株式会社歩屋 代表取締役 横内 猛氏
元新聞記者という異色のキャリアを持つ横内猛氏が挑むのは、日本の食文化の根幹を変える壮大なプロジェクトです。既存の農業技術を科学的に検証し、肥料も農薬も使わない「自然の仕組み」を再現した独自の栽培理論で特許を取得。連作を可能にし、高収量・高栄養価の野菜を実現する「4億年シリーズ」とは何か。社会の歪みを見つめ続けたジャーナリストの眼が辿り着いた、食の未来への道筋を伺いました。
目次
「肥料・農薬ゼロ」を可能にした、世界に一つしかない栽培理論
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
新しい農業技術の研究開発と普及が中心です。従来の農業は肥料と農薬を使うことが前提で、大学の農学部でもその応用が研究の主流です。しかし、肥料は限りある天然資源であり、持続可能とは言えません。また、肥料によって作物が不健康になり、病気や虫が増え、それを農薬で抑えるという悪循環が起きています。
私は自然界の仕組みに着目し、肥料も農薬も使わなくても作物が育つ理論を研究してきました。山の木々や雑草は誰も世話をしなくても元気に育ちますよね。そこに“自然科学としての答え”があると考えたのです。15年以上の研究を経て今に至りますが、途中、2015年には栽培理論として特許を取得しています。農業の「考え方」そのものが特許になるのは非常に珍しく、日本では唯一だと思います。
ジャーナリストから農業へ──転身の背景にあった危機感
――この道に進まれたきっかけは何だったのでしょうか。
私はもともと読売新聞の記者で、政治・経済・福祉・教育など幅広く取材していました。バブル崩壊後の社会の歪みや高齢化、年金問題など、国家的な課題が山積している現状を間近に見て、「このままでは日本が危ない」という危機感を強く抱いたんです。
そこで、名刺を置いて現場を見るために退職し、フリーのジャーナリストとして教育や福祉の現場に入りました。しかし、どの分野にも共通して“根源的な歪み”があると感じ、その原因を突き詰めていくと食に行き着きました。
2006年に「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんの特集を見た際に強い衝撃を受け、「ここに日本再生の鍵がある」と直感しました。そこから自然農法を取材し、自ら研究を始め、会社を立ち上げたという流れです。
組織運営は“共感の輪”──仲間と共につくる畑
――少人数で運営されていると伺いました。
会社として雇用しているのは妻と私の2名です。ただ、提携農場契約を結んでともに研究と普及を進めている仲間が東京、埼玉、千葉、福岡にいます。また、技術を学びたい方(個人)が全国に50名ほどいて、近隣に住む方は手弁当ながら責任感を持って作業を手伝ってくれています。いわば「共感の輪」で畑が回っている状態で、人件費をほぼかけずに運営できています。
栽培技術は、連作するほど土が良くなり、野菜も健康になるという仕組みです。一般的な農業では連作障害が常識ですが、私たちの場合は逆で、連作こそが自然本来の姿なんです。その考え方を学びたいという方々が、畑づくりを支えてくれています。
4億年シリーズで、日本の食文化を再生したい
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
目標は、日本の食の再生です。野菜だけでなく、米・大豆・麦などの穀類、そして味噌や醤油といった伝統的な発酵食品まで、完全に肥料・農薬を使わずに作れる仕組みを整えたいと考えています。
その一環として生まれたのが「4億年シリーズ」です。これは、植物が海から地上に出た4億年前の“自然の仕組み”を理論のベースにしていることから名付けました。安心安全というだけではなく、食べるほど健康になるという食文化を広げたい。そのために、異業種も含めた生産者の仲間づくりを進めています。
未来の子ども達のために──経営者として大切にしている想い
――経営者として大切にしている価値観を教えてください。
いま生きている人の幸せだけでなく、これから生まれてくる子ども達が幸せになれる未来をつくりたいと思っています。すべての活動はそのための投資です。自然本来の食を取り戻し、健康な体と心を育む。そうした価値観に共感してくださる方々とつながっていけば、事業は必ず成り立つと信じています。
研究に多くの資金を投じてきましたが、それでも会社が潰れずに続いていることが、この道の確かさを示しているのかもしれません。未来の子供たちに、食の不安がない、豊かな社会を残せるよう、この技術の普及に邁進していきます。
株式会社歩屋では、肥料・農薬を使わない新しい農業技術による食材の生産と普及を進めています。次世代の農業に関心のある生産者や異業種の企業様は、ぜひお問い合わせください。

