吉岡興業株式会社 代表取締役 吉岡 洋明氏
創業から70年。金属切削工具の商社として歩みを重ねる一方、近年は工場の設備工事・メンテナンス事業を大きく伸ばしている吉岡興業株式会社。老舗企業としての信頼を基盤に、独自の“全員営業体制”や”成功事例の共有”を軸に組織変革を進めてきました。今回は、三代目として経営を担う吉岡洋明代表に、これまでの歩み、組織運営、そして未来への展望について伺いました。
目次
老舗企業の歴史と、成長を支えるビジョン
――現在の事業概要と、会社としての強みについて教えてください。
当社は、日本全国のものづくり企業様に対し、切削工具や工場雑貨品の提供、設備の工事・メンテナンスなどを行う商社です。売上のおよそ半分を占める切削工具では大手企業との長年の取引があり、新規開拓においては創業70年の信頼が大きな後押しになっています。また、成功事例を全社員で共有する文化や、誰か一人に負荷が集中しない“全員営業体制”も強みのひとつです。
三代目としての歩みと、仕事に向き合う姿勢
――経営者になられた背景や、大切にしている価値観をお聞かせください。
創業者が祖父で、父がその後を継ぎ、私も長男でしたので、幼い頃から「いずれ自分が継ぐのだろう」という感覚がありました。社会人になってからは関連業界で10年間働き、この会社に入社しました。
仕事で大切にしているのは、社員同士が自然に“ありがとう”と言い合える関係です。利益を上げる方法論だけでなく、気持ちの循環が組織を強くすると思っています。また、成果が出た案件を表彰し、利益額・背景・工夫点を全社員で共有することで、成功事例が常に蓄積されるようにしています。
“全員営業体制”が生む、助け合いの組織づくり
――組織運営のポイントや、社員との関わりで印象に残ることはありますか。
従来のように「営業は営業担当だけがやる」という形では、お客様との関係づくりにボトルネックが生まれました。そこで営業の能力を「相談をいただく力」「商談力」「施工管理力」の3つに分け、社員それぞれの適正に応じて分業する“全員営業体制”をつくりました。苦手を無理に改善するより、苦手なことをさせないほうが成果は大きくなります。
社員とのエピソードでいえば、ある社員のお子さんがサッカーチームのセレクションに合格した際、夜も練習できる蛍光色のボールをプレゼントしたことがありました。とても喜んでくれたと聞き、嬉しかったですね。一方で、私自身の厳しさが行きすぎ、反省を重ねることもあります。まだまだ未熟ですが、社員とともに成長したいと思っています。
ものづくり企業を支えるために、広がる挑戦
――今後の事業展開や目指す姿について教えてください。
当面の目標は、工事・メンテナンス事業の売上比率を50%以上に高めることです。切削工具は市場全体で交通整理が進み、伸び代が限られているため、全国の工場設備を支えるメンテナンス領域にこそ未来があると考えています。また、社内ではロボットプログラミング教室を運営しており、今後は教育事業の拡大や、自身の創作した絵本のメディア展開など、創造的な分野にも挑戦していきたいです。とはいえ、軸はあくまでも本業。ものづくり企業様のお役に立つという理想に向かって、着実に足場を固めていきます。
創造する時間が、経営の視点を育てる
――個人的な趣味や、リフレッシュ方法があれば教えてください。
リフレッシュとして絵本づくりなどの創作活動を行っています。物語や絵を考える時間が良い気分転換になり、日常の業務とは違う発想に触れられるので、自分にとって大切な時間です。
――大切にされている価値観はありますか。
私が大切にしている価値観は、「人は一人では生きていけない」ということです。まだまだ言動のすべてに落とし込めているわけではありませんが、自分の中心にある考え方です。
会社で働くのも、突き詰めれば「一人では生きていけないから」だと思っています。私は“孤独”という言葉があまり好きではなく、そもそも孤独という状態は世の中に存在しないと感じています。
コンビニに行けば店員さんがいて、身につけている服も誰かが作ってくれたもの。私たちは常に、誰かの働きや優しさに支えられて生きています。
自分が誰かに支えられているという事実を忘れないことが大事で、そこをきちんと自分の言動に落とし込んでいくことが、今の自分のテーマです。

