頼につながっていると感じます。机上の理論よりも、実体験に基づくアドバイスこそが、信頼を築く鍵になると思っています。
自然の中で得た感覚をこれからも大切にしながら、お客様に寄り添った提案を続けていきたいです。そして、アウトドアの魅力をより多くの方に届けることで、次の世代へとつながる豊かな体験の輪を広げていければと思っています。