想いを伝え、想いを紡ぐ――積み重ねで築く、地方発のフードビジネス

株式会社朔 代表取締役 山崎 武雄氏

株式会社朔は、飲食・物販・食肉加工・水産加工・EC・公園事業まで、
“食”に関わる領域を横断的に展開するフードビジネス企業である。

地域の生産者と消費者をつなぎ、
「地方から食の価値を発信する」ことに挑み続けている。

本記事では、創業の背景から経営の軸、組織づくり、そして未来への展望までを伺った。

“食”を広く捉える事業と、地域に向き合う理念

――御社ならではの強みや、事業の特徴はどのような点にありますか?

当社の特徴は、飲食だけにとどまらないことです。通販にも取り組んでいますし、公園事業にも関わっています。

2025年1月からは、公園財団からの業務委託で始まった「丘陵公園飲食」の事業にも携わっており、その中にあるレストランなど4か所の運営も行っています。

「食を点ではなく面で捉える」

これが私たちの大きな特徴です。

――独立された経緯をついて教えてください。

もともと強い独立願望があったわけではありません。兄と一緒に飲食店事業をしていた時期に、仕事への取り組み方や方向性の違いが出てきて、その流れの中で独立を選びました。

当時は会社を大きくしたいというより、自分と家族をきちんと養えるかどうかが一番の関心だったと思います。とはいえ、不安もある中素晴らしい仲間にも巡り合え今があるという形です。

――御社の理念に込めた思いを教えてください。

企業理念には「想いを伝え、想いを紡ぐ」という言葉を掲げています。

この言葉には、

“受け取ったものを次へ渡す責任”という意味を込めています。

地方では、流行を追うだけの店は長く続きません。
だからこそ、

  • 誰が作ったのか
  • どんな想いがあるのか

そういった背景ごと伝えることが大切だと考えています。

そしてその想いは、
お客様だけでなく、働くスタッフにも受け継がれていくものです。

目の前を積み重ねながら、経営判断に冷静さを持ち込む

――経営判断の軸になっている価値観や信条を教えてください。

即断即決は大切にしつつも、物事の両面を見ることは常に意識しています。感情で動いてしまう場面は誰にでもありますが、そこで一歩引いて客観的に見ることが大事だと思っています。

対立して勝つことより、どうすれば解決できるのかに目を向ける。その感覚は会社の中でも欠かせません。感情で話さず、冷静に判断することが、自分の中では大きな軸になっています。

――経営の中で「これだけは譲れない」と考えていることは何でしょうか?

「正義の剣は振りかざさない」ということです。自分にとっての戒めでもあります。これは絶対に正しい、こうあるべきだと強く押しつけると、人は窮屈になってしまいます。

世の中は白か黒かではなく、基本的にはグレーな部分を含んでいると思っています。だからこそ、ひとつの正しさだけで人を縛らない姿勢は大切にしています。

――これまでのキャリアで、転機になった出来事について教えてください。

起業して店を出してから半年ほど経った頃、調理師学校に通うアルバイトの男の子が、卒業後に社員として残ってくれるかもしれないと思うようになりました。実際にその後、社員になってくれたんです。

その出来事をきっかけに、給料やキャリア、人材育成について深く考えるようになりました。若い人の今後の人生に関わる責任の重さを、そこで初めて強く実感した気がします。人を雇うことの意味を理解する、大きな転機でした。

人を活かす仕組みづくりと、継続を重んじる組織文化

――社員が自分で考えて働けるように、どのような工夫をされていますか?

評価制度を導入し、私が大枠を作ったうえで「この範囲の中で半年を目標に進めてください」と伝える形にしています。

昇給額にもつながる仕組みにしているため、自発的に動く人と言われたことだけをやる人の違いが見えやすくなります。公平性を担保しながら、自分で考えて行動するきっかけをつくりたいという考えです。

――社員とのコミュニケーションで大切にしていることを教えてください。

1対1で話す時間をできるだけ確保しています。

評価制度に基づく面談も含めて、2カ月に1回ほどは1時間程度話すようにしていますし、店長などの役職者とは特に直接顔を合わせる機会を意識してつくっています。役職者の役割は、店舗情報が淀みなく全員に伝わる大切な役割を担っていると考えております。

情報が錯綜しやすいからこそ、対話を通じて整理していく必要があります。

――採用や育成、社内文化についてはどのように考えていますか?

一緒に働きたいと思うのは、愛想笑いではなく、ちゃんと笑える人です。元気に挨拶ができる、お礼が言えるといった、子どもの頃に教わるような基本を大事にしている人にも惹かれます。

社内文化としては、「好きだから頑張る」ではなく、日々の積み重ねを重視しています。その日の気分で頑張ったり頑張れなかったりするのではなく、毎日継続してやることを大事にしたいと思っています。

地方と食の可能性を広げるために、これから挑みたいこと

――今後取り組んでいきたい挑戦や展望について教えてください。

1つは食全般に広がる幅広いメーカーになることです。たとえば店でしか味わえないおいしい焼き鳥を、全国や海外でも食べられるようにしたい。新潟県のものを広く発信していきたいと考えています。他は、牛肉の海外輸出です。

また、店舗数を増やす優先順位は高くありませんが、農家さんと一緒に価値を高める取り組みは続けていきたいです。一次産業の認知を広げ、収入を増やす。その積み重ねが農家さんの力にもなると思っています。

――業界の変化や、今向き合っている経営課題をどう見ていますか?

今後は少人化が進み、ロボット化もさらに加速していくと見ています。

人がやる意味がより厳しく問われる時代になるはずです。だからこそ、人が関わる以上はロボット以上のサービスが必要になると思います。

経営課題としては、情報を分断しないこと、誰もが分かる形で伝えることです。文字を読む人が減っている実感もあるので、資料を動画に置き換えることも含め、伝え方そのものを見直しています。

――将来、会社として実現したい姿や社会に与えたい影響を教えてください。

飲食業界全体の地位を変えるとまでは言えませんが、少なくとも当社から少しずつ変えていきたいと思っています。

飲食で働く人に対する長時間労働や低賃金のイメージを、自社から変えていきたいんです。年収や休み、働く時間を毎年少しずつでも改善し、「飲食なのにすごいよね」と言われる会社にしたい。

その積み重ねが、地方でも仕事をつくり、人の流出を減らす可能性につながるかもしれません。食を通じて地方の未来に何ができるのか、そこを模索し続けたいです。

人としての在り方に影響を与えた存在

――これまでの価値観や生き方に影響を受けた人物について教えてください。

影響を受けた人物として思い浮かぶのは、プロレスラーの三沢光晴さんです。

自分がプロレスを見始めた頃に活躍していた選手で、子どもの頃の自分にとても大きな影響を与えてくれました。自分の力でエースになり、団体の社長にまでなった姿にも惹かれましたし、その後に別団体を立ち上げた際、多くの選手がついていったことにも強く印象を受けました。

生き方や考え方を含めて、本当に尊敬している存在です。

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