株式会社ハシデザイン 代表 橋村 瞳 氏
デザインは「コスト」ではなく企業の「資産」である――。この信念のもと、株式会社ハシデザインを立ち上げ、通常の受発注関係を超えてクライアント企業の社内チームとして機能する「デザイン部代行」サービスを展開している橋村氏。同氏に、独自の事業モデル、経営者としての信念、そしてデザイナーの可能性を解放する未来のビジョンについて伺いました。
デザインを「資産」に変える独自の事業モデル
――御社の事業内容について教えてください。
弊社はクライアント企業の「デザイン部」として、戦略立案から制作までを一気通貫で代行するサービスを提供しています。一般的なデザイン会社の受発注関係とは異なり、まるで社員のような形で深く入り込み、デザインの戦略と制作を担っているのが特徴です。
――事業の強みはどのような点にありますか。
一番の違いは「デザインの戦略を一緒に考える」ところにあります。多くの企業が「かっこいいパッケージが欲しい」などと制作物だけを求めますが、弊社は「誰に、何を、どう伝えたいか」という戦略段階から参画します。
このモデルの背景には、デザインは「コスト」ではなく企業の「資産」であるという考えがあります。デザインの制作プロセスには、会社の世界観を紐解く過程があり、様々な成功・失敗事例が蓄積されていきます。こうした「世界観(らしさ)」と「データベース(成功・失敗事例)」を積み重ねていくことで、「資産」としてのデザインを残すこと。これを指針とした事業を行っています。
父の背中が教えた「自分を幸せにする」経営哲学
――創業の経緯を教えてください。
元々はドン・キホーテに在籍し、デザイン部の立ち上げを経験し11年間デザインに従事してきたのですが、出産を機に父の姿を思い出し独立を決意しました。私の父も元々大手小売の従業員でしたが、私が生まれて数年間なかなか家族との時間が確保できないジレンマから、脱サラ・独立をすることで家族の幸せな時間を創ってくれました。その憧れから、将来は同じように生きたいと考えていました。
創業当初はクライアントがおらず、クラウドソーシングでデザイン業務を請け負っていたのですが、だんだんと多くの企業でデザイン戦略の重要性が認識されていない現状に気づき、「デザイン戦略から担うことでさらにクライアントのビジネス拡大に貢献できる」と確信して現在の「デザイン部代行」事業を立ち上げました。
――お仕事をする上で大切にしている価値観は何ですか。
父から教わった「自分を幸せにすることを一番大事にする」という価値観を大切にしています。自分自身が満たされていない・自己犠牲の状態で他者を幸せにすることは難しい。これは経営においても同様で、まずは自身がどうありたいか、何が幸せかを追求し、その溢れたエネルギーで顧客や社員に貢献していくという考え方を重視しています。
「得意」と「共感」を軸にした組織運営
――組織運営に特徴的な点はありますか。
デザイナーが子育て中のママを中心に構成されているのが特徴です。各案件に特定の担当者を固定せずに、得意分野を持つデザイナーが得意な業務をパッチワークのように協業する仕組みで動いています。デザイナーを束ねる指揮官も非常に優秀で、この仕組みによって、全員がやりたいことだけに集中できる環境が整い、結果として従来の8時間分の仕事を2~3時間でこなすなど非常に高い効率性とモチベーションが生まれています。
――社内コミュニケーションで工夫している点はありますか。
「共感ポイント」を大切にしています。共感できるポイントがあると、お互いが「分かっている」という気持ちになり、オープンなマインドで接することができるようになります。これによって短時間でも信頼関係を構築し、業務に関する深い話にスムーズに入っていけると考えています。
デザイナーが経営の最前線に立つ未来
――今後の事業展開について教えてください。
会社としての目標は、「デザイン部代行」の認知度を高め、導入企業を増やしていくことです。デザインをコストと捉える企業が多い中、「デザイン代行を導入すれば、デザインを資産にできる」と思えるような実績を積み重ねていきたい。そのために、デザイン戦略の重要性の認知を広げ、動画、コピーライティングなど、総合的なデザイン力を多角的に強化していく予定です。

――ご自身のキャリアで描いている夢や目標は何でしょうか。
「デザイナーという資源をもっと活用する世界」を実現したいと思っています。現状、多くのデザイナーは「プロジェクト末端の制作物を担う職人」として見られがちです。しかし、デザイナーが得意なデザイン思考(課題を整理し、人の思いや行動を起点に合理的かつ創造的に解決へ導く思考法)は、経営戦略の場でも生かされます。つまり、ビジネスの上流で活躍するスキル・経験を持っているデザイナーがとても多いと確信しています。
場所が限られていたために力を発揮できなかった多くのデザイナーの活躍の場を広げ、価値を高めていくこと。これを私自身の目標として掲げています。

