法律と福祉で人生を支える――成年後見の未来を拓く総合支援のかたち

一般社団法人 後見ネット(大藤社会福祉士事務所) 代表  大藤康弘氏

一般社団法人後見ネットは、成年後見制度を必要とする人々に対し、法律と福祉の両面から総合的に支援を行う専門チームです。制度の認知が進む一方で、活用方法が十分に理解されていない現状を見据え、誰もが安心して生活を送れる仕組みづくりに取り組んでいます。本記事では、代表の大藤氏に法人設立の背景、支援の理念、組織運営、そして今後の展望について伺いました。

福祉と法律を統合した総合支援を目指して

――法人設立に至った背景を教えてください。

行政書士と社会福祉士として個人で成年後見を行っていましたが、1人では対応できる件数に限界があり、支援内容も偏ってしまうと感じていました。

後見人は本人の財産管理から医療・福祉の調整まで幅広く関わるため、多角的な視点が不可欠です。そこで「チームで支援する後見」を実現するために法人化し、複数の専門家が連携して1人の人生を支えられる体制をつくりました。

――事業内容や支援の特徴を教えてください。

中心となるのは家庭裁判所から選任される成年後見人としての活動です。加えて、必要に応じて金銭管理や契約手続きのサポートを個別契約で行っています。

特徴は、法律と福祉の両方を理解した上で総合的に支援できることです。福祉職は法律に、法律家は福祉に弱いと言われがちですが、どちらも知らなければ適切な判断ができません。専門領域の垣根を越え、その人の生活全体を見る姿勢を大切にしています。

――支援に込めた理念はありますか?

成年後見人は権利を守る立場である一方、本人の意思を尊重しなければなりません。

例えば「お小遣いはいくらにするか」「酒をやめるべきか」といった日常の判断も、生活や背景を十分に理解した上で決める必要があります。正解がない仕事だからこそ、法律的根拠と福祉的視点の双方から考え抜き、その人にとって最善の選択を探すことを理念としています。

現場で培った経験がつくる「寄り添う後見」

――後見人という仕事を行おうと思ったきっかけはありますか?

20代の頃は介護の現場にいました。重度のリウマチの女性の介助を担当した際、「あなたたちがいないと私は生きられない」と言われたことが、今も支援の原点になっています。

生きることを支える仕事の重さと尊さを痛感し、「もっと人の力になりたい」と思ったのが後見へ進む決定的な理由です。

――これまでで特に印象に残っているケースはありますか?

息子と妻を亡くし、地域で孤立していた高齢の男性を支援したことがあります。宗教に多額のお金を使い、生活が立ち行かなくなっていたため、行政と連携しながら財産管理と生活再建を進めました。

車の返納や酒の制限など、本人に負担を強いる決断も避けられず、権利を守ることと生活を制限することの難しさに何度も向き合いました。今でも「私の判断は本当に正しかったのか」と考えるほど忘れられないケースです。

チームで人を支える組織づくり

――組織運営で大切にしていることは何ですか?

後見の支援は突発的な対応が多く、入院や急変があればすぐに駆けつけなければなりません。個人では不可能なため、法人として「みんなで1人を見る」体制を整えています。

子育て中の職員も多いため、誰かが対応できない時は別の職員が引き継ぐなど、柔軟にカバーする仕組みを重視しています。家庭を大事にできない福祉職は、いずれ利用者の生活も支えられなくなるという考えが根底にあります。

――コミュニケーション面で意識していることはありますか?

顔を合わせて情報共有することを大切にしています。リモートで完結する業務もありますが、利用者の状況は日々変わるため、リアルタイムでの会話が欠かせません。小さな違和感でも共有し合うことで、後見業務の質を維持しています。

広がる社会課題にどう向き合うか

――今後の展望について伺えますか。

急増する「おひとり様高齢者」や、親亡き後の障害者支援など、成年後見が必要となるケースは確実に増えていきます。一方で、後見人の数も質も十分とは言えません。

だからこそ、法人として専門家を育て、継続的に支援できる体制をつくることが最大の使命です。

また、事務作業のシステム化を進め、属人的になりがちな後見を「組織として継続できる支援」に変えていきたいと考えています。

――業界の動向をどのように捉えていますか?

高齢化と単身化が進むほど、成年後見の重要性は増します。制度が拡大する一方で、専門知識の不足によるトラブルも増えており、質の高い後見人の育成が急務です。

福祉制度や医療、法律を横断的に理解した支援者が求められる時代に入ったと実感しています。

――代表個人として影響を受けた人や、リフレッシュ方法を教えてください。

最も尊敬しているのは両親です。日々の生活を支えるという行為がどれほど大変で尊いものかは、福祉の仕事を続ける中で強く感じています。

リフレッシュらしいことはほとんどなく、予定がない日は仕事に向き合っていますが、唯一の息抜きは一人で静かに飲むお酒の時間です。その日の判断や課題を振り返り、気持ちを整理する大切なひとときになっています。

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