大手や家庭ができない洗いで生き残る――二代目が描くクリーニングの未来
有限会社藤野マルミクリーニング店 代表取締役 宮澤 充氏
有限会社藤野マルミクリーニング店は北海道札幌市に構えて、2022年で創業50周年を迎えた地域密着のクリーニング店です。家庭で洗えるものが増えてきた昨今ではありますが、「なくなる業種ではない」と二代目の代表である宮澤さんは語ります。本記事では宮澤さんにお話を伺い、現在の取り組みや今後の展望、「全国展開」へのロマンなど、業界の実情と未来像を伺いました。
全国でも希少な洗浄技術
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当店「マルクリーン」では通常のクリーニングに加え、来店不要の宅配クリーニングサービスを行っております。宅配クリーニングサービスは集荷バッグに詰めて送るだけですので、忙しくて時間が取れない方でもOK。一般衣類はもちろん、スキーウェアや着物についても対応いたします。ご家庭では難しい布団や毛布の丸洗いなどにも対応しています。しみ抜きも当店自慢の技術で落とします。お気に入りの服や、あきらめていた服などがございましたら、是非当店にご相談いただければと思います。
――業界内での強みはどのような点にありますか。
当社のクリーニングサービスは、業界屈指の洗浄力を誇り、特に作業着の油汚れや頑固な汚れを効果的に落とすことに特化しています。
特に作業着の油汚れや頑固な汚れを効果的に落とすことに特化しています。特化している理由とは、整備師さんが着るような作業服やオーバーオールには、焼けたエンジンオイルや塩カリ混じりの泥、特殊な循環水が付着していて、更に内側からの汗や皮脂汚れと組み合わさる事により、一般の洗剤処理では難しい処理を強いられる実情があります。専門的に言えば油汚れ自体を「溶かし去る」処理をしています。これは、大手クリーニング店でも既に出来ない処理方法で、日本国内においても数社しか出来ない状況です。
あと、基本的に要望には全部対応するつもりでやっています。例えば、以前は別のところに頼んで「洗濯できない」と断られたものが、時間が経ってから直接当店に相談が来て、洗濯と仕上げをして納めたこともあります。 (例: 毛氈付ピアノカバ-、撥水加工の相談、染み抜きを含む全体クリーニング等)
あとは着物ですね。着物は染み抜きも含めた洗いや仕上げの工程で対応するため、染み抜き屋さんの領域みたいな仕事にもなります。
逃げずに継いだ覚悟
――経営者になられた経緯を教えてください。
父が初代で私は2代目になります。創業して55年ぐらいになります。
父が他界したことをきっかけに後を継ぐことになりました。会社には物品購入や銀行から受けた融資の返済が終わってなかったので、借金がありました。まさに私は「黒星スタート」といった感じです。「お父さん、2代目らしくないよね」なんて息子にも言われましたが、普通はそんな状況から逃げるかもしれないですね。ですが、私はそれを受けて立ってやろう!と思いました。初めはやれるまでやって、借金が払えなくなって途中で倒産・破産しても恨みっこなしだよって、そんな意識でやっていました。しかしその整理も終わりました。それが終わったのはコロナ禍のころでした。
家を継がず、別の道へ就職する選択もありましたが、2代目になる1年前、母親が脳梗塞で突然倒れてしまいました。その1年後には父が膵臓ガンで他界。そんな状況で私が相続放棄して逃げたら、母の住む場所がなくなってしまう。自分がやるしかない!となりました。
私自身、学校を卒業して18〜19歳の頃からこのクリーニングの仕事に携わり、気づけば40年近くになります。父は45年くらいやってきましたので、もうすぐ追い抜きますね。長年慣れ親しんできた仕事であるからこそ、自分の経験を最大限に生かし、家族を守るためにも、この道を続けることが最も確実だと判断しました。
――会社にとってターニングポイントとなった出来事はありますか?
コロナ禍に、とあるところから「ホームページを作りませんか?」とお話がありまして、そこで作ったんですね。その過程で、業界内外のさまざまな人の話を聞く機会が増えていきました。油の問題で困っている、ドライクリーニング機械の業者から聞く業界の実態、そんな話を聞くうちに、自然にひらめきが生まれました。とはいえ、「自分はドライクリーニングができます」と技術を誇示したいわけではなくてあくまでも、困っているクリーニング店様や業界の整備士様へ、“使えるもの”“役に立つもの”を届けたい。その思いが出発点でした。
高い事を言いたい気持ちはありませんが、商売として取り組む以上、やるからには全国展開を目指したいという考えはあります。クリーニング業は地域密着型の色合いが非常に強い業界ですが、そうした枠を少し壊しながら、新しい可能性に挑戦してみたい。
まだ理想が完全に形になっているとは言えません。それでも、業界の常識に風穴を開けたい。そんなロマンを抱きながら、一歩ずつ模索を続けています。
人手不足と向き合い続ける現場の現実解
――組織体制について、現場はどのように回されているのでしょうか?
工場はパートさん2人にお願いをしています。春から夏にかけての時期はスキーウェアや、取引のある保養施設からバスタオルやテーブルクロスなどのクリーニングの仕事が入ってくるので、1年間で一番忙しいですね。あるスキー場さんから受けているスキーウェアの量はインバウンド需要もあって、年々増加しています。。ラグビーやサッカーの日本代表もこの地域で合宿していて、その時期はバスタオルのクリーニングも重なります。そういう時期は人も欲しいなと思います。ただ、夏場の工場はとても暑いですから、その時期だけ人に来て欲しいといってもなかなか難しいですよね。
――今後採用するにあたり、働くスタッフに求める部分はどのようなものですか。
技術的な部分でいえば、「クリーニング師」という国家資格があります。衛生法規・公衆衛生・洗濯の知識がメインで、プレスや包装などの技術はやればすぐに覚えられると思います。
以前は支店があり、セールスマンを置いていたことはありましたが今はいません。外回り営業も、昔と比べると難しくなったと感じます。繁忙期には工場のアルバイトの採用も考えていますが、セールスマンがいればなと思うことがあります。
家庭洗いの先へ進むプロの選択
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
これから増やしていきたい柱が3つあります。スキーウェア、作業服、着物です。
個人のお客さまの洗い物は、昔と比べると限られてきました。自分のものを自分で洗う人が増えていますし、北海道は店舗型だけでやっていくのは厳しい。人件費や燃料費も上がっていますから、個人がそんなに持ってこない状況で、店舗だけで儲かるわけがないと思うんです。そこで、こちら側が送料全て負担でヤマト運輸が集荷に伺う「宅配クリーニング」やホ-ムペ-ジや電話でオーダ-頂く「集配クリーニング」なのです。
だからこそ、「ご家庭でもなんとなくできること」をプロの私たちが前面に打ち出していくというより、設備やノウハウがないとできない領域であるスキーウェアや作業服、着物に軸を置きたいのです。
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
ホームセンターへ行ったり、知人、友達とおいしいものを食べに出かけたり、映画を見に行ったり、そんなようなことをしていますね。若い頃はスピード狂でもありまして、自動車のスピードによるスリルを味わって車が汚れたら洗う、みたいな若者時代もありました。趣味といえば、ブラックミュージックを聞くのが好きですね。R&Bやファンク、80年代から2000年代くらいまではハードコレクターでした。
無趣味ではないので、お金や時間があればいっぱいやりたいですね。