合同会社シグマサー 代表 島田政信氏
災害や環境変化の把握に欠かせない「SAR(合成開口レーダー)」の研究・解析に40年以上携わってきた島田政信氏。JAXA退職後も大学や民間での研究を重ね、2022年に合同会社シグマサーを設立した。現在はソフトウェア開発や解析受託を通じ、インフラ劣化の監視や災害対策に役立つツールを提供している。生涯現役を掲げる島田氏に、事業への思いと今後の展望を伺った。
目次
SAR解析で災害やインフラを見守る事業内容
――御社の事業内容を改めて教えてください。
シグマサーでは、人工衛星や航空機に搭載されたSAR(合成開口レーダー)のデータを解析するソフトウェア開発と、その解析受託の2本柱で事業を展開しています。SARは雨天や曇天でも地表を観測できる特性を持ち、地盤沈下や隆起、土砂災害の兆候を精密に捉えることができます。
ソフトウェアは、ユーザーのPCに導入するスタンドアローン型と、AWSやTellusなどのクラウド上で利用するタイプを提供しています。災害対策やインフラ監視に加え、農業や測量、建設分野など多岐にわたる現場での活用が期待されています。
研究者から起業家へ――JAXAからシグマサー設立まで
――研究者から起業へと至った経緯をお聞かせください。
私は1979年にSARに出会って以来、JAXAで長年研究を続けてきました。その後、大学で教育・研究に携わるなか、外部からソフトウェア開発や解析の依頼を受けるようになりました。最初は個人事業主として活動していましたが、法人化したほうが信用力も高まり、情報発信もしやすいと考え、2022年に合同会社シグマサーを設立しました。
法人化の手続きはデジタルで行い、すべて自分の手で進めました。経営の専門家ではありませんが、長年の研究で培った探究心や問題解決力を、事業運営にも生かしています。
一人社長として挑み続ける経営姿勢
――経営姿勢や仕事への向き合い方について教えてください。
現在は一人社長として、開発から解析、営業、経理までを担っています。決して規模は大きくありませんが、「他社では難しい」と言われる依頼にも果敢に挑むことを大切にしています。
時系列解析やクラウド活用など、挑戦の積み重ねが今の強みになっています。依頼元の期待に応えるなかで信頼を得られることが、会社の成長にもつながっていると実感しています。研究者時代から「まずはやってみる」精神を大切にしてきましたが、その姿勢が今も事業の広がりを後押ししています。
三本の矢で広がる事業と「生涯現役」の思い
――今後の展望についてお聞かせください。
私の目標は「生涯現役」です。70歳を迎えましたが、研究も開発もやめるつもりはありません。むしろインフラ監視や災害対策の需要は今後さらに高まるはずで、事業の拡大は不可避だと感じています。
受託研究・ソフトウェア開発・クラウド展開という三本の矢を成長軸に据え、将来的には仲間を増やし、より多くの現場に貢献できる体制を整えたいと思います。若い世代とも積極的に連携し、多様な人材と共に社会を支える技術を広げていきたいです。
さらに、日本だけでなく海外の研究機関や企業とも協力し、グローバルにSARの活用を広げていく構想もあります。地球温暖化や災害の多発は国境を越えた課題であり、私たちの技術も国際的な連携の中でこそ真価を発揮できると考えています。インフラの安全や環境保全に欠かせない存在として、シグマサーの価値を高めていくことが、これからの挑戦です。
合唱で心を整える――研究と音楽の両立
――お仕事以外での趣味やリフレッシュ方法はありますか。
趣味は合唱です。週に一度、東京まで通ってバッハのカンタータやミサ曲を歌っています。発声や表現方法を学びながら、仲間と一緒に音楽を作り上げていく時間は大きな楽しみです。プログラミングとは違う頭を使うことで、良い気分転換になっています。
音楽には研究と同じく「積み重ね」が大切です。毎回の練習で少しずつ声が安定し、ハーモニーが整っていくのを感じると、仕事のモチベーションにも繋がります。研究と音楽、異なる分野を行き来することが、自分の創造性を刺激しているのかもしれません。
「SARとともにより良い社会を築きましょう」という言葉を胸に、研究者としても経営者としても歩みを止めず、技術と文化の両面から社会に貢献していきたいと思います。