上村航機株式会社 取締役 上村義樹氏
兵庫県に拠点を構え、日本の航空機や発電用ガスタービン、防衛分野のエンジン部品といった精密加工を担う上村航機株式会社。
主要顧客である川崎重工業から9割以上の受注を得るなど、その技術力と信頼性は業界内でも高く評価されています。
今回は、同社の取締役・上村氏に、事業の現状や採用課題への取り組み、独自の組織文化、さらには宇宙事業まで見据えた未来への展望について伺いました。
日本の基幹産業を支える精密加工技術
――現在の事業内容と特徴について教えてください。
私たちは主に、航空機や発電所などで使用される「ガスタービンエンジン」の部品加工を行っています。お客様から材料をお預かりし、約100種類の切削設備を駆使して精密に加工し納品するのが事業の根幹です。
分野は幅広く、民間航空機のエンジン、産業用ガスタービン、防衛省向け護衛艦やヘリコプターの部品などを手掛けています。取引の9割以上は川崎重工業様であり、長年にわたり強固なパートナーシップを築いています。
――業界内での強みはどこにありますか。
高い品質要求に応え続けてきた「実績」こそ最大の強みです。日本に1台しかないような特殊設備も保有し、他社では難しい加工にも対応できます。そして設備を扱うのは人。誇りを持って技術を磨き、次世代へ継承していく体制が品質の源泉となっています。
採用課題がもたらした変革の原動力
――これまでのキャリアで印象に残っている出来事は何でしょうか。
採用活動の経験です。コロナ禍で一時採用を止め、再開したところ応募がほとんど来なくなったのです。少子化や工業系学校の減少、若い世代の志向の変化などが背景にありました。250名規模の会社でも人が集まらない現実に衝撃を受けました。
――その課題にどう対応されたのでしょうか。
待つだけでは未来がないと痛感し、情報発信を強化しました。SNSを活用したり、私自身が工業高校に出向いて仕事の魅力を直接伝えたりしています。同時に、既存社員の満足度を高める取り組みにも力を入れました。採用の壁は、組織をより良くする変革の契機になったと感じています。
人が育つ風土をつくる組織文化
――社員が生き生きと働ける環境づくりの工夫を教えてください。
特徴的なのは「クラブ活動制度」です。3人以上集まればどんなクラブでも設立可能で、会社が活動費を支給します。現在はゴルフ部や登山部、釣り部、さらには野球“観戦”部まであります。普段接点のない部門の交流やリーダーシップ育成につながり、組織の一体感が高まっています。
――社員との印象的なエピソードはありますか。
営業の業務を引き継いだ社員が、主体的に動き、自分の意見を必ず持って報告してくれたことです。製造業では仕様通りに正確に作業することが基本ですが、彼のような存在が新しい視点をもたらし、組織に活気を与えてくれます。成長を間近で見られるのは大きな喜びです。
未来を見据えた挑戦 ― 新工場と宇宙事業
――今後の事業展開についてお聞かせください。
短期的には、より高精度な航空機エンジン部品の加工に挑みます。その実現に向けて、新工場建設の計画を進めており、ロボットによる自動化や最新の搬送システムを導入した未来型工場を目指しています。
さらに先の目標は、ロケット部品の分野、すなわち宇宙事業への本格参入です。すでに一部を手掛けていますが、日本の宇宙開発の一翼を担える存在になりたいと考えています。
――課題は何でしょうか。
最大の課題は「人」です。採用、育成、技能伝承、離職防止の3点が鍵となります。説明会等(電車の広告やSNS発信)を通じて求職者に当社の魅力を伝えれるような活動をしながら新卒採用や中途採用を進め、3年後には現在の250名から20名増員を目指しています。人材確保こそが未来への挑戦を支える基盤です。
趣味に学ぶ経営哲学と、人を大切にする信念
――経営で最も大切にしていることは何でしょうか。
「組織は人が全て」です。社員の満足度を高めることが品質向上につながり、お客様からの信頼や業績にも直結します。私の役割は社員が安心して働ける環境を整えることに尽きます。
――プライベートの過ごし方についても教えてください。
バイクやゴルフ、釣り、サーフィン、音楽と多趣味です。社員と一緒に楽しむことも多く、交流の機会になっています。サーフィンや釣りからは「波やタイミングを読む」「備えの重要性」といった経営に通じる学びも得ています。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
ビジネスは突き詰めれば人と人との繋がりです。お客様、仕入先、社員、一人ひとりとの関係を大切にすれば、困難に直面しても必ず助けてくれる人が現れます。人を大切にすることこそ、あらゆる成功の原点だと信じています。

