農業の未来を支える「緑の革命2.0」――SACMOTsが挑む新たな生産システムの実装
株式会社SACMOTs 代表取締役CEO 村上真哉氏
株式会社SACMOTsは、九州大学作物学研究室発のスタートアップとして2025年に創業しました。種子の力を引き出す独自技術や、農薬・肥料の使用効率を高める技術開発を通じて、環境負荷を抑えながら持続可能な農業の実現を目指しています。大学研究の成果を社会へ実装することを使命に掲げ、農業分野に新たな価値を生み出そうとしています。本記事では、代表取締役CEOの村上真哉氏に、創業の背景や事業の強み、今後の展望について伺いました。
大学発スタートアップとして挑む農業技術の革新
――御社の立ち上げに至った経緯を教えてください。
当社は九州大学作物学研究室発のスタートアップとして立ち上げました。私はもともとその研究室のOBで、卒業する頃から当時の准教授だった恩師と「いつか創業したい」という話をしていたんです。その後、私は新卒で商社に入社し、サラリーマンとして働いていましたが、2019年頃から「そろそろ技術も蓄積されてきたので創業しよう」という話になり、6年ほど伴走する形で準備を進め、2025年12月に創業しました。
――現在の事業内容や強みについて教えてください。
当社の強みは、大学発スタートアップならではの技術力です。現在は大きく2つの技術を軸に事業を展開しています。
1つ目は、植物の種子に関する技術です。一般的に種の技術開発というと、ゲノム編集や遺伝子組み換えが注目されていますが、当社は遺伝子そのものを改変するのではなく、種の力を引き出すアプローチを取っています。非遺伝子組み換え技術の形で種の品質を向上させる技術であり、日本国内ではほとんど例がない技術だと認識しています。グローバルで見ても、扱える企業は限られていると思います。
2つ目は、農薬や肥料の吸収効率を高める技術です。葉面浸透剤という微粒子を活用することで、従来必要とされていた農薬量を10分の1程度に抑えられる可能性があります。他社にはあまり見られない独自性の高い技術だと考えています。
「緑の革命2.0」で持続可能な農業へ
――理念やビジョンについて教えてください。
当社では「緑の革命2.0」の実現を掲げています。
戦後の「緑の革命」によって、品種改良や化学肥料、化学農薬の利用が進み、現在の農業生産システムが形成されました。ただ、現在はその仕組みが限界に近づいているのではないかと感じています。化学肥料や化学農薬による環境負荷が問題視されるようになり、気候変動によって農業生産も不安定になっています。以前のように肥料や農薬を使えば安定して収穫できる時代ではなくなってきています。
そうした中で、環境負荷を抑えながら、気候変動にも適応できる新しい農業生産システムを作りたいと考えています。それが当社の理念です。
大学研究を社会へ届けるために
――経営者を目指した背景についてお聞かせください。
一番大きかったのは、大学時代の先生との出会いです。卒業間近に「研究室発の技術で起業したい」と話したことが、ずっと自分の中に残っていたのだと思います。
研究室では、先生やメンバーと一緒に日々研究に取り組み、とても有意義な時間を過ごしました。一方で、農業分野では大学の研究成果が社会実装されにくい現状も感じていました。優れた研究があっても、世の中に届かないケースが多いんです。
だからこそ、大学の技術をきちんと社会へ実装し、農業、さらには人類の食糧問題の解決につなげたいという思いがあります。
――経営判断をする上で大切にしている価値観は何でしょうか。
「現場で本当に使われるか、使いやすいか」を重視しています。
農業分野は最終的な農産物の単価が高くないため、どれだけ優れた技術でもコストが高すぎると普及しません。そのため、研究開発段階から製造コストや導入コストを意識する必要があります。
良い技術であれば何でも良いというわけではなく、「現場でどのくらいのコストで運用できるのか」を常に意識しながら経営判断を行っています。
若手が挑戦できる組織を目指して
――組織運営で大切にしていることを教えてください。
できるだけ働きやすく、発言しやすい環境を作りたいと考えています。農業業界は比較的トラディショナルな企業も多いため、若手がのびのび活躍できる場はまだ少ないと感じています。
そのため、若手がしっかり挑戦できる環境を整えたいと思っています。一方で、業界の中で事業を進めるには、経験豊富な方々とのコミュニケーションも非常に重要です。若手を引き上げながら、業界の重鎮の方々や顧問の方々とも連携し、ワンチームで取り組める組織にしたいと考えています。
――どのような人と一緒に働きたいと考えていますか。
バランス感覚を持った人ですね。
農業分野は現場に行く機会も多いので、外へ出て好奇心を持って行動できることが大切です。ただ、それだけでは業界はアップデートされません。最先端のサイエンスやビジネスモデルを理解し、グローバルでも戦える視点も必要です。
現場感覚を持ちながら、研究やビジネスの視点も持てる人材が理想だと思っています。
大学の技術を社会実装する中核へ
――今後の展望について教えてください。
現在扱っている2つの技術は、あくまで最初のプロダクトだと考えています。今後は九州大学作物学研究室だけでなく、他大学の農業系技術も積極的に取り入れていきたいと思っています。
大学には優れた研究成果が数多くありますが、それを社会実装する仕組みはまだ十分ではありません。当社がその橋渡し役となり、大学の最先端研究を現場へ届ける中核的な存在になれればと思っています。
そうすることで、環境にも配慮しながら、持続可能な形で人類の食糧供給を支えられる世界を実現したいと考えています。
――最後に、休日のリフレッシュ方法を教えてください。
趣味はマラソンと登山です。夏は登山に行き、冬はマラソンをしてリフレッシュしています。仕事とは違う環境に身を置くことで、気持ちを切り替えています。