眠りの悩みに、仕立てで応える。確かなものを確かな腕で仕上げる布団づくり
有限会社石橋蒲団店 代表取締役 石橋 伸彦 氏
布団類のオーダー専門店として、一人ひとりの体型や眠りの悩みに向き合いながら、既製品ではない寝具づくりを続けている石橋氏。創業は昭和29年。現在は3代目として店を受け継ぎ、長年培われてきた技術と、職人としての誠実な姿勢を大切にしています。
「確かなものを確かな腕で仕上げる」という信念のもと、素材、仕立て、使う人との対話を重ねながら、眠りを支える一枚を形にしてきました。今回は、事業の特徴や仕事への向き合い方、今後の挑戦について伺いました。
目次
仕立てで寝心地は変わる。オーダー専門店としての強み
——現在の事業内容について教えてください。
布団類のオーダー専門の店として仕事をしています。一般的な寝具店や布団店では、商品を仕入れて販売するような既製品が中心になっていることが多いと思います。
そうではなく、本当にいいものを探していらっしゃるお客様にご来店いただいたり、メールでやり取りをしながら、その方に合う商品を決めていく形を取っています。
——他社にはない強みについて教えてください。
眠りについて悩んでいらっしゃる方は、実際に多いです。例えば枕が合わない場合、寝る向きや首の状態だけではなく、枕の高さが合っていないことがあります。
腰痛がある場合には、敷布団が合っていないということもあります。そういったことを一つひとつ伺いながら、商品を決めていきます。
布団は、生地の中に綿が入れば形としては布団になります。極端に言えば、長方形の袋の中に素材が入れば布団にはなるわけです。ただ、最終的に寝心地を変えるのは仕立て方です。
お客様と話をしながら、体型であったり、筋肉質かどうかであったりを観察し、その人にはどのような仕立てが合うのかを考えていきます。
仕立ての部分は、外から見えるものではありません。袋の中に綿が収まってしまえば、そこに至るまでのプロセスは見えなくなります。しかし、そこが一番重要なところです。
大きい人が小さい布団に寝れば足がはみ出ますし、反対に小さい人が大きい布団に寝ると扱いにくくなります。自分のサイズに合うものを使うことも含めて、総合的に仕立てていくことを大切にしています。
師匠から受け継いだ「施し」を念頭に仕事と向き合う
——この道に進まれたきっかけを教えてください。
創業は72年になります。昭和29年から続いている店で、私で3代目です。高校卒業の時点で、進学するのか仕事をするのかを考えていました。子供のころ、布団屋さんを舞台にしたテレビドラマがあり、そこにうちの店にはない布団が出てきました。
それが、着物の形をしたような「かいまき」という布団でした。これをどうやって作るのだろう、作ってみたいと思ったことが、この世界に入る最初のきっかけでした。
入りたての頃は、高校を卒業したばかりで何も分からない状態でした。たまたま教えていただいた師匠が非常に厳しい方で、布団を作ることよりも、まず精神を鍛えるというような教え方だったのです。
その中で「人に施せ」と言われました。高校を出たばかりの人間にとっては、最初は何のことか分かりませんでした。師匠に教えていただいたのは1年間でしたが、その間ずっと「施しとは何なのか」を考えていましたね。
最終的にたどり着いたのは、自分が今できることを、人に対して精一杯することが施しではないかという考えです。今も、そのことを念頭に置いて仕事をしています。
互いに気遣い、正直に向き合う関係をつくる
——組織運営や、人材育成で大切にしていることはありますか。
一番大事なのは、互いに気遣うことだと思います。少ない人数でやっているので、ワンマンになるところもあります。ただ、そこは話し合いをしながら進めます。こうしたい、ああしたいという意見があれば、その意見も聞きながら進めていく形です。
以前は従業員がいたこともありますし、弟子を預かったこともあります。会社というよりも、自営業の店という感覚に近いです。
現在は従業員はおらず、たまにアルバイトやパートの方に手伝ってもらうことはありますが、基本的には一人で仕事をこなしています。
国産綿を使った布団づくりへ。畑で続ける試行錯誤
——今後取り組んでいきたい挑戦について教えてください。
今、布団に使う綿の材料は、すべて輸入に頼っています。国産の綿を作っているところも一部にはありますが、それを布団にするのはなかなか難しいのです。量的な問題もありますし、コストの問題もあります。
なんとか国産の綿を使えないか、できないかという思いがあり、今は知り合いの畑を借りて綿を栽培しています。まだ事業展開というところまではいっていませんが、面積あたりの収量がどれぐらいになるのかなどを調べているところです。できれば、純国産の木綿で布団を仕立ててみたいという思いがあります。
——実際に綿の栽培をしてみて、どうでしたか?
綿の栽培は、思っている以上に重労働です。そして、思っている以上に収穫量がありません。コットンボールは大体10グラムほどありますが、その中には種が入っています。種を取ると、実際に繊維として残るのは3グラムほどです。100取れても、繊維として使えるのは30ほどということになります。
面積の問題もありますし、農薬を使っていないこともあり、どうしたらいいのかを試行錯誤している段階です。研究開発として仕事にしていくとなると大変ですが、今は自分のできる範囲で取り組んでいます。いい年もあれば悪い年もあります。
去年か一昨年は、ほとんど取れなかった年もありました。肥料も化学肥料は使っていないので、土地が痩せてきている部分もあるかもしれません。今年からは、土に手を入れていこうと考えています。
休みの日も畑へ。自然の中で整える時間
——リフレッシュの方法について教えてください。
休みの日は、毎週日曜日に畑へ行っています。天気が良ければ、その畑での時間が一番のリフレッシュです。
畑は山の中腹にあり、何もない場所です。自然と自分だけなので、とてもリラックスできます。草刈りや成育状況の観察等することがたくさんあり、肉体的な疲労等はありますが、それも含めてリフレッシュになっています。
——最後に、読者に伝えたいことを教えてください。
読者の方に伝えたいのは、「ぐっすり眠れていますか」ということです。ぐっすり眠るために、睡眠サプリなどを使われている方もいらっしゃると思います。ただ、それ以前に、今使っている布団の素材は何なのかを考えていただきたいです。
中に入っている詰め物の素材、生地の素材、そして仕立て。それらがそろって、ぐっすり眠れる布団になります。
眠れない理由を精神的なものだけだと考えるのではなく、眠りを変えたいのであれば、素材から変えることが大切です。お店は、そういうお悩み相談室のような場所でもあります。