朗読劇と歩む地域密着マルシェ
癒しのマルシェ実行委員会 代表 室井かなえ氏
癒しのマルシェ実行委員会は栃木県内を中心にマルシェやイベントの企画・運営を行っています。シングルマザーとして地域に支えられた経験から「癒しや多世代交流の場」と「夢を応援できる場所」をつくりたいと語る室井かなえさんに、本記事では団体立ち上げの背景、組織づくりの工夫、今後の展望について伺いました。
地域をつなぐ朗読劇とマルシェ
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
主に栃木県内で、マルシェやイベントの企画・運営を行っています。中でも現在は、朗読劇の制作に力を入れています。朗読劇の出演者はゲスト声優やオーディションでも選び、地域の学生さんをはじめ、年齢を問わずいろいろな方にステージに立っていただける場をつくっています。
ただ出演の場を用意するだけでなく、出演者はプロの方から演劇の技術を学べるワークショップも行っています。
――業界内での強みはどのような点にありますか。
立ち上げ当初から「読み聞かせ」や「朗読」をステージコンテンツとして取り入れてきました。一般的に朗読というと、絵本や物語の読み聞かせのイメージが強く、「あまり面白くなさそう」と思われてしまうことも多いのですが、私たちは音楽や映像を組み合わせた朗読劇という形にしています。目でも耳でも楽しめる”五感”を刺激する朗読を目指しています。
自分らしい働き方を求めて
――経営者になられた経緯を教えてください。
起業したのは2019年頃で、シングルマザーに成り立ての頃でした。当時は営業職をしていて、仕事をしていく中で一番大事だと感じていたのは「コミュニケーション」でした。お客様との関係を深めるために、少人数の集まりやイベントをよく企画していました。一緒にパーティーやBBQしたり、何かを一緒に準備したりすると、人との距離がぐっと縮まると感じたんです。その時、ただ会社に勤めて営業をやっているだけなのは面白くないな、と感じていました。
また、子育てをしながらの営業をやっていると、子どもの風邪や体調不良などでどうしても仕事に支障が出てしまいます。家庭の環境に左右されない時間で仕事をしたいと思ったときに、起業した方が早いなと思ったことがきっかけです。
――仕事をする上で大切にしている価値観は何でしょうか。
大きく影響を受けた方が二人います。一人は、篠崎尚史先生です、株式会社日光アカデミー日本両棲類研究所の代表です。私が起業したばかりの頃にパートナー選びで失敗して、騙されたような経験がありました。そのときにお会いし、言われたのがあります。「多角的に物事を見なさい」ということでした。自分の正しさが、世の中の「正しさ」と必ずしも一致しません。世の中が何を求めているのか、客観的に物事を見る大切さを教えてもらいました。
もう一人は、絵本作家であり世界で活躍してる西野亮廣さんです。著書『夢と金』のなかで、夢を応援するためには自分自身が自立していることが大事だという考え方に共感しリスペクトしています。私も子どもの夢も応援したいですが、自分がしっかり自立していなければそれはできません。その「夢」と「お金」のバランス感覚を大事にしています。
ルールが守る協働の輪
――組織運営で意識していることを教えてください。
現在、一緒に動いてくれているのは、主に業務委託という形で関わってくれているメンバーです。
「報連相」用でグループLINEを作るのですが、作った段階で必ずルールを明確にします。これはメンバーからのアイディアでもあり、私自身も気を付けています。誰がリーダーで、このグループではどの業務についてだけ話すのか、何かあったときは個別で連絡してほしいことなどを最初に伝えます。そして「絶対にやってはいけないこと」も伝えています。言い争いをする、悪口を言う、誰かを否定するような発言をする──そういったことはしないでほしいと伝えています。シンプルなことではありますが、チームの輪を乱さないようにしましょう、という基本ルールを全員に説明しています。
コミュニケーションにおいては、「プラスの何かを足す」というよりも、まずはマイナス要素をなるべく減らすことを大事にしています。
―― 一緒に動いていく仲間に求める姿勢はどのようなものですか。
積極的で、協調性があり、行動力のある人です。とてもシンプルです。
好きな時間、刺激を受ける時間
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
朗読劇に関わっているせいか、映画を観たり、演劇鑑賞することがとても好きです。クリエイティブな作品に触れると、「こういう表現も面白そう」「こんなことをやってみたい」とアイデアが降てくる感覚があります。それが仕事なのかプライベートなのか、自分でもよくわからないところがありますが、今はそれが一番好きな時間ですね。他の団体の朗読劇や演劇を観に行って刺激を受けることも多く、その経験がまた自分たちの企画づくりにも繋がっていると感じています。
地域に「癒し・夢・つながり」を生み出す、三つのビジョン
――ビジョンや活動の根幹について教えてください。
ビジョンとしては、大きく三つあります。一つ目は「癒しの場」を提供すること。二つ目は、個人が思い描く「夢」を応援できる場所であること。三つ目は、地域での孤立をなくすために、多世代交流ができる場をつくることです。
私自身、シングルマザーで、始めたての時期に、女性特有の病気や精神的な不調で体調を崩してつらい時期がありました。両親は遠方にいてすぐに頼れない中で、地域の方々や友人に本当に助けてもらった経験があります。その「お世話になった」という思いが強くあり、何か地域に還元したい、自分で企画して地域のためになることがしたいと考えたときに、マルシェイベントの開催に行き着いたのが始まりです。
ビジネスパートナーとの件で大きな投資をしたものの回収できなかった時期もありましたが、「失敗したからやめる」という選択肢はあまり頭になく、一度普通の仕事を挟みつつ立て直してきました。もしそこで辞めていたら、今の活動には繋がっていなかったと思うので、あの時期が一番のターニングポイントだと感じています。
正式な社員として雇用しているスタッフはいません。イベントの企画は長期スパンで準備が必要なので、まずは私が全体の計画とスケジュールを組み立てます。
たとえば「12〜1月はアイデア出し」2月〜3月は企画書まとめ「4〜5月は営業活動」6月〜7月追い込み、本番といった形で、大まかな流れと目標を最初に共有します。その上で、「あなたはここを担当してください」と役割分担をして、その担当者が許容できる範囲でさらに下のメンバーに指示を出すようなイメージです。
大きな目的は私が決めますが、具体的な段取りや進め方はメンバーに任せています。つまずいているところがあれば、フィードバックや面談をしながら、一緒に軌道修正していきます。
映像で広げる表現の可能性
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
今後は、映像コンテンツや話し方講座を新たにやっていきたいと考えています。YouTubeなどもやっていますが、自分たちが取り組んでいる朗読劇が「実はそんなに敷居の高いものではない」ということを、映像や講座を通して伝えていきたいです。
朗読というと、「つまらなそう」「ただの読み聞かせでしょう」といったイメージを持たれがちです。だからこそ、見たいと思ってくれる方が具体的にイメージできるような「言語化」や「映像での発信や実体験」が今後の課題だと思っています。
また、女性の働き方の選択肢を増やしたいという思いもあります。今は副業や、子育てをしながら起業する女性も増えていますが、人生のステージが変わるたびに環境も大きく変化します。積み上げてきたキャリアや技術が、環境の変化によって活かせなくなることも多いと感じます。
そうした人たちが、これまでの経験やスキルを活かしながらイベントづくりに関わるなど、働き方の選択肢を持てるような場をつくっていきたいです。