名前の響きを香りに変えるオーダーメイド―伝統と創造が融合する「なまえ香」のブランド戦略

なまえ香 代表/調香家・香デザインプランナー  日紫喜 友紀氏

「なまえ香」は、名前の響きやリズムといった“言葉の表情”を香りで表現する、希少なオーダーメイド香ブランドです。日本語の美や大和言葉の世界観を軸に、ひとりひとりの名前から香りを組み立てる独自の手法は国内外で注目を集めています。第5回京都女性起業家賞(アントレプレナー)知事賞優秀賞を受賞するなど、その文化的価値も高く評価されています。本記事では、創業者であり調香家の日紫喜氏に、創作の背景やブランド戦略、今後の挑戦について伺いました。

名前の響きを香りで紡ぐ――「なまえ香」の独自性

――事業内容とその特徴を教えてください。

「あなたの名前の響きから香りをつくる」というコンセプトで、完全オーダーメイドの香袋を手仕事で仕立てています。名は体を表す、名前には家族の願いや思いが込められており、その響きに宿る個性を数種類のお香で丁寧に表現する点が特色です。

活動の原点は趣味でしたが、オンラインで紹介するうちに贈り物としての需要が広がり、自然とサービスの幅も増えていきました。予想外の分野から依頼をいただくことも多く、被災地から「メンタルケアに使いたい」と相談が届いたこともあります。

香りを届けるだけでなく、人の思いや背景を受け取るブランドへと成長してきたと感じています。

――「なまえ香」を始められたきっかけは何だったのでしょうか?

口伝による言葉の分析方法を学ぶ中で、日本語、特に和語が持つ美しさに強く惹かれるようになりました。さらに創設者から「日本語で最も美しい俳句を学びなさい」と勧められ、俳人・塚腰杜尚氏のもとで即物具象の技法や文語体を中心に教えを受けました。

戦争を経験されたお二人からは、日本への深い愛情や生き方そのものを通じた思いが伝わってきました。その姿に触れる中で、こうした思いを何か形として残したいと考えるようになり、自身の生活にもなじむ匂い袋へと行き着きます。そこから「名前の響きを香りにする」という発想が生まれました。

当初は売れるとは思っていませんでしたが、多くの方に支えられ、文化的な価値を感じ取ってくださるお客様が増えてきました。その広がりに可能性を感じながら、今も制作を続けています。

言葉と文化を香りで再解釈する創造プロセス

――創作において大切にしている価値観はありますか?

香りそのものの効果効能ではなく、名前や言葉の表情に秘められている情緒や繊細な感性をしっかりと捉えることを大切にしています。

微かな音色も香りにすること、御名前であればその方の本来のご自身に触れてもらえるように。言葉の奥ゆきを以て貴しをこめて。そう願いながら調合します。

名前にも長い時間をかけて受け継がれてきた物語があり、その流れを“香りという形”でそっと表したいという思いがあります。

名前の奥にある情景まで丁寧に読み取り、作品として立ち上げていく――そんな心構えで日々の創作に向き合っています。

ブランドとしての挑戦と広がる可能性

――今後の展望を教えてください。

名前の響きを香りで表す独自の手法を通じて、日本語の美しさや言葉の文化を世界に届けていきたいです。

「名は体を表す」という言葉のとおり、名前には遥か古代の先祖から受け継がれてきたものと、令和を生きる自分自身の存在が重なっています。その流れすべてが香りへとつながっている、そんな世界観を表現したいと思っています。

将来的には、日本人ならではの誕生日プレゼントとして、「なまえ香」が日本発の誕生日ギフトとして認知されることが目標です。日本人自身がその価値を丁寧に伝え、国境を越えて評価されるブランドへ育てていく考えです。

また、私自身の働き方を示すことで、女性が自立し挑戦できる社会づくりにも関わっていきたいと感じています。

日本は本来、情緒や情景を大切にする“潤いの国”です。失われつつある控えめで美しい日本の言葉や感性を残し、殺伐とした時代の中で心を潤す存在として、「なまえ香」が役立てるよう、今後も商品やサービスを磨き続けていきます。

――事業を進める上で感じている課題と、その対策を教えてください。

ほぼ一人で運営してきたため、時間の使い方が大きな課題でした。

現在は制作工程の一部を外注したり、営業活動を協力いただける方に相談したりしながら、仕事の分担を少しずつ整えています。これからは外部や体制づくりを進めているところです。

暮らしと感性を磨く時間――創作の源泉

――プライベートで大切にしている習慣や、リフレッシュ方法はありますか?

幼い頃に祖母の影響を強く受けたこともあり、食や自然との深い関わりをとても大切にしていることです。和食中心の生活はもちろんのこと、暮らしの匂いや物の風合い、素材の“香り”にも敏感なため、傍で感じることを心がけています。

寺院を巡ったり四季の移ろいを感じる場所へ足を運んだりする時間は、創作の土台になる感性を育てる大切なひとときです。もちろん現在の住まいには日本の原風景があります。心身を整えることで、香りの表現者として深みが生まれるように感じています。

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