自然の力で「本物の食」を届ける。耕さず、肥料を使わない農法がもたらす新しい未来

一般社団法人生命の食 代表理事 吉田哲也氏

一般社団法人生命の食は、耕さず、肥料を用いず、自然の営みそのものを生かした農法を広げる活動を行っています。人が手を加えるほど複雑になった現代の農業とは異なり、植物と土の微生物が本来備えている力にゆだねる栽培方法です。代表の吉田哲也氏は「誰でも取り組める形で、本物の食を取り戻す仕組みを作りたい」と語ります。本記事では、団体の理念、取り組みの背景、組織運営の工夫、今後の展望について伺いました。

生命の食が掲げる「自然をそのまま受け入れる農法」とは

――現在の活動内容や理念について教えてください。

私たちは、肥料も耕運機も使わず、自然のサイクルだけで作物を育てる方法を広めています。山や野原では、人が肥料を与えなくても植物が力強く育ちます。これは、植物が光合成でつくった養分の一部を土の微生物に渡し、微生物が必要な栄養を植物に返すという循環が成立しているためです。

この仕組みを農作物づくりに応用することで、費用をかけずに安全な作物を育てることができます。耕作放棄地が全国に広がるなか、私たちは土地の借り方から栽培方法、収穫物の販売ルートまでを一括で支援するパッケージを用意し、地域で“食を自分たちの手に取り戻す仕組み”を作っています。

自然農法にたどり着いた理由と、広めたいという強い想い

――この取り組みを始めたきっかけを教えてください。

現代の農業は肥料や農薬が当たり前になり、自然に任せるより「効率」を優先する仕組みになりました。その結果、消費者が安心して食べられる農産物が市場ではほとんど手に入らない状況です。

私は、この状況を少しでも変えたいと考えました。自然の仕組みに沿った農法は特別な技術ではなく、むしろ地球が何億年も続けてきた営みに戻るだけです。作物の味や栄養価が大きく変わることも確かで、実際に多くの方が「身体の調子が良い」と実感されています。

少しでも多くの人にこの違いを体験してほしいという思いが、活動の原動力になっています。

組織として大切にしている「誰もが参加できる仕組み」

――運営面や人との関わりで意識していることはありますか。

農業経験がなくても参加できるようにすることを重視しています。肥料や機械を使わないため、道具は最低限で済みますし、作業内容も難しくありません。

耕作放棄地の探し方、契約の進め方、作物の扱い方、収穫物の販路などを一貫してサポートし、参加者が迷わず取り組める体制を整えています。

最近では、中小企業団体との協業も進んでおり、福利厚生として農業体験を導入したいという相談が増えています。社員の方が空いた時間で畑作業をし、収穫物を社員食堂で提供することで、健康面はもちろん、コミュニケーション活性化にもつながっています。

自然の中で体を動かす体験は、年齢を問わず参加しやすく、社内の雰囲気づくりにも良い影響を生んでいると感じています。

活動を広げるための挑戦と、つながりの広がり

――広げていくための具体的な取り組みについて教えてください。

加盟店募集サイトやSNS、口コミを中心に発信を続けています。さらに、中小企業が参加する団体から協業の提案をいただくなど、広がりが生まれています。地域の企業が地元の人々に呼びかけながら耕作放棄地を活用していく動きが出始めており、今後さらに加速していくと考えています。

加盟モデルは、初期費用のパッケージだけで必要な知識や運営方法を共有できる仕組みにしています。ランニング費用は不要で、栽培に必要な種だけ各自で購入すれば始められます。負担が少ないため、個人・企業のどちらでも参加しやすい点が特徴です。

また、安全な食材を求める医療関係者との連携も進んでおり、少量でも自然栽培の作物を扱いたいという声が増えています。品質を可視化するために、分析データや認証制度を整備し、より安心して参加できる環境づくりを進めています。

未来に向けて広げたい「本物の食の輪」

――今後の展望について教えてください。

これからは、より多くの地域で自然農法を体験してもらえる場を増やしていきたいと思っています。耕作放棄地は全国に広がっており、活用できる可能性は十分にあります。一人ひとりが小さな区画から始めても、参加する人が増えれば地域全体の食の力は確実に変わります。

また、医療機関や企業との連携を強め、安全で栄養価の高い作物が当たり前に手に入る社会を目指したいと考えています。自然と向き合いながら作物を育てる経験は、食の価値を見つめ直す大きなきっかけになります。

自然の仕組みに寄り添った農法は、特別なものではなく、誰でも始められる方法です。この取り組みが日本各地に広がることで、未来の食に対する不安が少しずつ減り、安心して暮らせる社会につながっていくと考えています。

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