古民家から里山の未来をひらく──空き家対策と循環型暮らしへの挑戦

株式会社こみん 代表取締役 岡部千里氏

全国的に深刻化する空き家問題や人口減少。そうした社会課題に対し、「民泊」という形を通じて、日本の伝統文化や里山の価値を次世代へつなごうとしているのが、株式会社こみんです。千葉県長南町を拠点に、古民家を活用した民泊事業を展開する岡部氏。事業の根底にあるのは、東京一極集中への違和感と、地方にこそ残る“本質的な豊かさ”への確信でした。事業に込めた思いから、これまでの歩み、そして未来への展望までを伺いました。

空き家問題と向き合い、日本の古民家文化を未来へつなぐ事業

――現在の事業内容と、理念について教えてください。

民泊をやりたいというよりも、まずは空き家対策、特に古民家の空き家問題を何とかしたいという思いが原点です。長南町は東京から車で1時間ほどとアクセスが良く、里山の風景が色濃く残る地域ですが、人口はこの数年で大きく減少しています。

古民家には、高温多湿な日本の気候に適した知恵や、日本の伝統文化の粋が詰まっています。その価値が十分に見直されていないことに、強いもどかしさを感じていました。古民家が放置され、壊されていく現状を目の当たりにし、「このままではいけない」という危機感が、事業を立ち上げる大きな原動力になっています。

――民泊という形に込めた狙いは何でしょうか。

実際に泊まり、暮らして、体感してもらうことで、日本の文化や暮らしの良さを実感してもらえると思ったからです。建物を見るだけではなく、過ごす時間そのものが価値になる。民泊は、そのための一つの「入口」だと考えています。

設計事務所から独立、震災を経て「循環型の暮らし」へ

――これまでのキャリアについて教えてください。

 30代で設計事務所を辞めて独立し、30年以上、自分の設計事務所で住宅づくりを続けてきました。経営者になりたいというより、自分の思いが詰まった住宅をつくりたい、その一心でした。商業主義に流されず、住む人の立場に立つことを何よりも大切にしてきました。

――事業観が大きく変わった出来事はありましたか。

2011年の東日本大震災です。電気を大量に使う都市の暮らしに疑問を感じ、エネルギーに依存しすぎない生活を考えるようになりました。田舎で、古民家で、循環型の暮らしを実践する。その選択が、結果として今の民泊事業につながっています。暮らしそのものを問い直したことが、経営判断の軸を大きく変えました。

少人数だからこそ貫く、理念共有を最優先にした事業運営

――現在の組織体制について教えてください。

実質的には私ともう一人の二人体制で、ほぼ一人で事業を回しています。もともと大きな組織をつくることが目的ではなく、自分の目が届く範囲で、無理のない形で続けていくことを重視しています。

――今後、仲間を迎えるとしたらどんな方でしょうか。

SDGsや里山の価値を理解し、長南町の人口減少を本気で課題だと感じてくれる人です。理念を共有できなければ、事業として続かないと思っています。将来的には、共感してくれる若い世代に、時間をかけて事業を引き継いでいくことも視野に入れています。

交流人口を増やし、長南町のファンをつくる未来構想

――今後の展望について教えてください。

インバウンドへの訴求は、まだ手探りの状態です。一方で、長南町のお米は本当においしく、これをきっかけに町を知ってもらえたらと考えています。お米を通じてファンが増え、「行ってみたい」「住んでみたい」と思ってもらえる流れをつくりたいです。

交流人口が増えれば、やがて定住につながる可能性もあります。行政との連携も含め、すぐに成果は出なくても、粘り強く模索を続けていきたいと考えています。

旅とものづくりが育む感性が、事業の原動力

――プライベートでのリフレッシュ方法を教えてください。

旅行が好きで、国内外のホテルを巡っています。高級ホテルから地方の宿まで、実際に体験することで得た感覚は、民泊の空間づくりに確実に生きています。また、料理やお菓子、洋服づくりなど、とにかく「作ること」が好きです。

買うよりも、自分の手でつくる。その姿勢は、建築にも暮らしにも共通しています。日々の暮らしそのものが、事業のインスピレーション源になっています。

古民家という場を通じて、日本の伝統文化と里山の価値を伝え、地方で生きる選択肢を増やしていく。こみんはこれからも、循環型の暮らしと地方の可能性を静かに、そして粘り強く発信し続けていきます。

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