請求・支払いを「一本化」する仕組みで、ヘアメイクの不安をなくす――「M’s Labo」で目指す業界DX
ヘアメイクマッチング株式会社 代表取締役社長 鈴木 友也 氏
ヘアメイクの現場では、本人確認が十分でないまま発注と受注が進み、当日になって「来ない」「支払われない」といったトラブルが起きやすい――。そうしたリスクの高い取引を、事前決済と稼働管理によって整えているのが、ヘアメイクマッチング株式会社が運用する「M’s Labo」です。理念に掲げるのは「全ての人のポテンシャルを加速させる」。技術職が安心して働き、正しく報酬が支払われ、適切に評価されるための仕組みを、プラットフォーム上でどのように実装しているのか。代表の鈴木氏に、事業の今とこれからについて伺いました。
目次
現場の不安を「仮払い 」で止める――信頼を仕組み化するM’s Laboの事業と強み
——まず、御社の事業内容を教えてください。
ヘアメイクアーティストと、制作会社や芸能関連事務所などの発注者をつなぐ事業です。M’s Laboという自社プラットフォームを通じて、条件整理や情報共有、請求・支払い、稼働管理までを一元的に運営しています。
現在は約200名のヘアメイクアーティストが登録しており、急な案件にも対応できる体制を整えています。
——発注者・受注者のやりとりは、具体的にどこまで支援しているのでしょうか。
発注者・受注者の双方の業務を支援しています。特徴は、銀行振込ではなく、サイト経由のクレジット決済を前提にしている点です。発注者が先に決済を行い、稼働後は評価とボタン操作によって自動的に送金されます。会員間で送金できる機能も備えています。
ヘアメイクアーティストにとっては未払いの不安が減り、発注者側にとっても支払いが事前に確定することで、予算やスケジュールの見通しが立てやすくなります。加えて、公式LINEでは24時間・360日体制でサポートしており、双方が安心して相談できる環境を整えています。
——他社にない強みは、どこにあると考えていますか。
一番の強みは、M’s Labo独自の運用サイクルがあることです。ヘアメイク業界は流動性が高く、本人確認をしないまま取引が進み、当日の無断キャンセルや未払いが起こり得る現実があります。異業種から入ってきた立場としては、正直「あり得ない」と感じました。
そこでM’s Laboでは、稼働前に事前決済(仮払い)が行われ、稼働後に送金される流れを標準にしています。これにより、支払いの不安を先に解消した状態で現場に入れる仕組みをつくり、条件や情報を整理したうえで、信頼できる人材を提案しています。
オンライン運用が標準化されていない業界を、仕組みでアップデートする――ヘアメイク業界のトランスフォーメーション
——M’s LaboはDXやトランスフォーメーションをどう実現しようとしているのでしょうか。
もともとM’s Laboの開発は、社内をより良く、より大きくしていくための取り組みでした。まずは社内向けの業務改善としてスタートしています。
ヘアメイク業界は、案件対応や現場判断のスピード感はある一方で、業務フローそのものがオンラインで標準化されているケースはまだ多くありません。だからこそ、DXやトランスフォーメーションを活用し、業務の進め方自体を「仕組み」で変えられないかという発想から取り組みを始めました。
——DXを進める上での課題はありますか。
一番の課題は、メリットをどう伝えていくかだと感じています。
ヘアメイク業界は、案件対応や技術に関しては流行を取り入れたり、現場で臨機応変に対応したりと、柔軟性の高い業界です。
一方で、DXの文脈になると、ITリテラシーの差が大きかったり、新しい仕組みに対して慎重になりやすかったりする部分も一から丁寧に説明しながら、相手の不安に寄り添い、伴走していく姿勢を大切にしています。
妻と3人のスタッフを守るために――鈴木氏のキャリアと起業の原点
——鈴木さんがこの道を選んだ最大の理由は何ですか。
妻でありヘアメイクアーティストの松本 江里子、そして松本に師事していた3名(後に雇用社員となった初期メンバー)の生活基盤を守る必要性を感じたことが、事業を始める原点でした。
フリーランスは、会社員のように社会保険や休業補償といった保証がなく、将来への不安を抱えやすい働き方です。そうした現実について相談を受けたことが、「会社をつくろう」と決断するきっかけとなり、起業して今に至ります。業界全体を見ても、技術職であるがゆえに働き方が過酷になりやすく、結果として生活の選択肢が狭まってしまう現実があります。
だからこそ、この仕事に誇りを持つ人が、人生の選択肢を狭めずに働ける仕組みをつくりたい――その思いが、今の事業の原点です。
——事業の立ち上げは、どのように進んだのでしょうか。
今の事業は、前職で立ち上げ、運用検証を行っていた自社サービスを、新会社へ事業譲渡する形で展開しました。事業譲渡によって、サービス改善や運用体制の強化により集中できる環境を整え、成長スピードを加速させたいと考えたからです。
もともと開発理念は社内向けにスタートしたもので、業務の進め方そのものをオンライン運用に移行できる――その確信が出発点にありました。
特にオンライン化したかったのは、報酬の支払い方そのものです。従来の銀行振込では、金額や名義の確認、請求書の回収、稼働確認、送金作業など、多くの手間が発生します。そうした業務を、できるだけ人手に頼らず、仕組みとして回せる状態をつくりたいと考えていました。
一方で、ヘアメイク業界はDXに対してまだ慎重な空気もあり、新しい仕組みに挑戦すること自体に賛否が分かれる場面もありました。開発や運用の初期は、一から丁寧に説明し、理解してもらうところから始める必要があり、正直苦労した部分もあります。
ただ、運用を続けていくうちに、「この仕組みは自社だけで完結させるものではなく、同じ業界の他社にも使ってもらえるのではないか」と考えるようになりました。そこから、業界全体を巻き込みながら広げていく構想へと発展していきました。
「信頼は、日々の支払いでつくられる」――運営の要諦と、次に目指す景色
——業務委託の方々と、どう信頼関係を築いてきましたか。
ヘアメイク業界に限らず、取引において「お金」は重要な要素です。特に現場で働く側にとっては、金額以上に「いつ支払われるのか」が大きな安心材料になります。
この業界では未払い・支払い遅延の不安も少なくありませんが、支払いが滞らず、早く行われること自体が信頼につながります。
M’s Laboでは、サイト経由であれば最短5日で送金できる仕組みを整え、業務内容や稼働状況を迅速に確認することで、送金フローを止めない体制を構築しています。
請求業務を最小化する運用が、受託側の負担を減らし、安心して現場に集中できる環境につながっていると考えています。
——今後、どんな挑戦をしていきたいですか。
まず、今M’s Laboが運用できているのは、前職であるM’s株式会社の代表ならびに従業員の皆様の支えがあってこそだと感じています。
そのうえで今後は、現場紹介や報酬の受け取りにとどまらず、サービス内の「信用」と「継続」によって、自然に案件が回る仕組みを強化していきたいと考えています。
発注企業様には安心して任せられる環境を、ヘアメイクアーティストの方々には未払いの不安なく現場に集中できる環境を提供する。その両方を支えられるプラットフォームを目指します。
最終的には、「ヘアメイクの案件ならM’s Labo」と自然に思い浮かべてもらえる存在になりたいです。
——最後に、リフレッシュ方法や趣味を教えてください。
体を鍛えることやダイエット、サウナです。以前は67kgほどありましたが、今は60kg前後まで落とすことができました。
加えて、他業種で成功されている方のお話を聞くことも、自分にとって大きな刺激になっています。業界が違うからこそ得られる学びも多く、意思決定の考え方や物事の捉え方に気づかされることが多いです。