株式会社うろこや総本店 代表取締役 戸田 悟氏
株式会社うろこや総本店は、創業から340年にわたり菓子づくりを続けてきた老舗です。流行菓子から郷土菓子まで幅広い商品を手がけてきました。本記事では、17代目として家業を継ぐ現代表の戸田悟氏に、現状や経営観、これからの展望などについて伺いました。
地域に根ざす菓子屋としての現在地
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社は、流行のお菓子から昔ながらの郷土菓子まで、幅広く扱っている菓子屋です。昨年で創業340周年を迎えました。
人口が多い地域では一つの商品が大量に売れることもありますが、こちらは人口が少なく、お客様の多くがリピーターです。だからこそ、種類をそろえ、新商品も頻繁に入れ替えていく必要があります。商品の素案は、私や妻が考え、現場が形にしていく流れです。
――長く続いている理由はどこにあるとお考えですか。
初代・安右衛門から続く近江商人の「三方よし」の考え方にあると思います。「お客様によし」「自分にもよし」「取引先にもよし」――自分たちだけが儲かればいいのではなく、お客様や取引先、地域も含めて、みんなが良くならなければ商いは続かないという考えが、結果的にここまで続いてきた理由だと感じています。
経営者としての責任
――経営者になられた経緯を教えてください。
私自身は、17代目として結婚を機に婿としてこの会社に来た形です。もともと事業自体はすでに続いてきていましたので、「新しく始めた」という感覚はありません。ただ、ものづくりは好きで、特にお菓子を作るための機械がたくさんある環境には興味がありました。
実家は建設業を営んでいましたので、経営の厳しさや責任については、子どもの頃から見てきました。会社員時代は5年ほどしかありませんが、「社長」という肩書きを持った瞬間が一番のターニングポイントで、責任の重さを強く感じた瞬間です。
――将来的に、会社やご自身をどのような姿にしていきたいとお考えですか。
個人としては、いずれは釣り三昧の生活ができたらいいですね。仕事から完全に離れるというよりも、肩の力を抜いて過ごせる時間を増やしたいという感覚です。
会社としては、「小さな店であることを恥じることはない」という考え方を大切にしています。規模を誇るのではなく、その店に集まる人の心が満たされているかどうか。その方が、商いとしては健全だと思っています。
長く続いてきた店だからこそ、背伸びをせず、等身大で続けていく――その姿勢を次の世代にも引き継いでいきたいです。
現場に立つ経営と、社員との距離感
――組織運営で意識していることを教えてください。
社長である私自身、現場に入り、社員と一緒に作業をします。上から指示を出すというより、「一緒にやってみる」「相談しながら進める」感覚に近いです。
また、「私の約束」という仕組みを設けています。社員一人ひとりが、自分で目標を決めます。会社から課されるのではなく、自分で決めたことに向き合う形です。小さな約束でも構いませんが、自分で考え、実行することを大切にしています。
――社内の雰囲気についてはいかがでしょうか。
男女比でいうと、女性が9割を占めています。そのため、専務である妻が社員の悩みや変化に目を配り、日常的に声をかけています。男性の社長には話しづらいことも、女性同士であれば相談しやすい場合もあるようです。
社内文化を一言で表すなら、「和やか」だと思います。厳しさよりも、安心して働ける空気感を重視しています。
――採用の際に重視しているポイントをお聞かせください。
一番は「笑顔で素直な人」です。最初から完璧である必要はありません。まずは素直に話を聞き、行動してみる。そのうえで、「こうすればもっと良くなるのではないか」と前向きに考えられる人であれば、成長していけると思っています。
できない理由ばかりを並べるよりも、できる方法を考えられる人と一緒に働きたいです。
これからの挑戦と、変わらない軸
――今後、取り組んでいきたいことを教えてください。
夢としては、地元のお菓子を海外に届けることです。まずは高級スーパーへの卸を第一段階として考えています。その先には、ヨーロッパなどへの輸出も視野に入れています。
一方で、拡大ありきではなく、体制や人材とのバランスを見ながら進めることが前提です。今向き合っている課題は人手不足であり、優秀な人が安心して働き続けられる給与制度や環境づくりだと考えています。
――経営を続けるうえで譲れない想いは何でしょうか。
やはり「三方よし」、そして身の丈に合った経営をすることです。無理に背伸びをしない――その考え方は、これからも変わりません。
強いから生き残るのではなく、変化に対応できるものが生き残る。その言葉に影響を受けながら、これからも静かに、しかし確実に歩みを続けていきたいと思っています。

